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ダブルシャープのクローバー賞勝利で

  • 2017年08月22日(火) 18時00分


◆徐々に詰まってきた地方馬と中央馬の格差

 20日、札幌競馬場で行われた2歳オープンのクローバー賞で、ホッカイドウ競馬のダブルシャープが勝った。中団追走から4コーナーで馬群をさばいて直線で先頭に立つと、外から伸びてきた断然人気のタワーオブロンドンに一旦はアタマかクビほど前に出られたものの、ゴール前でもうひと伸びして振り切るという見事な勝ち方だった。

 中央・地方の能力に明らかに差がついた最近では、地方馬が中央に挑戦して勝つということも少なくなり、近いところで地方馬が中央のレースを勝ったのは昨年の札幌2歳Sを制したトラスト、2014年の京成杯を制したプレイアンドリアルくらいのもの。ともに当時は川崎の所属で、地方に所属したまま中央への挑戦を続ける岡田繁幸さんの所有馬。ホッカイドウ競馬の所属馬が中央で勝った記録となると、2012年に札幌のすずらん賞を制したシーギリヤガール以来、じつに5年ぶりのこととなった。

 中央・地方間の交流の門戸が大きく開かれたのが1995年のことで、当初はデビューが早く、レベルも高いと言われたホッカイドウ競馬の所属馬が、夏のJRA函館・札幌開催で活躍する姿がたびたび見られた。

 95、96年はまだ交流レース自体が少なく、夏の北海道シリーズ(当時は札幌→函館の順の開催だった)では、札幌(旧)3歳Sの前哨戦として行われていたラベンダー賞をそれぞれ北海道所属馬が勝ったのみだったが、以降は2歳馬、3歳馬併せて、97年には6頭、98年には4頭、99年にはじつに9頭、00年には7頭(いずれものべ頭数、北海道以外の地方馬も含む)と、当たり前のように勝っていた。当時はJRA北海道シリーズだけでなく、それ以外の中央の競馬場でも毎年地方馬の何頭かが勝利を挙げていた。しかし2000年代に入って数年が経過すると徐々に中央馬と地方馬の能力差が顕著になって、地方馬が勝つシーンは徐々に見られなくなった。

 理由はいくつか考えられる。90年代は、JRAの北海道シリーズでは有力馬がデビューすることが少なく、対して4月から2歳新馬戦が始まるホッカイドウ競馬とでは経験の差が大きかった。地方馬が勝てなくなった決定的な理由としては、かつて中央競馬では夏の北海道シリーズの開催から2歳新馬戦がスタートしていたのが、2012年からは日本ダービーが終わるとすぐ次の開催から新馬戦が始まるようになったこと。中央の新馬戦が早まったことで、4月から2歳戦が組まれるホッカイドウ競馬のアドバンテージが少なくなった。

 さらに、かつてであれば中央の夏の北海道シリーズで活躍した2歳馬が、3歳のクラシックシーズンでも活躍するというようなことはほとんど見られなかったのが、新馬戦のスタートが早まったことで、早い時期に賞金を稼いで一旦休ませ、2歳の暮れから3歳のクラシックシーズンに再び始動というパターンが見られるようになってきた。それにともない、中央では夏の早い時期から素質馬がデビューしてくるようになった。

 まだ能力差があまりないと考えられていた2歳戦で地方馬が勝てなくなったのは、地方馬が弱くなったのではなく、2000年代に入って日本からも海外への挑戦が当たり前のようになるなど、中央競馬全体のレベルアップが図られたことに加え、2歳戦の早い時期から世代でトップを争えるような素質馬が出てくるようになったためと考えられる。

 それでもごく最近になって、地方馬(特にホッカイドウ競馬の2歳馬)が、中央のレベルに近づいたとまでは言わないが、その格差が徐々に詰まってきたかなと思ったのは、今回のクローバー賞でのダブルシャープの勝利だけでなく、8月12日に行われた札幌のコスモス賞でも、勝った断然人気の中央馬(ステルヴィオ)から、ほとんど差のない2着(ミスマンマミーア)、3着(ハッピーグリン)にホッカイドウ競馬の所属馬が入ったこともある。

 また、昨年北海道でデビューしたヒガシウィルウィンが地方馬として7年ぶりにジャパンダートダービーを制したことなどもその現れといえそうだ。北海道2歳優駿のときにはエピカリスに2秒4もの大差をつけられて2着だったのが、3歳になっての直接対決はないものの、ジャパンダートダービーのパフォーマンスから、その能力差は確実に縮まっているものと思われる。

 クローバー賞を勝ったダブルシャープ、コスモス賞で2着のミスマンマミーア、ともに札幌2歳Sへの出走権を獲得し、出走には前向きのようだ。中央の2歳戦が早まった2012年以降、函館2歳Sこそ、ホッカイドウ競馬の所属馬は指定された門別の重賞やオープンを勝てば出走できるが、札幌2歳Sへは中央のトライアルレースで上位に入らなければ出走は叶わない。その札幌2歳Sに地方馬が複数出走するのは、2012年以降では初めてのこととなる。

 ダブルシャープのクローバー賞の勝利は、そのレースぶりも含めて見事だったが、「あっぱれ!」はひとまず保留。ダブルシャープかミスマンマミーアが札幌2歳Sを勝つか、もしくはその先に地方の2歳馬が中央の重賞を勝ったときのためにとっておこう。

1964年生まれ。グリーンチャンネル『地・中・海ケイバモード』解説。NAR公式サイト『ウェブハロン』、『優駿』、『週刊競馬ブック』等で記事を執筆。ドバイ、ブリーダーズC、シンガポール、香港などの国際レースにも毎年足を運ぶ。

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