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師弟の絆

  • 2017年09月19日(火) 18時00分


◆五十嵐騎手と桑原調教師の絆に「あっぱれ!」

 8月22日の本コラムで、ホッカイドウ競馬のダブルシャープが札幌のクローバー賞を制し、ホッカイドウ競馬所属馬としては5年ぶりにJRAのレースを勝ったことをお伝えした。その後ダブルシャープは、その勝利で出走権を獲得した札幌2歳Sにも出走。3コーナーまでは最後方を追走していたが、そこから一気にまくってゴール前先頭に迫り、勝ったロックディスタウンからクビ+アタマ差と、まことに惜しい3着だった。

 そしてJRA札幌開催最終日となった9月3日には、芝1200mのすずらん賞にホッカイドウ競馬から6頭が出走。9番人気のリュウノユキナが見事勝利した。

 その表彰式のインタビューで、リュウノユキナの鞍上、五十嵐冬樹騎手はこんなことを話していた。「自厩舎は今年で最後なので、中央のオープンを勝たせることができてよかったです」と。

 自厩舎とは、五十嵐騎手が所属する桑原義光厩舎のこと。その師弟コンビでは、さらに9月17日、モリノラスボスで盛岡に遠征し、全国交流の2歳芝重賞、ジュニアグランプリを制する活躍も見せた。

 桑原義光調教師は1942年生まれの75歳。ホッカイドウ競馬の現役調教師では最年長だ。道営記念連覇(1990年ユーワエース、91年ブラックホラー)をはじめ重賞は34勝。地方通算では1390勝(ほかに中央3勝)を挙げている(9月18日現在)。現在、ホッカイドウ競馬には調教師の定年制はないが、すずらん賞の表彰式における五十嵐騎手のコメントで、桑原調教師が今シーズン限りで引退する意向であることが知られるようになった。

 そして五十嵐冬樹騎手は、今年25年目。これまで11度の北海道リーディングを獲得し、今年8月1日には地方通算2000勝を達成。1993年のデビュー以来、ずっと桑原義光厩舎の所属を貫いてきた。五十嵐騎手がデビューして以降、桑原調教師は重賞11勝を挙げているが、そのうちじつに10勝が五十嵐騎手の手綱によるものだった。

 今は厩舎と騎手のつながりが希薄な時代。それは外国人ジョッキーや地方から移籍した騎手が活躍する中央競馬だけのことではない。地方競馬でも年々その傾向は強まっている。中央では以前から騎手が厩舎に所属しない「フリー」の制度があったが、南関東でも2012年度から「騎手会所属」という制度が認められるようになった。厩舎に所属するのではなく、浦和、船橋、大井、川崎いずれかの騎手会の所属になるということで、事実上、中央と同じフリーが認められた形だ。

 また地方競馬の重賞レースでは、騎手の所属に関係なく騎乗が可能になった。中央では近年、GIタイトルを狙えるような有力馬の多くで主戦騎手が固定されず、乗替りが多くなっていることが指摘されることがあるが、地方競馬でも全国の重賞で、他地区騎手のピンポイント騎乗による乗替りがめずらしいことではなくなった。

 その賛否については意見の分かれるところで、どちらがいいという結論が出るものでもない。重賞であればこそトップジョッキーを乗せたいという馬主や厩舎サイドの思惑もあるだろうし、一方で同じ騎手を乗せ続けて経験を積ませたいということもある。また、「この馬にはこの騎手」というファンの思いもあるだろう。

 そうした中で、デビュー以来所属厩舎を変えず、長きに渡ってホッカイドウ競馬のトップジョッキーとして活躍してきた五十嵐騎手であればこそ、中央の表彰台で、「自厩舎は今年で最後なので、中央のオープンを勝たせることができてよかったです」という言葉が出たのだろう。

 この師弟関係には、あっぱれ!でしょう。

※編集部都合により、一部で告知しておりました内容から変更してお届けいたしました。読者の皆様にはご迷惑をお掛けいたしますが、何卒ご理解のほどよろしくお願いいたします。

1964年生まれ。グリーンチャンネル『地・中・海ケイバモード』解説。NAR公式サイト『ウェブハロン』、『優駿』、『週刊競馬ブック』等で記事を執筆。ドバイ、ブリーダーズC、シンガポール、香港などの国際レースにも毎年足を運ぶ。

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