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ディープインパクト展と新たな書き手

  • 2017年10月12日(木) 12時00分


 なんとも微妙な数である。本稿を書きはじめた時点で、先週の注目数が42。悪くはない。が、リードホースに関する話は我ながら面白かったと思うので、引っ越し祝いで読者の評価が甘くなることを加味すると、もっと行ってもよかったような気がする。つまり、「まあまあ面白いけど、その口調は鼻につくから、つづけるにしても1、2回でやめといたほうがいいよ」というのが、大方の読者の感想なのだろう、と受けとった。

 ということで、従来どおり、「〜だ。〜である」の常体を基本とし、頼みごとをするときだけ「です。ます」の丁寧語を使う、というスタイルで行きたい。

 さて、先週日曜日、10月8日に東京競馬場内の競馬博物館で行われたトークイベントに出演する仕事があったので、それに間に合うよう帰京した。そのトークイベントは、開催中の秋季企画展「前略ディープインパクト様 〜関係者からDEEPへの手紙〜」のオープニングトークだった。俳優の宮川一朗太さんと私がゲストで、キャスターの岡部玲子さんが司会をつとめた。11時50分から始まったトークイベントは大盛況で、会場となった馬の学び舎に用意された158席を大きく上回る566人が来場した(競馬博物館来館者はこの日だけで約3000人!)。10月5日に上梓した拙著『誰も書かなかった武豊 決断』文庫版のプレゼント抽選券250枚は、あっと言う間になくなってしまったという。

 これまでたくさんの競馬ファンと話してきたが、宮川一朗太さんは、先日会った酒井一圭さんといい勝負ではないか思うくらい、心の底から競馬を愛している。ディープと、その父サンデーサイレンスと同じ3月25日生まれだという。彼と、見事な仕切りの腕を発揮した岡部玲子さんが、何を言ってもウケる空気をつくってくれたので、私もとてもしゃべりやすく、ただでさえ長い話がいつも以上に長くなってしまった。

 このディープインパクト展、思っていた以上に素晴らしい内容だった。故郷のノーザンファームで育成馬時代に乗っていた女性スタッフや、その厩舎の責任者だった横手裕二さん、管理した池江泰郎元調教師、主戦の武豊騎手ら、関係者からの手紙を読んでいると、時間が経つのが驚くほど早く感じられる。横手さんの直筆の手紙からは彼の実直さがドーンと伝わってきて、
 ――こういう人たちに見守られ、支えられて、「ウインドインハーヘアの2002」はディープインパクトという名馬になったのだな。

 と、実感をもって理解することができる。

 栗東・池江泰郎厩舎に来てから担当した市川明彦厩務員がディープに跨っている写真など、非常にレアな展示もある。

 また、こうした展覧会にしては珍しく、写真撮影が自由というのも嬉しい。この展示を通じて、ディープインパクトというサラブレッドの素晴らしさを、ぜひ味わってほしいと思う。

 そのトークイベントに先立ち、東京の仕事場に戻って最初にしたのは、「優駿エッセイ賞」予選通過作を読むことだった。

 私が選考委員になってから今年で4年目なのだが、毎年力作揃いで、「仕事」というより「勝負」という気持ちで読んでいる。

 選考委員会までに何度か読み返すつもりだが、私のなかではグランプリは一作に絞られた。ほかの選考委員がどんな評価をするかは当日になってみないとわからないが、この作品をイチオシにするのは私だけではないと思う。

 上位3人ぐらいの書き手は、本人さえその気になれば、プロの競馬ライターとして即やっていける、と毎年思う。

 先日、鈴木淑子さんにも言われたのだが、私は、新しい書き手やクリエイターを後押しすることがままある。わざわざ自分のライバルになり得る人材をプッシュするのは、まさに「情けは人のためならず」で、将来、私の能力が落ちて食えなくなったとき、助けてくれる人を今のうちに確保しておきたいからだ。

 それはさておき、実は今、ほかの分野で活躍している書き手で、競馬関連の原稿を書いたら面白いのでは、と思っている人がいる。

 放送作家の今浪祐介さんだ。

 歌手の福山雅治さんが「TOKYO FM」系列で持っているレギュラー番組「福山雅治 福のラジオ」に出演している放送作家、と言えば、「ああ、あの人か!」とわかる人は多いのではないか。

 もう半年以上前になると思うのだが、札幌の実家近くで運転しながらその番組を聴いていたときのことだった。福山さんが、ある調査結果を読み上げた。それは、「もし入れ替わることができるなら、誰になってみたいか」といったものだった。福山さんが「男性の第1位は、私、福山雅治でした。って、本人にこんなの読ませるんじゃないよ」と笑い、今浪さんに「君は、入れ替わるなら誰になってみたいの?」と訊いた。すると今浪さんは「武豊です」と即答した。

 以来、私は「この人、競馬ファンなんだ」と親近感を抱くようになった(もちろん、面識はないのだが)。ゴールドシップを担当していた今浪隆利厩務員と同じ名字というのもいい。

「優駿」などで、今浪さんに、GIの観戦記などを書いてもらったらどうだろう。

 ムムッ、今見たら、先週の注目数が47に増えている。それはそうと、この稿がアップされる10月12日、木曜日、前述した今浪厩務員にも取材した拙文「最強同級生秘話 ゴールドシップ&ジャスタウェイ 絆物語」などが掲載されるスポーツ誌「Number」が一部地域を除いて発売される。最後も手前味噌になってしまったが、ともかく、秋競馬たけなわ、である。

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作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナーのポートレート撮影は桂伸也カメラマン。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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