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異質の力のレースに対応して勝つことができた/札幌2歳S

  • 2017年09月04日(月) 18時00分


◆2歳戦向き父系でなく、タフなコンディションをこなした点に価値がある

 この早期の2歳重賞がのちのビッグレースにどのくらい関係するか、年によって大きく異なるが、注目馬の多かった今年はのちの重賞路線で活躍する馬がきっといるのではないかと期待したい。

 勝ったロックディスタウン(父オルフェーヴル)は、このレースが距離1800mで行われるようになった1997年以降、牝馬として勝ったのは2013年のレッドリヴェール(父ステイゴールド)に次いで2頭目だった。そのレッドリヴェールは阪神JFを勝ち、桜花賞もハープスターの2着に好走している。この牝馬2頭の父は、父子の間柄。早い時期の2歳戦向き父系ではないところに価値があるだろう。

 また、1番人気に支持されて勝った牝馬はこの馬が史上初めてである。ほかで牝馬ながら1番人気だったのは、2000年の3着馬テイエムオーシャン(父ダンシングブレーヴ。阪神3歳牝馬S、桜花賞、秋華賞など通算7勝)と、2010年の3着馬アドマイヤセプター(父キングカメハメハ。京阪杯2着など通算5勝)だけ。

 さらに、他地区で勝ち上がり、北海道の洋芝の経験なしで勝ったのは、2009年の日本ダービーを制したロジユニヴァースと、前出レッドリヴェール、2015年の弥生賞2着、皐月賞4着などのブライトエンブレム。この3頭に限られる。

 新潟の新馬1800mを、Cルメール騎手がほとんど追うことなく上がり32秒5で抜け出したレースが評価され、人気の中心となった今回のロックディスタウンは、全体に時計のかかるタフな芝で、最速ハロンでさえ11秒9にとどまった異質の力のレースに対応して勝った。今回のようなタフなコンディションをこなした点に価値があると同時に、新潟の新馬戦のような柔軟なフットワークではなかったから、どちらかといえば、軽快なスピードと切れの生きるコース向きかもしれない。だが、新馬→札幌2歳Sを連勝したことにより、このあとは体調、特質に合わせながら、来季に向け好きな日程が組める。

重賞レース回顧

このあとは体調、特質に合わせながら、来季に向け好きな日程が組める


「新馬→ひいらぎ賞→クイーンC」と3連勝しながら、そのあと尻すぼみの成績だったキャットコイン(父ステイゴールド)の4分の3姉妹ではあるが、馬格にめぐまれているというだけでなく、明らかにスケールは一枚上だろう。母ストレイキャット(父ストームキャット)は、種牡馬ゼンノロブロイ(父サンデーサイレンス)の1歳上の半姉。種牡馬ゼンノロブロイは、必ずしもサンデーの有力な後継馬とはいえないが、競走能力=種牡馬成績といかないのは当たり前のこと。2004年の「天皇賞(秋)→ジャパンC→有馬記念」を3連勝。そんな偉業を達成したゼンノロブロイの近親馬であることをプラスに考えたい。

 クビ差の2着にとどまったファストアプローチ(父ドーンアプローチ)は、東京→札幌と転戦してここが3戦目。538キロの馬体はいかにもパワーがありそうに映った。また、距離1800mへの延長も有利と思え、流れに乗って4コーナーを回り先頭に立ったときは確勝パターンとみえたが、追い比べになってあと一歩及ばなかった。脚いろが鈍って差されたというより、鋭さ負けの印象が残ったから、これは相手を誉めるべきだろう。外からダブルシャープが猛追してきたが、しのぎ切った粘り腰は豊かな将来性をうかがわせるに十分だった。フランケル産駒のソウルスターリングで結果を出し、レイデオロ(父キングカメハメハ)で日本ダービーを制した藤沢和雄厩舎には、レイデオロの全弟レイエンダ(骨折で一応は6ヶ月の診断だが、クラシックに間に合うころカムバックできる可能性十分)もいる。ゼンノロブロイや、シンボリクリスエスの時代にも藤沢厩舎にはいつも複数の候補がいた。ファストアプローチは、レイエンダと並んでもう来季のクラシック候補としていいだろう。

 クローバー賞につづいて、また大仕事かと映る力強いフットワークで外から伸びた公営所属のダブルシャープ(父ベーカバド)は残念ながらあと一歩だった。公営所属馬が、クローバー賞や、コスモス賞などで結果を出すのは珍しくないが、それは芝やダート適性の問題ではなく、キャリアに勝る利点があるためだが、札幌2歳Sで勝ち負けに持ち込むのはもう高い資質の証明である。出身ファミリーは伝統のソネラから発展し、天皇賞(春)のメジロブライト、天皇賞(秋)3200mカミノテシオなどを送った本流である。

 父ベーカバド(その父ケープクロスは、シーザスターの父というより、日本では前出ロジユニヴァースの母の父)は期待のわりに産駒の活躍もう一歩だが、こういうタフなファミリーの牝馬と合うのか、という気もした。この札幌2歳Sのタイム差なしの3着は、すごい価値があるだろう。上がり35秒3は断然のトップだった。

 牝馬シスターフラッグ(父ルーラーシップ)も、伸び悩んだ牡馬が多かった中で0秒3差4着なら立派なもの。500キロ近い馬体を誇り、母はゴールドシップの半姉。使いながらどんどん良さを前面に出してくるはずである。

 函館1800mの新馬をレコード勝ちしたクリノクーニング(父オルフェーヴル)、小差2着のあと2戦目に圧勝したカレンシリエージョ(父ハービンジャー)の2頭は、高い評価のわりにそろってもう一歩だったが、これは函館の芝が「今年はいつもの洋芝ではない」とみんなが首をひねった高速の開幕週(函館スプリントS1200mがなんと1分06秒8)ほどではなくても、例年より時計の出やすい芝(前の日の500万下が1800m1分47秒台)に影響されたところがあったかもしれない。そういう意味では、この2頭にこの日の札幌はまったく合わないはずであり、時計の速いコースに移って再評価したい。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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