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ついに出現してしまった「歴史的なスロー」/新潟2歳S

  • 2017年08月28日(月) 18時00分


◆木幡巧騎手のコメントに注目「最後は一発あるんじゃないかと…」

「史上最大のスローペース」

 長い直線が約660mもつづく新潟の外回りのマイル戦は、前半はスローで流れ、最後の直線660mの「切れ味勝負」になることで知られる。パターン化していた。

 しかし、スピード勝負のマイル戦なので、いかにスローといっても限度というものがある。あまりに度を超えたスローは、重賞レースでは出現したことがなかった。

 今年の新潟2歳Sは、現在の左回りの長い直線を持つ1600mに移って以降、ついに出現してしまった「歴史的なスロー」だった。スタートして1ハロン過ぎにコーディエライト(父ダイワメジャー)がハナに立ち、これを2番手でフロンティア(父ダイワメジャー)がマーク、直後のインをテンクウ(父ヨハネスブルグ)が確保した流れは、

▽前後半4ハロン「49秒3-後半45秒3」
▽前半1000m通過「61秒6→上がり33秒0」

 現在のコースになって以降、前後半800mの差「4秒0」は文句なしに史上最大だった。2位は2004年と、2011年の2秒8。

 前半1000m通過61秒6は史上もっとも遅く(2位は2006年の61秒3)、逆に、レース上がり33秒0は当然ながら史上最速。同様に超スローだった2011年の記録33秒1を更新した。

 時と場合によるが、スローペースが悪いということもない。キャリアの浅い2歳馬が厳しいペースで展開しては、馬が壊れてしまう危険がある。ゆったりした流れなら、最後だけの勝負になり、異常な高速上がりで腱にムリがかからない限りは壊れない。

 ただ、ここまでの超スローになると、本来が高速の芝の新潟だけに、通常のレースにならない物足りなさが生じてしまった。この上がりで、上位3頭は「3、5、2」番人気の有力候補であり、なおかつ4〜5番手とは道中の間隔があった先行の3頭なので、直線に入ってスパートした3頭の上がりは「32秒9、33秒1、32秒6」。一段とピッチが上がり、ゴールでは4着以下に「4馬身」の差がついていた。

 4着した11番人気のエングローサー(父トランセンド)の木幡巧也騎手のレース後のコメントが、特異なレースを的確に言い当てている。「最後は、一発あるんじゃないかと思った…」と。その通りである。伏兵エングローサーは後方追走から、直線は外に回り上がり「33秒1」で猛然と伸びていた。後方から外に出して上がり33秒1で鋭く伸びるなら、いつもの年なら好勝負なのである。

 ただし、今回はあまりにスローすぎ、また先行した3頭がバテない力量馬で2着コーディエライトの上がりも33秒1。逆転できる道理がなかっただけである。

 新潟では、直前の9R「五頭連峰特別」1600mでも、歴史的なスローの大波乱が生じていた。レースバランスは前後半「49秒8-44秒7」=1分34秒5。JRAの古馬混合の芝のマイル戦で、前半のほうが「5秒1」も遅いレースなど、ちょっと記憶にない。1000m通過は61秒5、上がり3ハロンは33秒0だった。未勝利戦ではなく、元1600万下の馬もいた古馬混合1000万条件である。先行した馬が鈍るわけがない。「7、16、8」番人気馬の行った=行ったの決着。3連複1344倍。3連単680万円だった。

 予定にはなかった新潟2歳Sのリハーサルだったのである。本番で快走した「岩田、津村、北村宏」はみんな騎乗していて、1番人気の岩田騎手のショウナンアンセム(デキもう一歩で外々を回された)は、見せ場なしの13着だった。ペースの読めるトップジョッキーのいないこの日、もうメインの新潟1600mで好スタートを切った岩田、津村、北村宏騎手が下げるわけがない。

 新潟外回りの2歳S1600mは、前半はスローでも変に動く必要はなく、(直線1000mの必殺の極意と同じように)最後の直線660mの爆発力に賭けるレースである。そういうパターンが成立していた。しかし、「前半49秒台→1000m通過61秒台後半」にまでスローが進むと、さすがそれはもう別次元、差しようも追い込みようもなかった。

 2歳戦に圧倒的な良績を残すダイワメジャー産駒は、直線の長い新潟のマイル戦にはあまり結果がでていなかったが、スローだったとはいえ牡馬フロンティア、牝馬コーディエライトのワンツー決着は見事だった。

 フロンティアは、ドリームパスポート(父フジキセキ。クラシック3冠を2、3、2着)の4分の3同血の弟という評価の仕方もあるが、もっとファミリーを大きく考え、ステイゴールド(母の半兄)が代表する一族の出身。そこにもう種牡馬としてのキャリアを重ね、天皇賞・秋を制するなど2000m級まで平気だった種牡馬ダイワメジャーの一番いいところがそろそろ表に出てくるのではないか、と考えたい。

重賞レース回顧

フロンティアはダイワメジャーの一番いいところがそろそろ表に出てくるのではないか(撮影:下野雄規)


 2着コーディエライトも、そのファミリーは魅力である。種牡馬となってまさに評価を激変させたサウスヴィグラスの半妹が母であり、さらにはブラックホークなどが一族の代表馬に並ぶ。先行スピードを生かし、メジャーエンブレム級の活躍も夢ではない。

 3着テンクウは、半兄イブキ(父ルーラーシップ)と同じように新潟2歳Sを3着惜敗にとどまったが、タイプが違ってこちらには器用さも鋭さもありそうである。単なる早熟系のスピード型にとどまらない成長力を見せたい。

 3頭ともに歴史的なスローの新潟2歳Sの好走馬とあって、このあとの評価は分かれるだろうが、流れに恵まれたわけではない。粘って流れ込んだだけでもない。みんな上がり33秒前後で、後続を4馬身以上も引き離したのである。

 ムスコローソ(父ヘニーヒューズ)、プレトリア(父ヨハネスブルグ)などは、この流れで不発はさすがに仕方がないところがある。上がり32秒5(ハープスターの末脚)を記録したところで、どうにも届かない流れだった。評価はつぎのレースとしたい。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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