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話題独占!欧州の短距離路線に現れたバターシュ&ハリーエンジェル

  • 2017年10月11日(水) 12時00分


◆両雄の激突、実現なるか?

 世界的に今、最もホットなカテゴリーの1つが、ヨーロッパの短距離路線である。というのも、類稀なるスピードを持つ2頭の傑出したスプリンターが、時を同じくして現われたからだ。しかもその2頭はいずれも、英国のランボーンを拠点としている調教師が管理する、父ダークエンジェルの3歳馬なのである。
 
 1頭は、13年のG1愛千ギニー勝ち馬ジャストザジャッジや、15年の欧州3歳スプリントチャンピオン・ムハーラーらを育てた実績のあるチャーリー・ヒルズが管理する、バターシュ(セン3、父ダークエンジェル)だ。G2シャンパンS(芝7F)勝ち馬エルターラの甥にあたるバターシュは、15年のタタソールズ10月1歳市場のブック2にて、シェイク・ハムダンの競馬組織シャドウェルに20万ギニー(当時のレートで約3864万円)で購買され、チャーリー・ヒルズ厩舎に入厩。2歳5月にバースのメイドン(芝5F)でデビューし、見事緒戦勝ちを飾ったが、2戦目となったロイヤルアスコットのLRウィンザーキャッスルS(芝5F)では12着に大敗。この段階で去勢され、以降はセン馬として生きることになった。

 しかし、2歳時の同馬ははっきり言って凡庸で、9月に戦線復帰してシーズン末まで3戦したものの、G3コーンウォーリスS(芝5F)3着を最良の成績として、2勝目を挙げることが出来なかった。本格化したのは3歳となった今季で、緒戦となったサンダウンのLRスカーリーS(芝5F10y)で2勝目を挙げると、続くサンダウンのG3スプリントS(芝5F10y)を3.1/4馬身差で快勝して重賞初制覇。更に、グロリアスグッドウッドのG2キングジョージS(芝5F)も2.1/4馬身差で制して重賞2連勝。

 ところが、G1初挑戦となったヨークのG1ナンソープS(芝5F)では、厳しい流れに巻き込まれて4着に敗れ、快進撃はここで一旦頓挫している。圧巻だったのが10月1日に仏国のシャンティーで行われたG1アベイユドロンシャン賞(芝1000m)で、ここも前走同様に序盤から厳しい流れになった中、スタンド寄りを先行したバターシュが残り300m付近から再加速すると、ついて来られる馬がおらず、最後は後続に4馬身差をつける圧勝となった。その余りの速さに、馬名の綴り(Battaash)の前半が、陸上短距離界のスーパースターであるウサイン・ボルト(Bolt)と似ていることから、“Bolttash(ボルターシュ)”なる造語が生まれ、バターシュのニックネームとなった。

 管理するヒルズ師によると、バターシュの今季はG1アベイユドロンシャン賞をもって終了とのこと。しかしながら、3歳と言う若さに加えてセン馬であることから、当然のことながら来季の現役続行が決まっており、究極の目標として、豪州における短距離の1000万ドル競走「ジ・エヴェレスト」(芝1200m、今年の開催は10月14日)参戦を、視野に入れていることを明らかにしている。

 英国に出現したもう1頭の傑出したスプリンターが、13年のカルティエ賞チャンピオンスプリンターのリーザルフォースや、16年のG1プリンスオヴウェールズS勝ち馬マイドリームボートらを育てた実績のあるクライヴ・コックスが管理するハリーエンジェル(牡3、父ダークエンジェル)だ。11年・12年と香港のG1チャンピオンズマイル(芝1600m)を連覇したエクステンションの甥にあたる同馬だが、1歳夏に上場されたのはドンカスター1歳セールという亜流の1歳市場で、ここで4万4千ポンド(当時のレートで約864万円)というお手頃価格で、馬主ピーター・リッジャー氏の代理を務めたコックス調教師に購買されている。

 2歳5月にアスコットのメイドン(芝5F)でデビューし2着となった後、続くグッドウッドのメイドン(芝6F)はゲートに入るのを拒んで発走除外に。続いてエントリーしたウィンザーのメイドン(芝6F12y)も取り消した後、陣営が同馬の次走に選んだのが、ニューバリーを舞台としたG2ミルリーフS(芝6F8y)だった。未勝利馬をG2にぶつけたあたりに、陣営がこの馬にかける期待の大きさが表れており、ファンもそのあたりを汲んだか、同馬をオッズ3倍の1番人気に支持。ハリーエンジェルもこれに応えて2.1/2馬身差の快勝を見せ、G2で初勝利を挙げる離れ業を演じた。

 3歳緒戦となったG3パヴィリオンS(芝6F)2着の後、ヘイドックのG2サンディレーンS(芝6F)を4.1/2馬身差で快勝して2度目の重賞制覇。この段階で、ドバイのシェイク・モハメドが同馬をトレードで獲得し、以降はシェイク・モハメドの競馬組織ゴドルフィンの所有馬として走ることになった。ロイヤルアスコットのG1コモンウェルスC(芝6F)は、クールモアのカラヴァッジョ(牡3、父スキャットダディ)に半馬身差及ばぬ2着に敗れたが、続くニューマーケットのG1ジュライC(芝6F)では、前年に続くこのレース連覇を狙ったリマート(セン5、父タギュラ)を筆頭にした古馬のトップスプリンターたち粉砕して勝利し、G1初制覇を達成した。

 ハリーエンジェルの前走となったのが、9月9日にヘイドックで行われたG1スプリントC(芝6F)で、ここでも同馬は後続に4馬身という決定的な差をつけ、G1連勝を果たしている。ハリーエンジェルは、10月21日にアスコットで行われるG1ブリティッシュチャンピオンズ・スプリント(芝6F)に出走予定で、ブックメーカー各社は同馬をオッズ2倍から2.5倍の抜けた1番人気に支持している。当初は、今季限りで引退し種牡馬入りするのではないかと見られていたハリーエンジェルだったが、G1スプリントC後、陣営は「来季も現役続行の公算大」と表明。

 コックス師は来年のロイヤルアスコットを舞台としたG1ダイヤモンドジュビリーS(芝6F)を、具体的な目標として掲げている。こうなるとファンの注目は、「バターシュ vs ハリーエンジェル」が、いつ、どこで実現するかに集まることになる。

 2頭の戦績を御覧になれば一目瞭然だが、バターシュが歩んでいるのが5F路線であるのに対し、ハリーエンジェルの主戦場は6Fだ。ヨーロッパには「5F路線と6F路線は別物」という考え方をする関係者が多く、このままでは2頭の蹄跡が交わらない可能性もおおいにある。

 だがその一方で、バターシュ陣営は来季の目標の1つとして、豪州のジ・エヴェレストの名を挙げており、つまりは、6Fへの参戦を厭わぬ姿勢を見せている。そうであるならば、来年のG1ダイヤモンドジュビリーSあたりで、両雄の激突が見られる可能性がありそうだ。

 あるいは、どこかの競馬場が、間をとって距離5.5Fの高額賞金競走を創設して、2頭の出走を促すなどという話も、持ちあがっておかしくない状況だ。バターシュ vs ハリーエンジェルの実現を、待ちわびたいと思う。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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