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見事な成長力を示したマルターズアポジー/関屋記念

  • 2017年08月14日(月) 18時00分


◆今回の逃げは相当きびしいものになるだろうと予測されたが…

 快速マルターズアポジー(父ゴスホークケン)の痛快な逃げが決まった。

 これで通算22戦【8-1-3-10】。デビュー以来ハナを譲ったことがない逃げ一手型らしく、勝つか負けるか極端な成績だが、16年福島記念2000m、17年小倉大賞典1800m、そして関屋記念1600m。これで重賞3勝となった。

重賞レース回顧

鮮やかな逃げ切りを決めたマルターズアポジー(撮影:下野雄規)


 福島記念は、前半1000m通過「61秒0」のスローの逃げ切り。小倉大賞典1800mは一転、1000m通過「57秒6」でブンブン飛ばしての逃げ切り。先行タイプのそろった今回の逃げは相当きびしいものになるだろう、と予測された。ところが、優等生のような楽な平均ペースだった。新潟1600mを1分32秒2は、現在のコースになって17年、順番は7位タイの標準タイムにとどまるが、回復の早い新潟とはいえ前日の雨の影響もあり、稍重にも近いところがあったから、史上5回も記録されている「1分31秒8」とほぼ同じ価値があるだろう。

 検討で触れたが、関屋記念の高速勝ちタイム2位タイの1分31秒8(5回も出現)は、「前後半46秒0-45秒8」-「1000通過57秒5-上がり34秒3」。

 これがレースの平均パターンであり、前後半のバランスからしてスローではなく、かといってきびしい流れでもない。高速の新潟を考えれば、他場では速いとされそうな1000m通過「57秒5」も、少しも速くないというモデルである。1000m通過57秒5のあとに残るのは、一直線に伸びる平坦600m。だから、重賞級のオープン馬はだれも止まらない。

 今回、鮮やかな逃げ切りを決めたマルターズアポジーの中身は、「前後半46秒6-45秒6」-「1000m通過57秒9-上がり34秒3」だった。

 他の先行馬も、差し=追い込み馬も、マルターズアポジーが例によって(小倉大賞典と同じように)、飛ばして速い逃げを打っているのではないか…と錯覚した時点で勝利は遠のいた。

 関屋記念としては「スロー」に相当するのが今回の流れであり、現に、後半800mのほうが前半800mより「1秒0」も速い。だから、マイペースのマルターズアポジーは、後半を「45秒6」でまとめることができた。馬場差があったぶん、最後の200mは12秒2と鈍ったが、もうそれは勝負の決したあと。見た目とちがって先行馬ペースだったことを裏付けるように、マルターズアポジーを追い詰めて2着したのは、差し=追い込み馬ではなく、2番手にいたウインガニオンである。

 近年の新潟1600mは、ハイペースはめったにない。でも、スローでも切れ味勝負型は持ち味を発揮できるコースである。ただ、この週の馬場は通常より追い込みの利きにくい芝だった。他にも先行タイプがいる中でのマルターズアポジーの逃げは、最初からきつい流れになると多くの陣営が身構えたら、実際は新潟1600m特有の決して速くないペースになっていたのである。

 父ゴスホークケン(その父バーンスタイン)は、母マルターズヒート(父オールドトリエステ)と同じく、藤田与志男(故人)、在子オーナー夫妻の所有馬だった。朝日杯FSを制したものの、当時の外国産馬にみられたように2歳時は3戦2勝のあと、3歳以降【0-0-0-12】だった。種牡馬にしたものの人気はなく、自身の所有馬への交配がほとんど。初年度からの血統登録馬は「5、3、3、0、4…」頭にすぎない。しかし、ゴスホークケンの初年度産駒マルターズアポジーは、見事な成長力を示したのである。オーナー夫妻の会心の自家生産馬である。

 それにしても、「必ず行く」というのは、ペースひとつで凡走の危険があると同時に、大変な決定力であり、とくにスローペース化が著しい近年では必殺である。

◆負けはしたが前回の中京記念より中身は一段と濃いウインガニオン

 2着ウインガニオン(父ステイゴールド)は、少し離れた2番手追走から「58秒5-33秒9」=1分32秒4。残った記録は新潟1600mとすると平凡だが、マルターズアポジーをみながら、後続のマークを一手に引き受けた苦しい2番手であり、勝ち馬を追い詰めながら、差してきたグループに最後まで交わされなかった。改めて絶好調を示すと同時に、負けはしたが前回の中京記念より中身は一段と濃いことを認めたい。

 3着ダノンリバティ(父キングカメハメハ)は、馬体重こそ同じでも引きしまった身体つきは前回よりずっと良かった。重賞は未勝利ながら、3歳時の毎日杯、レパードS、シリウスS、4歳時の関屋記念。ここまで芝、ダートを問わず2着が4回もあるオープン馬。通算成績【3-6-1-14】が示すようにジリ脚で詰めが甘い死角があり、とくに先行抜け出しを図るようになってから、もう1年半近く未勝利。勝ったマルターズアポジーとはまったくの逆タイプである。

 まだ5歳。いつか「好位につけて行ってくれ」の指示が正解に出ると考えたいが、追い込んでいた当時より一段と勝ちみに遅くなった印象がある。かなりつらいタイプである。

 4着ヤングマンパワー(父スニッツェル)は、さすが昨年の勝ち馬(1分31秒8)というところはみせたが、前走比16キロは、数字ほどではなくてもちょっと重め残りだったか。

 ダノンプラチナ(父ディープインパクト)は、10カ月ぶりながら見せ場のある5着。完全復活の手応え十分だった。ツメの不安が完治し順調になるなら、3歳秋の富士Sでサトノアラジン(ルメール騎乗)を一気に差し切った内容、大きなロスがありながらモーリスと0秒4差の香港マイルからしても、秘める資質はAランクのはずである。復活を期待したい。

 ロードクエスト(父マツリダゴッホ)は、今回の状態は素晴らしかった。いま4歳秋、これからまだ良くなるとも考えられるが、いや、もう底はみせた。そんな心配も大きくなってしまった。坂のない得意のはずの新潟で(新潟2歳Sは独走)、伸びを欠いたのはきびしい。

 最終的に1番人気になったメートルダール(父ゼンノロブロイ)は、キャリアが浅いせいか、力感あふれる力強いフットワークというより、まだ動きが荒っぽくムダが多すぎた。さらに、本物になるのはこういう高速レースのマイラーとしてではないように思えた。

 ブラックムーンは、パドックでどうにも誉め言葉を思いつかなかったが、川田騎手のコメントにあった「暑い時期はよくないのかもしれない」を聞き、あの止まり方はそうなのかと思った。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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