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この勝利で秋のビッグレースを展望できる立場となった/七夕賞

  • 2017年07月10日(月) 18時00分


◆狙いの1戦に『物足りなさがあった』マルターズアポジー

 珍しくフルゲート割れの落ち着いた頭数だったが、ローカル重賞にしては前半からきびしいハイペースで展開し、勝った4歳牡馬ゼーヴィント(父ディープインパクト)の1分58秒2は、2015年に更新されたグランデッツァ(父アグネスタキオン、現在種牡馬)のタイムと並ぶレースレコードタイ記録だった。

 ゼーヴィントの母はシルキーラグーン(父ブライアンズタイム)。名前と血統から推測できるように(有)シルクレーシングを代表するファミリーの期待馬であり、3代母はアサーティブプリンセス、4代母がパシフィックプリンセス。

 一族を代表するビワハヤヒデ(父シャルード)、ナリタブライアン(父ブライアンズタイム)、ビワタケヒデ(父ブライアンズタイム)兄弟の母はパシフィカスであり、祖母がパシフィックプリンセス。種牡馬キズナの場合も、祖母がパシフィックプリンセス。ファミリーはますます発展し、もう4代母にパシフィックプリンセスが登場する時代になったが、ゼーヴィントはー族の大発展の基盤になった種牡馬ブライアンズタイムの名前が母の父に登場し、そこに現代のディープインパクトという組み合わせ。さらにファミリーの発展を約束させる血統背景をもつ期待馬である。

 今回は、脚部不安のため1月のAJCC以来の出走。直前まで太め残りを心配されたが、追い切り後の入念な調整に成功。珍しく気負ってかなりチャカついていたが、速い流れを追走する形になったことにより、折り合いの心配が生じなかった。4コーナーを回るあたりでは手ごたえは良くなかったが、マルターズアポジー(父ゴスホークケン)の作ったハイペースを、マイネルフロスト(父ブラックタイド)が早めに捕らえに出たため、レースの最後は大きく鈍って「11秒9-12秒9」。

 先行タイプも、差し馬も最後はみんなが苦しくなり、最後方から大外を回って突っ込んできたスズカデヴィアス(父キングカメハメハ)さえ最後は同じ脚いろになる苦しい展開だった。

 1分58秒2のタイレコードで抜け出したゼーヴィントの上がりは「36秒1」。2015年に先行して抜け出し4コーナー先頭の前出グランデッツァの上がり3ハロンは「34秒3」である。同じ走破タイムでも、著しくペースが異なる。

 自身も苦しくなりつつ抜け出したゼーヴィントは、これで福島【2-1-0-0】。しかし、福島巧者にとどまるわけもなく、17頭立てだった1月のAJCC(G2)2200mを小差2着しているから、このあとは慎重なローテーションで秋のビッグレースを展望できる立場となった。サマーシリーズ2000が目標ではなく、まだ通算10戦【4-3-1-2】の4歳馬。「脚元に不安を抱える」死角はあっても、もっと上を目ざすことになるだろう。重賞競走1着、2着、2着、2着、1着。相手が強化してもまず崩れない素晴らしい勝負強さがある。

 3コーナー過ぎで先頭を奪い、0秒1(4分の3馬身)差2着のマイネルフロストは残念だったが、決してハナは譲らないマルターズアポジーをマークし、マルターズアポジーの逃げを味方に(利用)して抜け出す作戦に成功。直線の中ほどまでこのまましのぎ切れるか、という形になったから、仕方のない2着か。マルターズアポジーの逃げにより、レースの前後半1000mは「58秒0-60秒2」=1分58秒2。もし、前半1000m通過58秒5〜59秒0くらいのペースだったら、マルターズアポジーも簡単には音をあげず、つれてマイネルフロストの抜け出しももっと遅くなった可能性はあるが、そうなるとマイネルフロストを目標にレースを進めていた先行差しタイプにとって理想の流れであり、切れる馬が浮上する。マイネルフロストのスパートは結果からすると早かったが、それはあくまで結果論。強気に勝ちに出たのだから陣営も納得だろう。

 ブリンカーを装着して以降、小差の2着、3着、2着。勝ち星こそないが、完全に復調し、日本ダービーを3着した当時の輝きを取り戻している。こちらは勝ったゼーヴィントとは異なり、ローカルコースが主体となるサマー2000シリーズに合っている。3走前の新潟大賞典はクビの上げ下げで惜しい鼻差2着。いまのデキなら次走の好走も必至と思える。

 飛ばしたマルターズアポジーは、最初にフェイマスエンドに競られたこともあるが、気合を入れるとかかり気味になってしまった。休み明け、2週前くらいまで仕上がりしだいでは「函館記念ではないか?」といわれたあたり、気のいい先行馬なので最後の1〜2週で不満のない状態に仕上がったものの、狙いの1戦に文句なしの仕上がり、というほどではない物足りなさがあった。スローの逃げも、小倉大賞典1800mのように前半1000m通過57秒台のハイペースもこなせる自在の逃げ馬だが、1400m通過「1分21秒6」の地点でもう苦しくなり、マイネルフロストに交わされると完全に失速してしまった。

 伏兵ヴォージュ(父ナカヤマフェスタ)は、ここが格上がりの一戦。前2戦は高速馬場の恩恵を受けた速い時計であり、きびしい流れで、レースレコードタイで勝ち負けしたグループとは、強敵と対戦した苦しいレースの差で見劣った。小回りゆえ、ライバルに外からプレッシャーを受ける流れに対応できなかった。

 速い流れで後方一気の決め打ちに出たスズカデヴィアス(父キングカメハメハ)は、「夏場に弱いので、いつもはこの時期に使っていないが、今年は幸い涼しいので…」というレース前の陣営のコメントがあったが、福島の土曜日は「35.8度」、日曜日も同じように極度に暑い時間に見舞われ、急に「夏バテ気味だった」とされる。ちょっと置かれすぎたのは確かだが、大外から伸びかけた直線、もうあまり余力がない印象があった。

 3着ソールインパクト(父ディープインパクト)は、軽ハンデ、もまれない外枠の利があったが、自己最高タイムを1秒近くも短縮しての善戦。過信はできないものの、時計勝負の平坦に近いコースは合っている。自己条件の1600万なら狙っていい。一番苦しいゴール前で伸びた。

 5歳タツゴウゲキ(父マーベラスサンデー)の前走の1800m1分44秒7は、下級条件の馬もすごい時計で乗り切った馬場状態のもので、明らかに苦しいとみえた。しかし今回のレースでは詰まって一度後退しながら、馬込みの中を6着まで盛り返してきた。オープン馬相手の経験がほとんどなかったことを考慮すると、この内容は立派。次の1600万下なら勝ち負けか。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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