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アラブ競馬の生き残り

  • 2017年08月15日(火) 18時00分


◆門別の未勝利戦で目に留まった“母(アア)イケノエメラルド”

 地方競馬の2歳戦の結果は毎日すべてチェックしているのだが、そうするとさまざまに発見もあって、8月10日、門別第2レースの2歳未勝利戦に目が留まった。

 勝ったのはイケノコスモス。6馬身差の圧勝だが、JRA認定ではない一般の未勝利戦で、しかもデビュー4戦目ということでは、さすがにそのレースぶりが気になったのではない。あっ!と思ったのは、血統だ。

 母(アア)イケノエメラルド

 (アア)という表記は、ここ10年ほどで競馬を始めたという方には何のことやらという感じだろう。あとで説明するが、「アングロアラブ」の頭文字で「アア」。母イケノエメラルドということは、7月26日、大井のサンタアニタトロフィーを的場文男騎手で制し、同レース5年ぶりの勝利となったゴーディーの半弟だ。

 今はもうだいぶ昔のことになったような気もするが、地方競馬には2000年ごろまでアラブ系だけで競馬が行われている競馬場がいくつかあった。園田(姫路も)などは「アラブのメッカ」とも言われ、廃止されてしまったが広島県の福山競馬場もそう。日本一小さいと言われた島根県の益田競馬場もすべてアラブ系のレースだったが、サラブレッドが混じっていることもあった。

 日本のアラブ系の競馬で走っていたのは、ほとんどが、先に触れたアングロアラブという品種。純血のアラブ種にサラブレッドを交配し、アラブの血量が25%以上あるものを言う。具体的に説明すると、純血アラブの繁殖牝馬にサラブレッドの種牡馬を付けて産まれた仔は、アラブ血量が50%。これが牝馬だったとして、さらにサラブレッドの種牡馬を配合すると、アラブ血量がちょうど25%のアングロアラブとなる。

 アラブ種はスピードには欠けるが丈夫で長持ち。そして扱いやすい。これにサラブレッドを掛けてスピード能力を高めたものがアングロアラブと言われている。

 かつては中央競馬でもアラブ系のレースが行われていたが、1995年を最後に廃止。南関東でも90年代の初頭まではかなりの割合でアラブ系のレースが組まれていたが、2000年をまたぐあたりからアラブ系の番組が組まれなくなり、入厩もなくなると、その後は徐々に衰退した。

 そのアラブの競馬の終盤に活躍した牝馬がイケノエメラルドだ。名古屋、笠松、門別で重賞を6勝。その中にはサラブレッドと混合の重賞もあった。

 アラブの競馬が廃止されてもなお、引退したアラブの牝馬にサラブレッド種牡馬を交配し、サラブレッドではない「サラ系」として誕生して、サラブレッドと走る馬がわずかではあるものの存在した。

 そうしたサラ系も、今年9歳になるゴーディーでそろそろおしまいだろうかと思っていたのだが、その下の2歳がデビューして、しかも未勝利戦とはいえ勝ち星を挙げているのに、ちょっと驚いた。

 ゴーディーやイケノコスモスの母、イケノエメラルドは、昭和から平成にかけてのアラブ競馬の歴史を凝縮したような馬なのだ。

 その父、コノミテイオーは、アラブ3歳馬の全国交流、園田競馬場で行われていた楠賞全日本アラブ優駿を1994年に小牧太騎手で制した。さらにその父スマノダイドウは、80年代から90年代にかけてアラブのリーディング種牡馬に7度も輝いた。

 ちなみにスマノダイドウの兵庫での現役時代、断然人気のレースで負けたときに、園田競馬場では焼き討ち事件が起きたこともあり、このときの話は吉田勝彦アナウンサーから何度か聞かされたことがある。

 そしてイケノエメラルドの母の父キタノトウザイもまた、スマノダイドウとほぼ同時期に活躍したチャンピオン種牡馬。リーディングに輝くこと4回で、この時期はほとんどスマノダイドウとキタノトウザイで1位、2位を独占していた。

 そしてキタノトウザイの母は、アラブ史上最強牝馬といってもいいイナリトウザイ。大井のアラブダービーを制したあと、出走するはずだった当時の南関東のアラブ三冠の最終戦、アラブ王冠賞は、イナリトウザイがあまりに強すぎるとして回避馬が続出。頭数不足で不成立になってしまった。その代わりに出走したのが、今は交流のJpnIIとなっている1200mの東京盃だ。サラブレッドに混じってのレースゆえ49kgという軽量ではあったのだが、従来のサラブレッドのコースレコードを0秒6も更新する1分10秒5というタイムで勝利。鞍上は佐々木竹見さんだった。

 そうした血統背景をもって走っているのが、ゴーディーであり、今年2歳馬としてデビューして勝利を挙げたイケノコスモスでもある。

 20世紀のアラブ競馬のファンの方々には、あっぱれ!な話題でしょう。

1964年生まれ。グリーンチャンネル『地・中・海ケイバモード』解説。NAR公式サイト『ウェブハロン』、『優駿』、『週刊競馬ブック』等で記事を執筆。ドバイ、ブリーダーズC、シンガポール、香港などの国際レースにも毎年足を運ぶ。

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