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アドバンテージをこちらに

  • 2017年09月30日(土) 12時00分


 先々週と先週、ラジオNIKKEI「鈴木淑子の地球は競馬でまわってる」にゲスト出演した。1週目は7月に亡くなった山野浩一さんについて、2週目は自分自身について、淑子さんとあれこれ話してきた。

 また、番組構成で関わっているグリーンチャンネル「草野仁のGate J.プラス」の収録現場では、11月オンエア分のゲストの酒井一圭さんといろいろ話すことができた。酒井さんとはSNSを通じて数年前からやり取りしていたのだが、会うのはこれが初めてだった。

 競馬場やトレセンで人馬を取材するほか、こうして関係者と世間話を含めた情報交換をすることによって、業界全体で何が旬で、どんな人が注目されているのかといった「感覚的な情報」とでも言うべきものに触れることができる。別件で懸案となっていた報告書を受けとることもでき、楽しみが増えた。

 さて、先週記したオマワリサンに関連して、ヒャクトウバンという馬はいないか調べてみた。その結果、「鍵の110番」だとか「水の110番」といったキャッチを使っている業者はいくつかあったが、「馬のヒャクトウバン」はいなかった。

 ヒャクトウバンといえば、「110番登録」というシステムをご存じだろうか。自分に危害を加えそうな人間がいる場合、自分の携帯電話の番号と、相手の情報を警察に登録する。そうして自分の携帯から110番に通報すると、危害を加えそうな人間の氏名や連絡先、写真などが警察の受理画面に表示され、迅速な逮捕につながる――というわけだ。今は110番した場所もGPS機能ですぐ特定される。もちろん、危害を加えそうな人間として誰でも登録できるわけではなく、何度も警察から警告を受けている者や、その協力者など、警察が危険とみなした人間だけだ。

 登録といえば、今週の凱旋門賞に出走登録し、出てきそうな馬の一覧を月曜日のスポーツ紙で見て驚いた。リストに載っている24頭のうち、半数近い11頭の騎手名のところが空欄なのだ。もちろん、そのスポーツ紙の取材不足ではなく、そのくらい、1週前という直前になっても出否未定の馬が多い、ということだ。それらはみな、ヨーロッパの厩舎の管理馬である。凱旋門賞ほどの大舞台になっても、馬の具合がよければ出すし、悪かったら出さない、と「馬本位」で決められるアドバンテージは大きい。

 今年の大本命と目されているエネイブルなどは、ずいぶん前から凱旋門賞に向かうことが発表されていたりと、みながみな、直前になって方針を決めるわけではない。それでも、一昨年3連覇を狙ったトレヴが4着に敗れたように、「死角なし」と見られている馬でも負けることがあるのが競馬というスポーツだ。そして、もしエネイブルを負かす馬が現れるとしたら、それは、直前に「今メチャメチャ調子がいいし、馬場状態も合いそうだから出してみよう」と出走を決めた馬のなかから出る確率が高いような気がする。

 もちろん、これまで日本馬の陣営がしてきたような周到な準備と念入りなケアは重要なのだが、それとは対照的な気楽さが勝負の女神を微笑ませることがあるのもまた事実だ。それこそホームアドバンテージの最たるものと言っていいのかもしれない。

 これまでの95回のレース史上、ヨーロッパ調教馬以外は勝ったことがない、という凱旋門賞の高い壁を打ち崩すのは、おそらく日本の馬だろう。

 それが今年のサトノダイヤモンドになるかもしれない。また、サトノノブレスにも、出る限りはチャンスがあると言える。

 相手が持つホームアドバンテージを乗り越えて勝てるといいのだが、そのアドバンテージをアウェーの自分たちも有することができるようにするのも不可能ではない。例えば、同馬主、同厩舎の10頭ぐらいのチームでヨーロッパに遠征し、馬の具合と馬場状態などを見ながら、「この馬は凱旋門賞、こっちは英チャンピオンステークス、で、あの馬は……」と、馬本位で戦えるようにすることも理論上は可能だ。あえて「理論上は」と書いたように、口で言うのは簡単だが、実際に行うのは難しい。アウェーで勝ち負けが期待できるほどの馬なら、日本でいくらでも活躍の舞台があるだろうし、それ以上に、日本のファンや関係者は、ピンポイントで「凱旋門賞を勝ちたい」という気持ちが強い。

 ロンシャンが改修工事中なので、舞台がシャンティーになるのは日本馬にとって朗報だと思っていたのだが、週末の天気予報などを見ていると、日本馬には厳しい馬場状態になるかもしれない。お天気まではコントロールできないから、人間がコントロールできる範囲のすべてのことをやり、チャレンジしつづけるしかない。

 そして、私たちファンは、応援しつづけるしかない。

 28日、木曜日に凱旋門賞の出走馬と各馬の騎手が確定した。今年は18頭による争いとなる。

 祈りが天に通じるなら、レース当日、雨が降らないことを祈りたい。


netkeiba編集部より

 島田明宏氏の「熱視点」をご愛読いただき、誠にありがとうございます。

 当コラムは来週より、土曜日12時から木曜日12時の掲載に移行させていただくこととなりました。

 引き継き、「熱視点」をよろしくお願い申し上げます。

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作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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