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【秋華賞(GI)】クリストフ、豊さん、ミルコの駆け引き合戦に興奮「見ていて本当に楽しかった」

  • 2017年10月19日(木) 18時01分
哲三の眼

▲今回は哲三氏も興奮した秋華賞レース中に行われていた騎手の駆け引き合戦を解説!(C)netkeiba.com


今週は牝馬クラシック最後の一冠・秋華賞(GI)をピックアップ。ルメール騎手の“神騎乗”が話題となったこの一戦も、哲三氏がポイントに挙げたのは武豊騎手&M.デムーロ騎手を含む上位3頭の騎乗ぶり。哲三氏に「見ていて本当に楽しかった」とまで言わせるトップジョッキー同士の駆け引き。その勝負の分かれ目とは?(構成:赤見千尋)

「ずっと“豊さんが勝つのかな”と思って見ていた」


 今週、注目したのは秋華賞です。まずファインプレーだと感じたのは、おそらく皆さんが思っている通りクリストフ(・ルメール騎手)。さらに、豊さん(武豊騎手)のポジショニング、ミルコ(・デムーロ騎手)の内回り2000mを意識した早めの追い込みと、上位3人の駆け引きはライブで見ていて本当に楽しかったです。「そう出るか!」という動きもあったし、これぞ京都の2000mの戦いだなと思いました。

 各騎手のファインプレーをお話しする前に、何がそのファインプレーに繋がったのかといえば、やはり仕上げが大事だと思います。

 ディアドラは前日も15-15で最後もしっかりとムチを入れて追っていました。それでいて馬体重が増えていたし、パドックではどっしり構えて気合も乗っていて、一番よく見えました。陣営の細やかな気を利かせた仕上げが勝利に繋がったと思います。

■10月15日秋華賞(GI)(京都)


 リスグラシューも渾身の仕上げだったし、ポジショニングとしては僕は豊さんの方が良かったと思うんです。その中でディアドラが差し切ったというのは、馬の力、状態、クリストフのファインプレー、馬場状態とすべてのことが噛み合ったからではないでしょうか。

 では、3人の動きを振り返って行きましょう。3人の中では一番前にいたのがモズカッチャンのミルコ。アエロリットを目標に競馬をして、早めに動いて粘り込もうという騎乗でした。それをちゃんと見ている豊さんは一番勝ちに近いパターンだと思っていたのですが、その豊さんを見て、外からじゃ間に合わないと思って、馬場が悪い中、3コーナーで内を選んだクリストフはすごい。

 実際、豊さんの外からでも行くことができたし、タラレバですが、ミルコが早めに動いて行かなかったら、3コーナーで豊さんもポジションを取りに行かなかったかもしれないし、そうしたらクリストフもそのまま豊さんの後ろについて来たかもしれない。その3頭の動きは、本当に見ごたえがありました。

 このレースは豊さんを軸にレースが展開され、豊さんが主導権を握っていたように見えました。ゲートは出負け気味で出たけれど、京都の2000mの重い馬場ならあのレースをすれば勝てるというお手本のような騎乗で、僕はずっと「豊さんが勝つのかな」と思って見ていました。

 3コーナーでミルコが動いて、豊さんが外から上がって行き、クリストフは内を選択。外を回ったら豊さんに勝てないと感じたのかもしれませんが、あの場面で最内に入るということは詰まるリスクがあるし、ミス騎乗に繋がりかねない危うさがある中で、一瞬で判断して内に行ったことはさすがです。

哲三の眼

▲「一瞬で判断して内に行ったクリストフはさすが」(c)netkeiba.com


 ただ、厳しいことを言わせてもらえば、本来は簡単にあそこを突かせてはいけない。クリストフは、内に行けば内が開く、直線では簡単に捌けると思って、実際にそうなったわけですし。普段のレースから、このジョッキーの内は開くと思われている。

 直線は仕方ないですが、3コーナーで内をすくわれるようではダメだし、簡単にファインプレーを出させるようではダメなんです。1つでも上の着順を取ることを考えたら、そういう細やかなところも考えていかないと。もちろん、ムリに締めたりするのはルール違反ですが、簡単に内に入らせないこだわりは欲しいです。

 上位3人だけではなく、負けてるけれどいい騎乗をした騎手はたくさんいました。4着だったラビットランに騎乗した和田君(竜二騎手)にしても、ゲートを出してポジションを取りに行って、馬場が悪い中最内でずっと我慢していた。しっかりまとめて走れていたし、やっぱり力はあると思いました。ただ、馬場が合わなさ過ぎましたね。この馬にとっては内枠も可哀そうだったと思います。

 そして、一番可哀そうだと感じたのは1番人気だったアエロリット。もう少し雨が降らないであげられたらなと思いました。タフな馬場の中で2分0秒2というスピード競馬になって、距離が心配なアエロリットには厳しかったと思います。

 でも、ノリさんのファインプレーを見ることができました。返し馬の時に、ポケットからゲートに向かって来る時です。馬のテンションが上がってゲートのところを通り過ぎたのですが、テンションが上がったというだけではなくて、おそらく馬が馬場で滑って怒っていたんです。スナップが合わないから滑ってしまって、それでイライラしているように見えました。

 ノリさんはずっと、「この馬の走りのリズム、俺にしかわからないこの馬のリズムを大事にしている」と言っていましたが、あの場面を見てその意味がわかったかなと。

 止めようと思ったら止められるけど、そこをムリして止めて、自分とアエロリットとの関係を壊したくないというか、あそこはまだ自由にさせながら止めることを選択した。僕はそこは大事だなと思うんです。ただ好き勝手させるわけではなくて、もっと高いレベルで馬の気持ちに合わせている。そこが馬との信頼関係に繋がっていくし、そういう信頼関係を大事にしているんだということがよく見えた場面でした。

 馬券的には残念だったけれど、馬の気持ちを尊重してあげたいというノリさんのこだわりが見えて、やっぱりすごいなと。僕はそれも一つのファインプレーだったと思います。

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▲「馬の気持ちを尊重してあげたいというノリさんのファインプレー」(写真はNHKマイルC優勝時、撮影:下野 雄規)


今週の注目コンビ


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▲「今週はアイビーステークスに出走するタニノフランケルとフラットレーの対決に注目」(c)netkeiba.com


 今週はアイビーステークスに出走するタニノフランケル(×福永祐一騎手)とフラットレー(×ルメール騎手)の対決に注目しています。

 今のところ抜けた2頭だと感じているので、このタイミングで戦うのが楽しみです。雨降り馬場の競馬も今後の経験値と予想するためのファクターにもなりますし、騎乗するジョッキーたちがどんな競馬を見せてくれるか注目です。

(文中敬称略)

1970年9月17日生まれ。1989年に騎手デビューを果たし、以降はJRA・地方問わずに活躍。2014年に引退し、競馬解説者に転身。通算勝利数は954勝、うちGI勝利は11勝(ともに地方含む)。

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