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気鋭の競馬ライター

  • 2017年07月29日(土) 12時00分


 あれから1週間以上経ったのに、まだ山野浩一さんが亡くなったという現実を受けとめ切れていない。JRA賞授賞式や、ジャパンカップ当日の馬事文化賞受賞者の招待席に、これからもニコニコしながら座っているのではないかという気がしている。

 山野さんについて記した前回、最後のほうに「私も、自分が死んだとき、こうして追悼文を書いてくれる後進が現れるよう頑張りたい」と記した。追悼文を書いてくれそうな候補として、まず思い浮かんだのは、フランス在住の競馬ライター・沢田康文君だ。

 沢田君は1984年生まれだから、私よりちょうど20歳若い。大学時代から「スポーツニッポン」で競馬関連の記事を書き、2008年に渡仏。パリをベースに取材・執筆活動をつづけ、「優駿」「ナンバー」「週刊ギャロップ」「サンケイスポーツ」などに寄稿している。

 渡仏前、面識はなかったのだが、沢田君は私宛てにメールをくれていた。そんな彼と初めて話をしたのは、メイショウサムソンが出走した凱旋門賞を取材したとき……ではなく、ナカヤマフェスタとヴィクトワールピサが出走した2010年の凱旋門賞の調教取材の場だった。

 物書きにとってのテーマは、「何をどう書くか」だけなので、その「何を」の部分で、フランスに住むことで独自性を持つことは大きなアドバンテージになる。そして、売れるかどうかは掛け算で、自分の持っている数値が「1」の人は、100回メディアに出てようやく「100」の知名度を得られるだけだが、もともと持っている数値が「50」の人は、2回出るだけで「100」になる。フランスに住むことは、そのもともとの数値を大きくするのに役に立つだろう――といった話をした。

 以来、フランスばかりでなく、日本、アメリカ、ドバイなど、いろいろなところで会うようになった。

 彼は、軸足をしっかり据えた人ならではの視点で、なかなかいい文章を書いている。

 今週の「週刊ギャロップ」の連載「EUフロントライン」では、クリストフ・スミヨン騎手がGI通算100勝を達成したことをとり上げていて、面白かった。オリビエ・ペリエ騎手を上回るスピードで、GI初勝利から16年ほどで到達したという。GIを年平均6勝以上してきた計算になり、日本に比べ、他国のGIにも騎乗しやすい環境とはいえ、とてつもないハイペースだ。また、GI100勝のなかに2つの障害競走が入っているのもすごい。

 こんなふうに、普通に話のタネになるものを書くのは(特に海外ネタの場合)実はとても難しいのだが、きちんとやっている。そのうち、海外競馬リポートの第一人者になるだろう。

 そんな沢田君と先日連絡をとり合ったとき、以前ここに書いたフランスの3歳馬アキヒロの命名について教えてくれた。

 彼は、5月にフランスのレーシングマネージャーに訊いてくれていた。「命名は米国在住のオーナーが全頭行っているそうで、毎世代何十頭もいるために、そのすべての命名の理由をフランスの現場では個別には把握されていないというお話でした」とのこと。しかしながら、オーナーが美輪明宏さんをテレビで見て、それがきっかけでアキヒロと名付けたという説があるという。

 ありがとう、沢田君。忘れてしまったのか、なんて書いて申し訳なかった。ついでに、ずっと先のことになってほしいと思っているのだが、追悼文も頼みます。

 さて、今週末から、千年以上の歴史を持つ世界最大級の馬の祭「相馬野馬追」が開催される。

 東日本大震災の年から取材をしているので、今年が7回目になる。

 リポートは、来週以降、ここに掲載したい。今、野馬追について書きはじめると、例によって前置きだけでも長くなりそうので、自重する。

 週刊天気予報を見ると、週末の浜通りは連日傘マークがついている。できれば、降るのは朝晩だけにして、行列や甲冑競馬、神旗争奪戦のときは陽が射してほしい。そういえば、去年も冷たい雨が降り、野馬追取材をして初めて「寒い」と思った。今年もそうなるのだろうか。馬にとってはそのほうがいいのだが……と、書き出すと本当にキリがないので、このへんで。

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作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナーのポートレート撮影は桂伸也カメラマン。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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