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「場立ちとは“予想の家庭教師”です」<第1回>一岡浩司

  • 2017年09月11日(月) 18時00分
一岡浩司

単純に買い目を出すだけではなく、買い方までアドバイスするという



自ら馬券を買うことで切り開いた場立ち人生



 濃尾平野を南北に貫くように流れる、木曽川のほとりに位置する笠松競馬場。日本で唯一パドックが内馬場にあるこの風光明媚な競馬場は、昭和末期の競馬ブームをけん引したオグリキャップ、地方競馬の騎手が中央に移籍する先鞭をつけたアンカツこと安藤勝己元騎手など、名馬と名騎手を数多く輩出してきた。そんな地を主戦場として、今もなお第一線で戦い続けている場立ちがいる。
 一岡浩司、齢56歳。キャリア14年目を迎えた、公営・東海地区では知る人ぞ知る場立ちだ。中央のファンには耳慣れない言葉かもしれないが、場立ちとは現在も地方競馬のみに残っている制度で、自らの屋号でブースを持ち、口上によって客の興味を引き、1レース100円で予想を提供している予想屋のことである。

―――開業したキッカケを教えてください。

「03年に笠松競馬場の予想屋で構成する組合の会長にスカウトされたのがキッカケです。当時は近畿日本鉄道に乗務員として勤務しており、平日休みが多かったもんで、平日は名古屋、笠松にはよう行っとりました。開業当時渡されたのは、買い目の数字を押すスタンプのセットだけで、文字通り裸一貫からのスタートでしたわ」

 そう苦笑を交えながら、東海なまりの混じったやんわりとした関西弁で話してくれたが、当時、すでに競馬ブームは終焉を迎えつつあった時期。売り上げも下降線の一途を辿っており、02年に足利と益田、翌03年は上山、そして04年には高崎と宇都宮と地方競馬場は廃場の連鎖が起こり、場立ち業にも寒風が吹き荒んでいた。

―――開業当初は、ライバル視する同業者も多かったのでは?

「そうですね。もともとは単なるファンだったのが、ある日を境に突然、自分の予想を売るようになったわけですから。当然、お客さんなんかついてきません。それでも、馬券で儲ける自信はありました。そこで自分で馬券を買い始めたら、それを見ていたお客さんが『あの予想屋、自分で馬券買うてるやん』と噂になったんです。もっとも馬券が買えなければ、場立ちにもなっていませんでしたけどね。他場では禁止されているところもありますが、笠松では当時から場立ちが馬券を買っても問題ありませんでしたから」

一岡浩司

真剣な表情でオッズやパドック映像を食い入るように見つめる



プラス収支を出す秘訣は迷ったレースを我慢すること



 自分で馬券を買うことが、図らずもお客さんに対するアピールになり、それが固定客の獲得につながったわけである。こうして「自ら馬券を買う場立ち」として一本立ちしたわけだが、場立ちとしての利益はほとんどないのが現実だ。

―――生活基盤は、場立ちとしての売り上げよりもご自身の馬券?

「それは、場立ちが次々と廃業していった(開業)当時の状況からもわかっていたので、場立ちで儲けようという気持ちはありませんでした。通常、場立ちは口上が命ですが、大井や川崎など南関東と異なり、お客さんの絶対数が少ないということもあり、固定客に1対1でレクチャーしている感じです。自信がなければ『買わんといて』ってハッキリ言いますし、予想の家庭教師みたいなもんですね。自宅は三重県の名張市ですので、笠松まで通うと2時間半かかります。そのため、開催が連続すると必然的に近隣のホテルに宿泊することになります。そうした経費を引くと場立ちとしての利益はトントンがいいところですが、馬券収支は平均すれば年間80〜120万のプラスになっています」

 予想の基本となるのは走破時計だ。そこに馬場差を考慮した走破時計の真の価値を1頭1頭よく吟味し、次走で人気の盲点になっている馬を狙う。

―――レースの走破時計をしっかりチェックして、次走へつながるかどうかが大切なんですね?

「内に砂を寄せるなど、開催ごとで馬場状態は変わりますし、また同じ走破時計でも、内を突いたものと外を回したのでは価値が違います。とくに笠松や名古屋は直線が短いので、馬の能力よりスタート直後の並びや道中の位置取りが重要視されることが多く、1角への入り方、隊列も大切になります。そうした予想にかかわる要素について、動画を見ながら細かく1頭1頭チェックして、次走で狙うべき候補馬を絞った“狙い馬リスト”を作成します。勝負レースは断然人気以外の軸馬がいて、かつ危険な人気馬がいるレース。そこで狙い馬リストから浮上してきた馬から点数を絞って買うわけです」

―――買い方などのアドバイスは?

「普段からお客さんと密に接して、例えば穴狙いの傾向の強い人やったら穴狙いの予想を教えますし、一人ずつそれぞれに合った予想を提供しています。ただし、迷ったレースは基本的に見送ります。何でもかんでも買うのではなく、“このレースで外れても悔いがない”というレースまで基本的に我慢する。常連のお客さんには、それをよう言ってますね。馬は当たってナンボ。外れたら面白くないし、競馬を長く続けてもらうためにも、なるべく当たる喜びを知ってほしいですよね? だから、自信のあるレースだけ買ってほしいし、長い目で見て儲けてほしいと思っています」

一岡浩司

一岡にしかわからない暗号が羅列されたデータシート



当たったら、お客さんと一緒に喜べることが何よりうれしい



 現在のお客さんは一日あたり30人ほど。固定客は20人弱程度。10時半の開門時から最終レース前後の16時半過ぎまでブースに立ち、馴染みのお客さんを相手にする。全盛期に比べたら雲泥の差だというが、それでも一岡の顔から笑みが絶えることはない。

―――予想と格闘するのは、レース終了後?

「レース後は、常宿で翌日に提供する予想の仕上げを22時頃までやり、それから午前2〜3時頃までは馬場の傾向を踏まえた翌々日のデータを記入します。今は前々日には専門紙が手に入るようになりましたので、予想自体は昔よりはずいぶん楽になりましたよ。それ以外でもほとんど四六時中、予想にまつわるこまごまとしたことをやっていますし、開催中の睡眠時間は4時間半ほどですね」

―――そこまでの予想への情熱を支えるものは何ですか?

「予想するのは楽しいし、何よりお客さんと一緒に喜べるのが醍醐味ですね。欲がないと思うかもしれませんが、1日1〜2レースの勝負レースだけ当たってくれたら、それで十分なんです。いいお客さんに恵まれていると思いますよ」

―――ただ場立ち業としては、依然として厳しい環境にあると思いますが。

「笠松でも昔は口上でお客さんを呼んでいた時期もありましたけど、今はもうそういう時代ではなくなって、予想屋のスタイルも変わりました。場立ちの存在自体、今後どうなっていくのか、心配はあります。門別、盛岡はすでになくなって、園田も新規の開業は認めていないと聞いています。昔の古き良き時代の“競馬遺産”でもある場立ちがなくなっていくのは寂しい気はしますね」

 地方競馬独特の制度である場立ちの行く先を憂いながら、その灯を消さないためにも一岡は今日もブースに立ち続けている。

一岡浩司

パソコンと向き合いながら、翌々日のレースのデータ記入に余念がない



一岡浩司は『ウマい馬券』で笠松、名古屋、園田の予想を公開中!
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