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乗馬療育シンポジウム開催

  • 2017年12月06日(水) 18時00分


これからの乗馬療育をどう発展させて行くか


 12月4日(月)、浦河町総合文化会館にて、「馬は理想のセラピスト2017」と題するシンポジウムが開催された。主催はうらかわ乗馬療育ネットワーク。昨年、一昨年に続き、これで3回目の開催である。

「馬は理想のセラピスト2017」と題して開催されたシンポジウム

 「うらかわ乗馬療育ネットワーク」とは、乗馬療育、普及のために、療育を実施する団体、利用者、医療機関、行政、福祉従事者などのメンバーにより設立されたネットワークで、今回のシンポジウムは、「これからの乗馬療育をどう発展させて行くか」がテーマである。

 開会は午後7時。会場には町内外からざっと200名ほどの人々が集まった。まず最初に、「浦河町の乗馬療育のこれから」と題して、江刺尚美さん(一般財団法人ホースコミニュティ乗馬療育インストラクター)と、今年から研修生として浦河町で乗馬療育インストラクターを目指す三浦理佳さんが、当町で行われている乗馬療育についてスライドを交えながら詳しく報告した。

シンポジウム会場風景

 続いて「地域連携と乗馬療育」と題し、浦河ひがし診療所の院長(精神科医)である川村敏明さん、同診療所の副院長(社会福祉士、精神保健福祉士)の高田大志さんが浦河という地域性を生かした乗馬療育のあり方について語り、さらにJRA馬事部の西尾高弘さんが「JRAから見た乗馬療育」について語った。

 最後に登場したのは、昨年に続いてシンポジウムに参加した角居勝彦調教師である。氏は改めて紹介するまでもなく、栗東所属の高名な現役調教師で、一般財団法人ホースコミニュティ代表理事として、引退した競走馬の処遇を考える中で、馬を介在したノーマライゼイションの実現及び健康社会の構築を目指し、2013年にこの財団を設立。馬を通じた癒しとふれあいをテーマに「サンクスホースデイズ」というイベントの開催支援や引退競走馬の福祉、医療などへの転用の可能性を模索し続けている。付言しておくと、ノーマライゼイションとは「障害者(広くは社会的マイノリティも含む)が一般市民と同様の普通の生活・権利などが保障されるように環境整備を目指す」理念を指す。

角居勝彦調教師

 そもそも乗馬療育とは、「楽しみながら馬に乗る」こと、「馬と触れ合う」ことなどを通じて、心身に障害を持つ方などの能力向上と社会参加を促すことを目的としている。浦河町では町の事業として、障害児の療育と高齢者の介護予防のための乗馬を実践しており、すでに20年以上の歴史を有する。

 1996年に社会福祉法人・わらしべ会により「浦河わらしべ園」(浦河町西舎)が開所した際に、障害者を対象とした乗馬療育が同園でスタート。2年後の1998年に「日本乗馬療育インストラクター専門学校」が同会によって浦河町にて開校した。

 この専門学校は残念ながら2008年に閉校となったが、その後、同校で培われたノウハウを生かした乗馬療育活動は様々な変遷を経て今日まで存続しており、その中心になっているのが、江刺尚美さんである。

江刺尚美さん

 2015年より、乗馬療育の発展・普及のためにうらかわ乗馬療育ネットワークが設立され、さらに今年、より地域に根差した乗馬療育の安定的な提供・普及のためのNPO法人ピスカリが新たに発足した。代表には江刺さんが就任した。

 浦河町の特性を生かした療育馬の生産や育成、さらには都市部に住む障害を持った方々や高齢者、あるいは日々ストレスにさいなまれている方々へ、馬を通した豊かな時間を提供するプログラムの開発や提供を行って行くための法人化だと設立趣旨には明記されている。

 乗馬療育には、まず主役の馬(それも従順な訓練の行き届いた馬ということになる)、そして、専門知識と経験を有するスタッフ、療育を実施する場所や馬を飼養管理する場所が必要になってくる。

 浦河に限らず、日高はサラブレッドの一大生産地として長い歴史と多くの牧場が点在しており、こと馬に関するこうした取り組みにはひじょうに適した環境にある。

 ただ、それには、まず資金が要る。この町で乗馬療育をさらに発展させて行くためには、さらなる広範囲からの協力、支援が不可欠であろう。浦河町のふるさと納税の使い道の一つにもこの乗馬療育の取り組みが挙げられており、行政も支援する事業となっているが、将来的には、中央地方を問わず、競馬の収益金からも何らかの形で還元されるような仕組みになってくれると、より可能性が広がる。

 まだまだ認知度が十分とは言い難いのが乗馬療育で、もっと広く知られ注目されても良い試みと思う。以下にURLを記しておくので関心がおありの方は一度閲覧されることをお勧めしたい。

 http://urakawa-joba.net/

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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