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楽勝だったスワーヴリチャードは高く評価されていい/AR共和国杯

  • 2017年11月06日(月) 18時00分


◆チャカつく仕草など見せず、素晴らしい馬に成長した

 久しぶりの良馬場。この時期になった1984年以降だけでなく、史上初めて4歳馬のいないレースを快勝したのは、20年ぶりの3歳の勝ち馬となるスワーヴリチャード(父ハーツクライ)だった。

 勝ちタイム2分30秒0は、2012年の4歳馬ルルーシュのレースレコードと0秒1差。コースレコードの2分29秒6(ムスカテール)とも小差だった。東京の芝2500mのGレースを「2分30秒0以内」の時計で勝ったのは、初夏の目黒記念で、そのムスカテールなど3頭。このAR共和国杯で、ルルーシュ、同じ2分30秒0だった2010年のトーセンジョーダン、そして今回のスワーヴリチャードを合わせ史上6頭。

 スワーヴリチャード以外はみんな4歳以上の古馬であること、入念な整備を施されてはいたが、2週連続の豪雨のあとで決して高速の芝コンディションではなかったことを考慮すると、競っての叩き合いではなく、楽勝だったこの3歳馬の中身は高く評価されていい。

重賞レース回顧

アルゼンチン共和国杯を快勝したスワーヴリチャード(撮影:下野雄規)


 日本ダービー以来5カ月ぶりの出走となったが、トモのあたりがたくましくなりプラス10キロの馬体重は502。チャカつく仕草など見せず、全体のバランスも良くなり、素晴らしい馬に成長していた。

 快時計で圧勝のあと、気の早い記者から、「3歳の菊花賞馬キセキは12月の香港ヴァーズに行く予定に変わったらしい」というニュースもあったため、スワーヴリチャードはまだ秋に1戦しただけ。同じ3歳の日本ダービー馬レイデオロとともに「ジャパンカップに挑戦してくれるのではないか」、そんな声が上がった。

 が、しかし、だった。このレースの前まですべて四位洋文騎手(44)とのコンビで6戦【2-3-0-1】のコンビを組んできたスワーヴリチャードは、今回、M.デムーロ騎手に乗り替わっていた。かつて、一家言どころか二家言くらいあるレジェンド調教師が、「騎手でどうのこうのいうなら、他の厩舎に持っていってくれ」。そうして弟子として騎手を育てた時代とは異なる。もともと騎手を決める権利(資格)があるのは、どこの国でも馬主であるのがふつうだが、現代の日本では、「生産牧場⇔馬主⇔調教師」の微妙な力関係によって、どこに決定権があるのかなんともいえない場合がある。

 どういう経緯で今回、四位→M.デムーロになったのか、ほんとうのところは周囲には分からない。ただ、はっきりしたのは、とりあえずM.デムーロには、もうジャパンカップで騎乗する予定の馬、騎乗しなければならない馬がいたのである(2頭くらい)。

 M.デムーロが乗れる可能性はゼロに近い。まさか、四位騎手に頭を下げれば再びなんとか…ということは、それはない。頭を下げて済むことと、済まないことがある。

 陣営は、レース直後なのでとりあえず明言は避け、「ジャパンCに行くか、有馬記念になるか…」というトーンになったが、再び、が、しかしである。有馬記念でM.デムーロが空いているわけがない。どの陣営もすでにトップ騎手の確保、割り振りに頭を悩ませている。スワーヴリチャードは、鞍上の決定が一転ニ転となる危険があり、また「きびしい中2週」という理由も重なるので、残念ながらジャパンカップは回避と思われる。スワーヴリチャード自身は、われ関せず、馬耳東風なので大丈夫。

 レイデオロ、スワーヴリチャードの日本ダービーは超スローだった。そのため時計の裏付けがなかったが、スワーヴリチャードが楽々と抜け出した2400m通過地点は「2分24秒0前後」である。神戸新聞杯を快勝したレイデオロの2400mも2分24秒6。レベルの高さを示すなかなかの好時計だった。

 チャンピオン=キタサンブラックは、2400mを3戦し、日本ダービーが2分25秒5。京都大賞典が2分25秒5。昨年、快勝したジャパンカップが2分25秒8。チャンピオンはそのことをいわれるとあまりいい気がしない。だから、骨のある強いチャレンジャーの挑戦を待っていた。レイデオロだけでなく、頭角を現したスワーヴリチャードのジャパンカップ出走も歓迎したいのだが、どうもそうはならないようである。

 2着ソールインパクト(父ディープインパクト)は、好位で「1分12秒6-(6秒1)-1分11秒3」=2分30秒0の流れに巧みに乗った。これで通算成績【4-5-11-12】。芝ではほとんど掲示板に載る。とりわけ2着、3着が多い典型的なハンデキャップホースであり、2000mを超す距離は「3、2、4、3、1、3、2」着。これで初めてオープン入りするので、手を出していいレースを見きわめたい。

 3着セダブリランテス(父ディープブリランテ)は、休み明けでここがまだ4戦目。それも初コース、初距離、前回は3歳限定重賞なので、実際は今回が初オープン挑戦のようなものだった。それで、苦しくなったゴール前でまた伸びている。軌道に乗ればたちまちトップクラスだろう。日本を代表する名牝系パシフィックプリンセスのファミリー出身である。出世レースに4歳馬不在で心配したが、わずか2頭の3歳馬が「1着、3着」。2頭の上昇に期待したい。

 アルバート(父アドマイヤドン)はダイヤモンドS3400mを58キロで勝っていたが、昨年のこのレースは2分33秒5で2着(57キロ)。珍しいステイヤーの典型になっているだけに、今年の4着(2分30秒7)には時計が足りなかった印象がある。デニムアンドルビーの挑戦(屈腱炎完治→変わらぬ能力発揮)は、まだ期待してもいいが、体調は戻ったが、どうも闘志が戻らないように映りはじめた。きびしいかもしれない。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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