スマートフォン版へ

秋天のサイン馬券

  • 2017年10月26日(木) 12時00分


 セリーグのクライマックスシリーズ・ファイナルステージで横浜が広島に4連勝し、日本シリーズ進出を決めた。勝負事における勢いの大切さを再認識させられたが、今週の天皇賞・秋の登録メンバーにも、特別な勢いを感じさせる馬がいる。

 グレーターロンドン(牡5歳、父ディープインパクト、美浦・大竹正博厩舎)である。

 甥のキセキが先週の菊花賞を制し、名門・下河辺牧場の誇る一族の力を強烈にアピールした。

 この牝系において、エアグルーヴやルーラーシップ、オレハマッテルゼなどが出た牝系のダイナカールに相当するのが、1998年の桜花賞で2着になったロンドンブリッジだ。ロンドンブリッジの初仔は2004年のオークス馬ダイワエルシエーロ、2番仔は05年のアーリントンC、06年の京都金杯を勝ったビッグプラネット、4番仔ダイワディライトは09年のカペラS2着、8番仔ブリッツフィナーレの産駒がキセキ、そして、10番仔がグレーターロンドン、ということになる。

 ロンドンブリッジは、97年8月、札幌芝1200mで行われた旧3歳新馬戦を5馬身差、同じ舞台の500万下を6馬身差で逃げ切り、次走のファンタジーSも優勝。無傷の3連勝を遂げた。年明け初戦の4歳牝馬特別は4着、桜花賞2着、オークス10着となったあと、屈腱炎を発症し、現役を退いた。勝つときは圧勝で、好調が長期間持続するタイプだった。

 そうした特性は、見事に子孫に遺伝している。グレーターロンドンは、15年2月の新馬戦を圧勝し、つづく山吹賞こそ2着だったが、3戦目となった10月末の500万下から今春の東風Sまで破竹の5連勝をやってのける。間に丸一年の休養を挟んでいるのだが、一度調子が上がると、ずっと高いレベルで能力を発揮しつづけている。

 兄のダイワディライトも、06年11月の新馬戦から09年12月のカペラSで2着になるまでは[7-5-0-1]で、2戦連続2着に8馬身差をつけて勝ったこともある。

 キセキも「同型」で、昨年12月の新馬勝ちから先日の菊花賞制覇まで[4-1-2-1]。唯一の着外は2戦目のセントポーリア賞でコンマ4秒差の5着になったもので、ほとんど崩れたことがないわけだ。

 グレーターロンドンの連勝は2走前の安田記念で途切れたが、それでもコンマ1秒差の4着で、前走の毎日王冠はコンマ2秒差の3着。長期間好調がつづく「ドカ勝ち」の血が爆発する準備はできている。

 先週不良となった東京の芝コースが完全に回復することはないだろうから、ある程度の道悪適性が求められそうだ。その点、甥のキセキはルーラーシップ譲りの部分が大きかったのかもしれないが、グレーターロンドン自身も稍重で勝っているし、姉のダイワエルシエーロも稍重となったオークスとマーメイドSを制している。

 横浜ベイスターズに通じる勢いがあるというだけではサイン馬券にならないかもしれないが、ともかく、この馬の単複を買ってみたい。

 いや、サインがあった。菊花賞が行われた10月22日、ボクシングの村田諒太選手がWBA世界ミドル級王者となった。オリンピックの金メダリストとして日本人で初めて世界王者となったわけだが、彼が金メダルを獲ったのは「ロンドン」オリンピックだった。祖母オールフォーロンドン、母ロンドンブリッジ、本馬グレーターロンドンと、3代にわたって「ロンドン」である。これだけでも単複の購入額を増やす理由になってしまうのだから、普段からいかに脆弱な根拠に従って買っているかがよくわかる。

 実は、先週も似たような馬券が当たった。今年同様、ダービーの上位3頭が出なかった直近の菊花賞の勝ち馬がゴールドシップで、その前がヒシミラクルと、どちらも芦毛だった。だから、芦毛のポポカテペトルが来る、と別の連載エッセイに書いたら、13番人気ながら3着に来て、複勝が1110円ついた。

 ポポカテペトルも、兄にスプリングSを勝ったマウントロブソン、伯父にクロフネがいるなど、グレーターロンドンに負けないほどの超良血だ。

 ちゃんとした根拠がまったくなかったわけではない。まずサインありきではなく、論拠に勢いをつけるためのサインなのである。

 と、偉そうに言うほどのことでもないので、このあたりでまとめたい。

 せっかく素晴らしいメンバーが揃ったのだから、秋天当日はスカッと晴れてほしい。

このコラムをお気に入り登録する

このコラムをお気に入り登録する

お気に入り登録済み

作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナーのポートレート撮影は桂伸也カメラマン。

関連サイト:島田明宏Web事務所

バックナンバー

新着コラム

アクセスランキング

注目数ランキング