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アメリカで芝向きの馬を集めたセール「ターフ・ショーケース」がスタート

  • 2017年08月09日(水) 12時00分


◆近年はターフサイヤーのラインナップが、かつてないほど充実している

 創業以来100年以上の歴史を誇る、アメリカにおける競走馬オークションカンパニーの老舗「ファシグティプトン社」がこの秋、拠点のケンタッキー州レキシントンで、新たな1歳馬セールをスタートさせる。9月10日(日曜日)に開催される「ターフ・ショーケース」が、その新設市場である。

 その名称からもおわかりいただけるように、新設市場のコンセプトはずばり、血統面と馬体面の両方を吟味した上で、芝向きの馬を集めることにある。

 アメリカ競馬の主戦場は、言うまでもなくダートだ。3歳3冠も、シーズンの総決算となるブリーダーズCクラシックも、最高賞金競走のペガサスワールドCも、舞台となるのはすべてダートである。

 そんなアメリカで、画期的ともいえる事変が起きたのが、2013年だった。この年、全米リーディングサイヤーとなったのは、キトゥンズジョイ(その父エルプラド)だったのである。G1ジョーハーシュターフクラシック(芝12F)、G1セクレタリアトS(芝10F)など芝の重賞を7勝し、2004年の全米ターフチャンピオンに選出されたのがキトゥンズジョイである。そして2013年、産駒のビッグブルーキトゥンがG1スォードダンサー招待S(芝12F)など芝のG1・2勝、リアルソリューションがG1アーリントンミリオン(芝10F)を、アドミラルキトゥンがG1セクレタリアトS(芝10F)を、ステファニーズキトゥンがG1ジャストアゲイムS(芝8F)を、キトゥンズダンプリングスがG1クイーンエリザベス2世CCS(芝9F)を制するなど、産駒たちが軒並み芝の主要競走を制し、2位のスパイツタウンを僅差で抑えて、サイヤーランキングの首位に立ったのだ。アメリカにおいて、ターフサイヤーが頂点に立つという、まさに驚天動地の出来事が起きたのである。

 これが呼び水になったのか、近年はアメリカにおけるターフサイヤーのラインナップが、かつてないほど充実している。

 その一助となっているのが、アイルランドのクールモアスタッドで、本質はターフホースであっても、戦績や血統のどこかに、アメリカの生産者にアピールする特質をもっている馬を、クールモアのアメリカ支所であるアシュフォード・スタッドで種牡馬入りさせるケースが増え、そのいずれもがなかなかの人気を博しているのだ。

 ここを好機と捉えたのがファシグティプトン社で、馬産地の現在の状況を鑑みれば、それほど無理をすることなく芝向きの馬を集めることが可能で、そうした市場の開催を実現すれば、ヨーロッパや日本からバイヤーが参集する、新たなマーケットの開拓が可能との判断があった模様だ。

 その上場馬名簿が先週発表になり、記念すべき第1回「ターフ・ショーケース」には、171頭の1歳馬が上場を予定している。最低でも150頭は集めたいというのが、ファシグティプトン社の当初の目論見だっただけに、頭数的にはまずまずの品揃えとなった。

 171頭の中には、母が重賞勝ち馬か、もしくは、重賞勝ち馬の弟妹にあたる馬が、20頭近く含まれており、内容的にも充実したものとなっている。

 上場馬の種牡馬のラインナップを見ると、前述した13年の全米リーディングサイヤー・キトゥンズジョイの産駒が7頭上場されるのが、まず目につく。G1ケンタッキーダービー(d10F)を制している以外に、芝のG1BCマイル(芝8F)2着の実績もあるアニマルキングダムの産駒が5頭。ヨーロッパで走り、G1クイーンアンS(芝8F)やG1インターナショナルS(芝10F88y)を制したデクラレーションオヴウォーの産駒が13頭。現役時代に芝1マイルのワールドレコードを樹立しているイルーシヴクオリティの産駒が5頭。G1BCターフ(芝12F)を含めて芝のG1を6勝し、2007年の全米ターフチャンピオンに選出されたイングリッシュチャネルの産駒が7頭。

 芝のG1を7勝し、2009年・2010年と2年連続で全米ターフチャンピオンに選出されたジオポンティの産駒が6頭。愛国でG1愛二千ギニー(芝8F)、米国でG1BCターフ(芝12F)と、欧米を股にかけてG1制覇を果したマジシャンの産駒が7頭。フランケルの全弟という超良血馬で、欧州でG1チャンピオンS(芝10F)など3つのG1を制したノーブルミッションの産駒が13頭。2006年のG1BCターフ勝ち馬レッドロックスの産駒が5頭。自身はダートホースだった一方で、父としてはヨーロッパにおけるG1勝ち馬も出しているスキャットダディの産駒が5頭、G1ハリウッドTCS(芝12F)2着馬で、産駒からG1メイトリアークS(芝8F)など芝のG1を3勝している現役馬ミステンプルシティが出ているテンプルシティの産駒が18頭いるなど、いかにも芝向きのラインナップとなっている。

 個別の馬では、G1アベイユドロンシャン賞(芝1000m)を含む重賞7勝馬ベンボーンの半弟にあたる上場番号35番の牡馬(父ジャスティンフィリップ)。G1ターフクラシック(芝9F)を含む重賞5勝馬フィネガンズウェイクの半弟にあたる上場番号92番の牡馬(父メダグリアドロー)。G1イスパーン賞(芝1850m)を含む重賞3勝馬ラヴァーロックの半妹にあたる上場番号129番の牝馬(父アニマルキングダム)。母がG1英1000ギニー(芝8F)勝ち馬スリーピータイムという上場番号130番の牡馬(父ディストーテッドヒューモア)、母がG1メイトリアークS(芝8F)、G1デルマーオークス(芝9F)という2つのG1を含む重賞6勝馬トゥシャルマンという上場番号142番の牡馬(父アニマルキングダム)などが、購買者たちの注目を集めそうである。

 新設市場でどのようなマーケットが展開されるか、その結果に注目したい。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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