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週刊サラブレッド・レーシング・ポスト

  • 2005年02月08日(火) 11時34分
 政府の温情ある介入によって一旦は収まるかに見えたイタリアの「賞金削減問題」が、いまだに揉め続けている。

 この時季、イタリアの競馬界が賞金問題で揺れるのは年中行事となっており、統括団体である「UNIRE」の方針に反対して現場関係者が開催をボイコットするという事態も、過去6年で2度起こっている。

 UNIREの財政が苦しいことは、関係各所も重々承知しており、元来はいずれの団体もある程度の賞金削減はやむなしとの姿勢を示していたのだが、2005年のシーズンに向けて打ち出したUNIREの賞金削減案があまりにもドラスティックだったことと、その打ち出し方が極めて唐突であったために、馬主も調教師も近年になく態度を硬化させているのである。

 1月初旬、UNIREは今季開催する主要レースの開催日程と競走条件を発表した。これによると、2000ギニーにあたるパリオリ賞と1000ギニーにあたるレジナエレナ賞は、いずれも総賞金が前年比15%ダウン。2冠目の伊ダービー、伊オークスはいずれも総賞金20%ダウンという、厳しいものだった。巷間囁かれていた噂は、平地競馬の賞金削減幅は14%から18%の間だろうというものだったから、関係者にとってみれば予想以上にシビアな予算削減だったのである。

 馬主や調教師を更に驚かせたのが、発表された伊オークスの日程だった。UNIREの公表したカレンダーによると、今年のオークス施行日は6月18日。昨年のオークスはダービーと同日の5月23日だったから、従来よりも一ヶ月近く開催が遅くなることになる。かねてからUNIREは、オークスとダービーを切り離したいという意向を表明していたから、そのこと自体は大した驚きではなかったのだが、問題はその発表の仕方にあった。クラシック体系の変革という、競馬関係者にとって極めて重大な事実を、馬主も調教師も、UNIREが新聞や雑誌に掲載した一般向けの広告で初めて知るところとなったのである。

 事前に何の相談も通告もなく、寝耳に水でオークスの日程を一ヶ月近くずらされては、馬主も調教師も黙っているわけにはいかない。ここに至って、両団体ともに一気に態度を硬化させたのであった。

 事態を重く見た監督省庁の農業省は、1月31日、UNIRE、馬主、生産者、調教師、競馬場所有者の代表を招集し、事態打開のための会議を開いた。この場で政府は、特別措置として2000万ユーロを賞金予算に注入することを提案。財源としては、1500万ユーロが農業省の独自予算からの拠出、500万ユーロが宝くじを始めとしたその他公営ギャンブルから拠出するという案を持ち出したのである。この資金投入によって賞金総額の削減幅は、当初予定されていた20%から9%に縮小されることになった。

 競馬サークル側としては、注入された資金をいかに配分するかという問題は残されたものの、事態は収拾に向かうかと思われたのだが、その後の動きを見ていると、どうもそうではなさそうなのだ。というのも、調教師団体などが今もって、開催ボイコットに出る可能性をちらつかせているのである。

 状況が今後どう動くか、注意深く見守りたいと思う。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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