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名牝への道はいま始まったばかりと考えたい/オークス

  • 2017年05月22日(月) 18時00分


◆この秋どんなローテーションになるか注目である

 1番人気に支持された桜花賞は残念な3着だったが、高い評価を証明するようにソウルスターリング(父フランケル)が素晴らしい内容で完勝した。1番人気の桜花賞で敗退しながらオークスを勝ったのは、これで史上8頭目となった。遠い時代は別にして、ほぼ現在と同様の体系がととのった最近半世紀ほどに限ると、ほかに「1967年ヤマピット、1983年ダイナカール、1991年イソノルーブル、2005年シーザリオ、2008年トールポピー」がいる。

 現在の日本でもっとも大きなファミリーを発展させるダイナカール(父ノーザンテースト)を筆頭に、みんな現在につづく著名牝系の繁栄に大きな影響を与えた牝馬ばかりである。

 今回のソウルスターリングの日本のクラシック快勝は、父が世界のホースマン注目のフランケル(14戦不敗の歴史的名馬)であり、また、母が名牝スタセリタ(仏ディアヌ賞、ヴェルメイユ賞など18戦10勝。米芝牝馬チャンピオンでもある)であるから、世界の競馬関係者、ファンに共通の喜びをもたらす素晴らしいニュースである。かつ、さまざまな点で重要なことだった。

 社台ファームの生産したオークス馬は、ベガ、エアグルーヴなど実に11頭目になるが、オーナー名義が会員参加の(有)社台レースホースとなると、1983年のダイナカール以来だという。持ち込み馬ソウルスターリングには、サンデーサイレンスの血がどこにも入っていない。巨大な牝系の起点の1頭となるダイナカールを直系の牝祖に持つ馬は、なんと数百頭にも達しているという数字がある。やがて30〜40年後のソウルスターリング(の評価)は、きっとダイナカール(出発は輸入牝馬パロクサイド)のような起点の牝馬となっていることだろう。

 ソウルスターリングは阪神JFを勝ち、チューリップ賞を制し、大目標とした3度目の阪神遠征の桜花賞で3着にとどまった。期待の牝馬がまず桜花賞を目標とするのは、やがて広がる未来を展望したときに当然であり、桜花賞とはそういうレースである。そこを負けたソウルスターリング陣営には、藤沢調教師を筆頭に、大変な重圧がかかったことが推測される。でも、ソウルスターリングは健康でタフだった。今回のオークスの仕上がりは、次に待っているのは下降カーブしかないと思えるほど素晴らしいものがあった。

 生産・育成の社台ファーム関係者と、藤沢厩舎のスタッフと、もうすっかり日本人化したC.ルメール騎手の、総力結集の価値あるGI制覇である。ファンもみんな知っているように社台ファームは近年、かなり不振に陥っている。世界のホースマン垂涎のソウルスターリングが、魂をゆさぶるような牝馬に成長し、社台ファームを代表するファミリーの起点になることを期待したい。

 東京の2400mをオークス史上2位の2分24秒1(レース全体のバランスは、1分14秒0-1分10秒1)は、ほかのレースもほとんどスローで展開したから目立たないが、「超高速の芝コンディション」のなかでの、スローの後半勝負だった。後半の1000mはスプリント戦並みの「57秒8」であり、最初から差しタイプの出る幕はなかった。中団以降に位置した馬は、たとえ後半の1000mを56秒台で乗り切っても画面に映らないくらいの馬場とペースである。

 ソウルスターリングはこれで、さまざまなビッグレースを視野に入れていい立場に立った。掲げる展望は大きいはずで、3歳牝馬同士の「秋華賞」ではないような気もする。2000mの天皇賞・秋という選択も、ジャパンCを秋の最大目標にする手もある。ベストに近い距離は2000m前後ではないか、とみる記者が多かったが、この秋、どんなローテーションになるか注目である。名牝への道はいま始まったばかりと考えたい。

 これは、堅苦しい回顧ではないので、さまざまな視点に立ちたいが、「ソウルスターリング。母娘2代オークス制覇」というトーンのキャッチがあった。競馬は、レースを通じ、サラブレッドの往来を通して世界のみんなが楽しむものだから、固いことはいわれない。だが、「ダービー」といえば、英ダービーのことであり、イギリス競馬を規範にした国には、「ケンタッキーダービー」など、○○ダービーがいくらでもある。だが、そんなに一般語ではない他の3歳春のビッグレースの名称には難しいところがあり、△△オークスは少ない。△△ギニーも少ない。

 実際、日本の通称オークスは正式には「優駿牝馬」であり、日本ダービーも「東京優駿」として世界のカタログに載ることになっている。フランスには、ライバルであるイギリスのレース名のオークスとかダービーは最初から存在しない。ドイツにも独オークスはない。競馬の世界人はやさしいから、日本の「優駿牝馬」も、スタセリタの勝った「ディアヌ賞」も、通称その国のオークスで通じる場合があるが、だからといって、スタセリタ=ソウルスターリングは、「母娘そろって仏日オークス制覇」では、あんまりな表現ではないか、という気がしないでもない。

 フランスにオークスなどない。日本にも、実はオークスはない。桜花賞は、桜花賞であるのと同じこと。桜花賞と、英1000ギニーは別扱いである。フランスの3歳牝馬の春にも、1000ギニーやオークスはないが、「プールデッセデプーリッシュ」や「ディアヌ賞」がどうして「仏1000ギニー」「仏オークス」と訳されるのか、これを理解するのは、案外、難儀である。

 2着に健闘したモズカッチャン(父ハービンジャー)は、ずっと気負いが目立ち、テンションが上がりすぎているように映ったが、レースでは好スタートから終始ソウルスターリングをマークすることに成功。超スローでも折り合っていた。自身の上がり34秒1はソウルスターリングとまったく同じであり、坂下で勝ち馬が外に行った瞬間には、並んだように映ったが、そこから突き放されてしまった。フローラS組のレベルは高くないとされたが、この上がり馬には勝負強さと、きわめてタフな底力が備わっていた。ハービンジャー産駒のG1競走2着は、日本ダービーに出走するペルシアンナイトにつづいて2頭目。ハービンジャーは、サンデーサイレンスの血を持つ牝馬との組み合わせではなくても、十分にビッグレースで通用することを示す快走だった。

 アドマイヤミヤビ(父ハーツクライ)は、桜花賞の凡走は、結局、少し滑る芝で最初からカラ回りしたということか。今回の落ち着き払った馬体はさすがだったが、差しタイプの馬にとってはつらすぎるペースと、芝状態だった。この3着は枠順の差も大きい。

 以下は、コース取り、位置取りで残念な結果に終わったが、スタミナを問われたわけではないのに失速したグループは、休養を挟んでの立て直しが必要だろう。ソウルスターリングと比べる必要はないが、完調ではない馬が複数いたように映った。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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