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人馬の縁、というもの

  • 2017年08月10日(木) 12時00分


◆縁を大切にしたからこその勝利

 テン乗りで勝利をつかむ、そこには人馬の縁を感じてしまう。おたがい縁があってこの世に生まれ、縁があって人とのつながりを持っている。それは個人の思いを越えたもので味わい深いものがある。縁は、意志や希望を越えたものだからこそありがたく思え、大切にしようとするのではないか。競馬とて同じだと思う。

 レパードステークスで初めて手綱を取ったローズプリンスダムで、初重賞制覇を達成した木幡巧也騎手は、デビュー2年目。大本命エピカリスが馬群の中で動けず苦しむのを横目に、外に出してスイスイ脚を伸ばしていた。デビューした昨年が新人最多勝を記録しながら、今年は度々の騎乗停止処分を受け、苦しんでいた。「興奮しています、夢みたいです」とインタビューに応えていたが、その胸中は、痛いほどよく分かった。先行馬を見ながらずっと内にいて、追い出すチャンスをうかがっていたが、道中の手応えがよかったわけではなく、直線外に出て行ったときは、馬がすうっと動いてくれていて、今日は馬に勝たせてもらったと言っていた。

 ロスなく運べたことで最後の脚につながったのだが、外に道ができたのは運でもあり、その幸運をのがさずつかんだのは、初騎乗の縁を重賞でもらったことを、ありがたく大事に思ったからではないだろうか。ゴールをめざす人馬に、「ふりむくな、ふりむくな、後ろには夢がない」と、寺山修司のことばがこみ上げていた。

 小倉記念のタツゴウゲキは、負傷したデムーロ騎手の突然の代打になった秋山真一郎騎手での格上挑戦の重賞勝ちだった。これまた不思議なめぐり合わせ、縁あってのことと考えたい。秋山騎手にとっては、全く思いもよらない騎乗だったが、内枠だったので迷いなく3番手の内でロスなく運ぶことができていて、一瞬早くスパートした戸崎圭太騎手のサンマルティンを、最内をすくって馬体を併せ、最後はハナ差せり勝っていた。自己条件のレースを考えず、最初から小倉記念を目標にした陣営の判断が成功したのだが、代打騎乗というアクシデントを乗り越えたところに深い味わいがあった。ベテラン秋山騎手の執念とでも言おうか。

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ラジオたんぱアナウンサー時代は、日本ダービーの実況を16年間担当。また、プロ野球実況中継などスポーツアナとして従事。熱狂的な阪神タイガースファンとしても知られる。

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