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最高の能力発揮に全神経を集中できたサトノアラジン/安田記念

  • 2017年06月05日(月) 18時00分


◆ツボにはまれば…の自分の形を持っている馬は侮れない

「日本ダービー」を頂点に6週連続のG1シリーズの最終戦は、締めのレースらしい厳しいレースになった。古馬牝馬のヴィクトリアマイル→3歳牝馬のオークス→日本ダービーと3戦連続してゆったりのスローペースがつづいたあと、一転、マイルのチャンピオンを目ざした古馬トップクラスの作りだした流れは、前後半の半マイル「45秒5-46秒0」=1分31秒5。2012年のレースレコード1分31秒3に次ぎ、ロードカナロアが激走した2013年と並び、レース史上2位タイの高速決着となった。

 外枠から徐々にピッチを上げるように先手を奪った昨年の勝ち馬ロゴタイプ(父ローエングリン)が、自身は1000m通過「57秒1-上がり34秒4=1分31秒5」でクビ差の2着。

 一方、最後方近くにいたサトノアラジン(父ディープインパクト)の中身は「58秒0-上がり33秒5=1分31秒5」で外から差して1着。先手を主張してインぴったりを粘ったロゴタイプと、一番外に出して追い込んだサトノアラジンが小差の1着、2着になったから、どの馬にも基本的にレースの流れの有利不利はなく、コース選択(枠順)の有利不利も少なかったことになる。

 当然、鮮やかに勝ったサトノアラジン以外の17頭にはそれぞれ敗因があるが、それは馬場コンディションや、レースの流れなど、主敗因を他に転嫁できるものではなく、もちろん、抜け出そうとしたスペースが狭くなったなど、多頭数ゆえの残念な理由はあるが、今回は「力及ばずに近かった」、あるいは「快走した馬が強かった」など、ストレートな敗因になったのは頂点のG1とするとすがすがしいものがあった。

 安田記念が前半「45秒前後→57秒前後→」の厳しいペースになるのはごく一般的であり、2011年から3年連続ハナに立ってレースを先導したシルポート(父ホワイトマズル)のペースがそうだった。《今年の新種牡馬シルポートの血統登録された産駒は16頭にとどまるが、5月14日の佐賀競馬のダート900mを、牝馬ザワールドが2秒1差で新馬勝ちしている》

 シルポートの3年連続の逃げは、順に1000m通過「57秒0→56秒3→57秒0→」であり、このペースで安田記念を飛ばしては逃げ切れない。ハイペースだからというのではなく、このペースで先導して坂まで粘ることにより、ライバルの秘めているスピード能力を引き出す役目を担ってしまうからである。

 それを考えると、45秒5→57秒1→で飛ばして寸前まで勝ったと思わせたロゴタイプの地力には素晴らしいものがある。さすが、昨年の勝ち馬であると同時に、13年の皐月賞を1分58秒0(当時のレコード)で勝った総合スピードを誇るG1馬である。ゴール寸前50mくらいまでは逃げ切ったかと思えた。

 サトノアラジンはロゴタイプとは逆に追い込み一手。なまじ途中で動いては切れがなし崩しになることが多く、決め打ちに出るしかないが、流れが速かった今回は後方の3〜4番手でなだめて追走することができた。さまざまな距離に挑戦してきたが、最近はずっと7〜8ハロン戦にマトを絞っていたから、サトノアラジン自身がマイルの流れを好む馬に成長したのだろう。コンビの川田将雅騎手のコース取りもさえていた。4コーナーでやおら大外へというコース取りではなく、絶妙のカーブで一番外に回れたから、あとは他馬とは関係なく一直線に突き進むだけ。川田騎手の最大の持ち味が全開するパターンにはまった。

 サトノアラジンも、ロゴタイプも、勝つ時と負ける時の落差の大きい馬で、いつも能力全開とはいかない。しかし、今回の安田記念のように100点満点では不足で、130点ぐらいの能力を爆発させた馬にチャンスが訪れるような究極のレースだと、ツボにはまれば…の自分の形を持っている馬は侮れない。今回、他馬に左右されることなく自身の最高の能力発揮に全神経を集中できたのがサトノアラジン(川田騎手)と、ロゴタイプ(田辺騎手)だったろう。

 4週連続のG1制覇がかかったC.ルメール騎手のイスラボニータ(父フジキセキ)は落ち着いて素晴らしい状態だった。ルメール騎手も「とても良かった、元気だった」と振り返るくらいで、位置取りも予定通りだったと思えるが、ちょっとだけ道中行きたがったかもしれない。直線、いつ追い出すのかと思えたが、負の女神に引きこまれたように前にスペースがなく、ねじ込む騎手ではないから待つだけ待ったが、パトロールビデオで確認すると、追えたのは勝敗の帰趨がみえたあとのことだった。

 不完全燃焼はたしかだが、包まれて突っ込む場所がないときのクリフトフは、「ええぃ、どうなっても…」という騎乗はしないから、信頼されるC.ルメールである。破れかぶれで目を塞いで突っ込むような、まあ、だれもそんな騎乗はないが、まったくそういうふうには育っていないから仕方がない。

 驚いたのは3着に突っ込んだレッドファルクス(父スウェプトオーヴァーボード)。絶好調は間違いない。ストライドが弾んでいた。1600mは2歳時に1戦(1分38秒2)あるだけ。未経験にも近く、前回東京の1400mをこなしたとはいえ、あれは超スローだった。いかに好調でも苦しいかと思えたが、あと一歩の3着は驚異的に素晴らしい。それでも寸前は同じ脚いろに鈍ったから、ベストは1600mより短い距離なのだろうが、東京のマイルを58キロ・1分31秒6(上がり33秒7)で乗り切った馬に、マイルは…などともういえなくなった。

 エアスピネルは、いつものように好位追走ではなく控えて末脚勝負に出たのは予定通りと思えるが、流れが速すぎて3コーナー過ぎでサトノアラジンより後方になったのは誤算か。それでも逆に脚は残っていたが、イスラボニータとそっくり同じで、狙ったところにまったくスペースが生じなかった。だが、詰めの甘さが前面に出てしまう正攻法の好位差しではなく、追い込み策も可能なことが分かったのはプラスだろう。

 香港勢は健闘したが、ビューティーオンリーの前走比マイナス18キロ、コンテントメントのマイナス16キロ(昨年と結局同じ500キロの馬体重)はどういう理由なのか良くわからない。輸送で減った分くらいは回復するはずなのだが…。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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