あの玉砕逃げシルポートに「なかなかいい」子/吉田竜作マル秘週報
◆「ホント動くねえ。これなら面白いかも」と師も高評価
サンデーサイレンスが日本に導入されて以来、種牡馬記録は次々と塗り替えられた。直子の活躍はもちろん、2世代目も根を張り、今日の繁栄へとつなげている。もはや日本の競馬史はこの偉大な種牡馬抜きには語れない。
サンデー産駒の最大の特徴といえば、ディープインパクトに代表される圧倒的な瞬発力。某調教師が「武豊の騎乗スタイルまで変えてしまった」と言うほど、その産駒の加速力は驚異的なものがある。仮に似たような産駒ばかりなら、まだ他の種牡馬にも活躍する余地はあったのだろうが…。サンデーの偉大さはそれだけでは終わらなかったところにある。
例えばステイゴールドのような根性の塊のような馬も出せば、残念ながらその血をつなぐことはできなかったが、圧倒的なスピードを誇ったサイレンススズカのような馬も出した。さらにすごいのは母系に入っているケースでも圧倒的な“存在感”を発揮していることだ。先週の秋華賞を制したディアドラは、それまでJRA・GI未勝利のハービンジャー産駒。この馬にも母の父スペシャルウィークを通してサンデーの血が流れており、ハービンジャーに花を持たせたのも、実はサンデーの血? そう言いたくもなる。
メジャーな血統ではなくても、サンデーの血はそれこそ大手広告代理店のように、今や細部にまで入り込んでいる。時には自滅も辞さないような、玉砕覚悟の逃げでターフを沸かせたシルポートもまた、母の父としてサンデーの血が入っている新種牡馬だ。
初年度産駒の数はわずかに16頭(そのうち2頭はすでにJRA登録から抹消)。父自身GIタイトルには手が届かなかっただけに、この境遇も仕方ないところなのだが、そのわずかな産駒から、先日のサウジアラビアRCで果敢に逃げ、15着と玉砕したハクサンフエロ(牡・牧)のような“らしい馬”が出てきたのが何とも面白い。
一方、今週の京都開催では父が現役時に所属していた西園キュウ舎からハクサンエンペラー(牡=母オークヒルズ)がデビューを迎えようとしている。正直なところ、POG絡みの取材の時には「走る走らないより、トピック用の馬にはなるかな」程度にしか思っていなかった。マイナー種牡馬とはいえ、母がJRAで3勝を挙げ、2頭の兄姉がJRAで勝ち上がっていたことから「まあ1勝くらいは…」といった感覚。しかし、先週のウッドでの追い切りを見て、非常に失礼な予測だったのでは…と思い始めている。3頭併せの一番外を回って軽々と最先着を果たしてしまったからだ。
父シルポートも攻め駆けタイプではあったが、競馬と同じでしまいは甘くなることが多かった。しかし、このハクサンエンペラーは最後までしっかりと動き切れていた。
「ホント動くねえ。これなら面白いかも」と西園調教師が言えば、息子の西園助手も「ゲートがめっちゃ速いんですよ。相手は強そうですが、おそらくは(ハナへ)行けるでしょうね。馬体も470キロくらいあるし、なかなかいい馬。初戦向きなのは間違いないですね」と高い評価を与える。
サンデーサイレンスの血の飽和状態を危惧する声は前々からあるが、裏を返せば、可能性を広げる圧倒的な血の力があったからこそ、ここまで広がったのだ。土曜(21日)の京都芝内1600メートル新馬戦は、父シルポート譲りの快速と、その力を支える偉大なサンデーの血に思いをはせつつ、ハクサンエンペラーの走りを見守りたい。