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ララベルの軌跡を振り返る(前編)

  • 2017年11月07日(火) 18時00分


◆10年ぶりに地方馬によるJBC制覇となった

 大井のララベルがJBCレディスクラシックを制した。近年、JBCのたびに言われていたのは、「地方馬がJBCを制したのは、2007年スプリントのフジノウェーブのみ」ということ。以来、10年ぶりに地方馬によるJBC制覇となった。

ララベル

JBCレディスクラシックを制したララベル


 10年に一度のこと、という言い方をするとちょっと寂しいが、それほどの快挙だったともいえる。デビュー前から期待された大井の生え抜きだったということでは、関係者にとってもひときわ思い入れがあったようだ。

 歓喜の勝利だっただけに、表彰式後の共同インタビューで、荒山勝徳調教師が涙で声を詰まらせたのにはちょっと驚いた。

 そのインタビューでは「万全の状態でレースに使ったことがない馬で、それでも常に一生懸命走ってくれて、ここまで無事にきてくれて……」ということを話していた。たしかにララベルでは、勝ったときも、負けたときも、状態がよかった、調子がよかった、というコメントはほとんど聞いたことがない。

 今回と次回、2週に分けて、2歳時からポイントとなったレースでの荒山調教師のコメントとともに、ララベルの軌跡を振り返ってみたい。

 ララベルは2014年、2歳7月の新馬戦を勝ったあと、2戦目のつばめ特別では快速馬ルックスザットキルの2着に敗れ、3戦目として臨んだのが、重賞初挑戦となったローレル賞だった。スタート後は中団よりうしろで砂をかぶりまくったが、それでもひるまず。3コーナーあたりから馬群を縫うように進出。ゴール前では、内から抜け出したゼッタイリョウイキとの叩き合いをクビ差で制した。迫力あるレースぶりという言い方をすれば聞こえはいいが、あらためてレースを見ると、けっこうむちゃくちゃなレースだった。

ララベル

デビュー3戦目、ララベル(外)初重賞制覇となったローレル賞


「3コーナーのところでちょっと狭くなった部分と、直線で馬と接触してひるむようなところがあって、勝てないかなと思ったんですけど、そこから根性を出してくれて、また差し返して勝ってくれたので、ほんとに根性のある馬だなと感じました。まだ馬が固まってないところがあるので、もうちょっと身が入ってくればもっと走れる馬だと思っているので、大事に育てていってあげたいと思っています」

 続いて臨んだ東京2歳優駿牝馬は、大外16番枠からのスタート。好位から3コーナー過ぎで先頭に立つと、直後から並びかけてきたティーズアライズの追撃をハナ差でしりぞけた。

「中身も根性も男の子みたいなものを持ってるんですけど、まだまだ弱い面もたくさんあるので、来年になってしっかり中身が入ってくれば、もっともっと強くなると思います」

 デビューから4戦3勝、2着1回。地方所属の2歳牝馬としてはひとつの頂点、東京2歳優駿牝馬まで制して、まごうことなき地方の2歳牝馬チャンピオン。実際にNARグランプリ2歳最優秀牝馬にも選出されているのだが、「弱い面もたくさんある」「もうちょっと身が入ってくれば」と、まるで負けた馬かというようなネガティブなコメントばかりだったことが印象として強く残っている。

 明けて3歳。東京2歳優駿牝馬を勝った直後に、「間隔が詰まるのでユングフラウ賞は捨てて」と話していたとおり、浦和の桜花賞には3歳の復帰戦として臨んだ。逃げたのは兵庫のトーコーヴィーナスで、ララベルはぴたりと2番手。3コーナーからは3番手以下を離しての一騎討ち。残り100mからララベルがジリジリと前に出て、半馬身差をつけたところがゴールだった。

「今まで出走した中で一番状態が良くなかったので、とにかく無事に走ってくれという気持ちで見ていました。それでもあの競馬ですから、この馬の強さにはとにかく驚いています。東京プリンセス賞では前向きなコメントが出せるよう調整したいです」

 その東京プリンセス賞はデビュー以来初めて1番人気に支持されるも、スローペースに折り合いを欠いて3着。勝ったのは、東京2歳優駿でハナ差2着にしりぞけていたティーズアライズだった。

 関東オークスではなく東京ダービーで牡馬に挑戦したララベルは4着。さらに夏休みを挟んで出走した3歳馬の準重賞、大井2000mのスターバーストCでは、羽田盃を制したストゥディウムをはじめ、東京ダービー2、3着馬など、同世代の牡馬のトップホースを一蹴して見せた。

 そして1番人気で臨んだロジータ記念は、逃げた兵庫のトーコーヴィーナスを3、4コーナーでとらえると直線で突き放し、4馬身差をつける圧勝となった。

「デビュー当初から弱いところばかりで、なかなか強気なコメントも出せなかったんですが、社台ファームで夏休みを終えて帰ってきた頃からだいぶしっかりしてきました。前走(スターバーストC)は、距離を試すということと、ここに向けてひと叩きのレースだったんですけど、そこもほんとに強い勝ち方をしてくれました。今後は、南関東の重賞では斤量も背負ってしまうので、ほかの路線(中央やダートグレード)も考えていこうかと……」

 いよいよ手ごたえを感じてきた3歳秋。続いて出走したのは、中央挑戦でもダートグレードでもなく、年末の東京シンデレラマイル。古馬と初対戦となったこのレースで、思わぬライバルが出現する。この年の夏前、中央から同じ荒山厩舎に移籍してきたブルーチッパーだ。単勝では56kgのララベルが1番人気で、57kgを背負うブルーチッパーとの馬連複は2.2倍。2頭に人気が集中した。

 逃げたブルーチッパーに、ララベルはやや差をあけて2番手を追走。4コーナー手前でララベルがブルーチッパーをとらえにかかった。直線、残り200mを切ってからは馬体を併せての追い比べ。しかしララベルはアタマ差及ばずのゴールだった。

ララベル

ブルーチッパー(内)との同厩舎対決となった東京シンデレラマイル。ララベル(外)はアタマ差2着


「嬉しい気持ちもあり、ほっとした気持ちもあり、いろいろです。(ブルーチッパーは)本馬場入場の前に落鉄があって、どうしようっていう状態だったんですけど、そういうアクシデントも跳ね返して、同厩舎でなんですけど、ララベルを抑えての勝利というのも、すごく価値がある勝利だったんじゃないかと思います」

 管理馬のワンツー決着にも、荒山調教師は複雑な心境を吐露していた。

(つづく)

1964年生まれ。グリーンチャンネル『地・中・海ケイバモード』解説。NAR公式サイト『ウェブハロン』、『優駿』、『週刊競馬ブック』等で記事を執筆。ドバイ、ブリーダーズC、シンガポール、香港などの国際レースにも毎年足を運ぶ。

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