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ベテラン騎手の判断がさえわたった勝利/クイーンS&アイビスSD

  • 2017年07月31日(月) 18時00分


◆横山典弘騎手の絶妙のペース判断によるものだった

 馬の能力に、ベテラン騎手の思い切りの良さが重なった痛快な「快勝」が連続した。

 札幌の「クイーンS」を2番人気で逃げ切った3歳牝馬アエロリット(父クロフネ)は、開幕週の芝コンディションと、負担重量52キロの利を最大限に生かし切った、横山典弘騎手(49)の絶妙のペース判断によるところ大だった。

 他がハナを主張する気がないとみるや、コーナーワークを利して主導権を握ると、スタート直後の「12秒2」のあと、5ハロン連続して11秒のラップをつづけてペースを落とさず、後続がスパートしてきた3コーナーから「12秒1」。ちょっと引きつけて(バテたか?)、少し気をもたせたあと、再びピッチを上げて最後は「11秒5-11秒9」。レース全体は「46秒8-(11秒5)-47秒4」。バランス抜群の緩みない流れを作ってコースレコード、ならびにレースレコードタイの「1分45秒7」だった。

重賞レース回顧

横山典弘騎手の絶妙のペース判断で優勝したアエロリット(C)netkeiba


 春のNHKマイルCの1600mも1分32秒3(自身の推定前後半は46秒2-46秒1)で早めに先頭に並びかけているから、スピード色の濃いマイラータイプが本質と思えるが、別に行きたがっていたわけではない。「やはりスピードがある。気持ちを損ねないようになめらかに…。ペースは速いとは感じなかった(横山典弘騎手)」。3歳牝馬で初の古馬相手の1800mを完勝したから、10月15日の「秋華賞」京都2000mに挑戦することになるだろう。今回と同じコーナー4回の内回り。初の2000mが大きな死角となることはないように思える。

◆直線1000mの西田騎手はさえわたる

 新潟の「アイビスサマーダッシュ」を、ゴール寸前の猛スパートで一気に差し切ったのは7歳牡馬ラインミーティア(父メイショウボーラー。母方はビンゴガルーの一族)。騎乗していたのは、新潟の直線1000mというならこの男、西田雄一郎騎手(42)だった。ラインミーティアとは今年になってからコンビを組み、ここまで4戦連続し新潟の直線1000mに出走。

 連闘の重馬場で落鉄していた5月の1600万特別は別に、54秒5で勝った1000万特別も、54秒6で4着だったオープンの韋駄天Sも、自己最高の54秒2を記録した今回も、ラインミーティアの後半600mは同一の「31秒6」である。今回は先行グループのペースが速かったから、中間地点で気合をつけるムチを再三入れながら、それでも後半のスパートで31秒6を記録したラインミーティアは素晴らしい。と同時に、直線1000mの西田騎手はさえわたる。

 アイビスサマーダッシュの勝ち馬で、後半3ハロン31秒6は初めてではなく、2003年のイルバチオが上がり31秒6(勝ちタイムは今回と同じ54秒2)で差し切った記録はあるが、いまの新潟の芝は改修直後ほど高速ではない。それを考慮すると、ラインミーティアの今回の中身はアイビスサマーダッシュ史上に残る特殊なスプリント(後半のダッシュ)記録として残るだろう。

重賞レース回顧

素晴らしいラスト3ハロンを記録したラインミーティア(撮影:下野 雄規)


 西田騎手は2010年、ケイティラブ(父スキャン)でこのレースを「53秒9」の好時計で逃げ切っている。このときは前半の400mを21秒5(11秒6-09秒9)で飛ばした。思い切りのいい西田騎手は、後半だけに1000m特有の感覚を働かせているわけではない。53秒7のレコードを保持するカルストンライトオ(21秒8-後半31秒9)など、前半21秒台のダッシュを利かせて快走した馬はほかにも少数いるが、アイビスサマーダッシュの勝ち馬として、前半400mを史上最速の「21秒5」で逃げ切ったことがあり、その一方、アイビスサマーダッシュの勝ち馬として史上最速タイの上がり「31秒6」を叩き出しているのも西田雄一郎騎手なのである。

 今回の54秒2で、アイビスサマーダッシュの勝ちタイムは6年連続「54秒1〜54秒3」に集中することになった。うち逃げ切りは13年のハクサンムーンの54秒2(22秒3-31秒9)だけ。

 みんなが直線1000mは前半あまりダッシュしない方が好結果をもたらすことを知るようになったなか、今年、前半から強気に(実際はなだめながらだが)先頭に立ってレースを進めて2着惜敗のフィドゥーシア(父メダグリアドーロ、母ビリーヴ)の前後半バランスは「21秒8-32秒4」=54秒2だった。最後の200mは11秒7。少しだけ鈍って首だけ差されたが、近年の芝状態の中では価値ある記録である。

 11年、エーブダッチマンで飛ばして「21秒8-32秒3」=54秒1。残念な2着にとどまったことのある石橋脩騎手なので、ムリに先頭に立とうとしたわけではないが、フィドゥーシアはこのきついラップで楽々と先頭を奪い、道中は余力十分だった。今回が直線1000mはまだ2戦目。結果はキャリアの差も重なって寸前に逆転されたが、5歳牝馬とはいえいまやっと本物になったところ。来季も現役にとどまるなら、来年は今年以上に勝機は高いだろう。

 同じことは3歳牝馬レジーナフォルテ(父アルデバランII)にもいえる。「21秒9-32秒5」=54秒4は、両隣りに古馬の牡馬がいて、同じようなラップで先行してきたから数字以上にきつかった。軽量51キロだからの好内容ではない。22秒0で行った2歳時は後半33秒0に鈍って「55秒0」だったが、今季はこの相手に後半32秒5。数字通りの地力強化である。直線1000mのチャンピオン級に育って不思議ない。

 注目したアクティブミノル(父スタチューオブリバティ)は、「21秒8-32秒7」=54秒5。

 軽快なダッシュをみせ小差4着たが、トップクラスの快速馬ながら微妙な緩急のペース変化に対応できるエンジンは搭載してなかった。このタイプは最終的には行くしかなく、ほかの短距離戦ならカバーできても、ハイレベルの直線1000mには合わないタイプなのだろう。また、ネロ(父ヨハネスブルグ)もそうだったが、馬体重以上にまとまった身体つきで迫力がなかったあたり、この2頭は完調にはなにかが足りなかった。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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