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来季のクラシックに大きな展望が広がった/朝日杯FS

  • 2017年12月18日(月) 18時00分


◆目指すはマイル戦ではなくクラシック

 ダノンプレミアム(父ディープインパクト)は、あまりに素晴らしかった。

 前回が東京芝1600mの2歳コースレコード1分33秒0。自身の中身は推定「46秒4-46秒6」-上がり3F34秒4なら、今回は改修直後のウオッカの基準時計1分33秒1とほとんど差のない1分33秒3=「推定47秒8-45秒5」-上がり3F33秒6。

 平均バランスのマイルでレコード勝ちのあと、今度は相手に合わせるように前半なだめて進み、馬場差を考慮するとウオッカの時計と互角以上の1分33秒3で独走。すでに東京に遠征して快走しているから、小回り中山2000mの「ホープフルS」を選択の必要もない。総合力が問われることの多い阪神の1600mを選んだだけのこと。もとよりマイル戦に照準を合わせるわけもなく、来季のクラシックに大きな展望が広がった。

重賞レース回顧

朝日杯FSを快勝したダノンプレミアム(c)netkeiba.com


 3戦3勝のワグネリアン(父ディープインパクト)、2戦2勝のオブセッション(父ディープインパクト)などがすでにクラシック候補に名を連ねるが、ダノンプレミアムのランクは、文句なしに「トップ3」に入るだろう。まだホープフルSなどがあるので軽々しくいえないが、未来のエースへの最初の称号「最優秀2歳牡馬」のタイトルもみえている。

 ダノンプレミアムのファミリーには、すぐ近いところに著名馬がいるわけではないが、母の父インティカーヴ(祖父は英ダービー馬ロベルト)は、2015年の日本ダービー2着サトノラーゼン(父ディープインパクト)と同じ。祖母の父も同じノーザンダンサーの孫世代のデインヒルと、カーリアンの違いだけなので、ヘイルトゥリーズンの「4×5」も、ノーザンダンサーの「5×5」もまったく同じ。そっくりの配合形である。

 ずっと英・愛で発展しスタミナ色の濃い牝系であり、4代母アシュロウンの半兄には、名馬ロイヤルパレス(1964年英国産。父バリモス)がいる。ロイヤルパレスは英ダービー、キングジョージVI&クイーンES、エクリプスSなど11戦9勝の中〜長距離型だった。血統面でも、目指すはマイル戦ではなく最初からクラシックである。

 前回までは、エンジン全開になるとフットワークが乱れそうになる幼さがあったが、今回は控えて進み、直線スパートで「11秒0-11秒7」の高速ラップながら、左ムチが入っても、右ムチが飛んでも、ほぼ一直線に伸びた。追撃に入ったグループのほうが斜行しかかるシーンがパトロール映像で確認できるほどである。

 間隔をとった出走で「476→482→490」キロとなった馬体には迫力が増している。この世代はディープインパクト牡馬の当たり年ではないかとされるが、多くの成功種牡馬はだいたい15歳前後に、最高傑作や、自身の最良の後継馬を送る傾向がある。ディープインパクトの牡馬は、サトノダイヤモンド、キズナ、ミッキーアイル、マカヒキ…など、強さと同時にもろさ(好調期間の短さ)があり、本当の大物(父と互角の評価を受ける馬)はまだ出現していないと考えられている。誉めすぎかもしれないが、そろそろディープの…に、ダノンプレミアムを筆頭にこの世代から出現があっても不思議はない。

 朝日杯FSの勝ち馬で、皐月賞を制したのはグレード制の敷かれた1984年以降「3頭」いる。直近では2012年のロゴタイプが皐月賞馬となった。日本ダービーとの結びつきは、2009年のローズキングダム2着の前はかなりさかのぼる。1993年のナリタブライアンまで日本ダービー馬はいないが、今回のダノンプレミアムの「3馬身半」差は、ナリタブライアンの「3馬身半」差以来の、そっくり同じ決定的な差である。

 今回の2着馬も、前回のサウジアラビアRCと同じステルヴィオ(父ロードカナロア)だった。これは歴史的名馬に多く見られるパターンであり、伝説のシンザン、ミスターシービーなどにも同じ2着馬の名前が並ぶ。シンボリルドルフも、ディープインパクトもそうだった。ステルヴィオの4代母スイートコンコルド(父パーソロン)は、そのシンボリルドルフの3歳上の全姉である。ステルヴィオが他のライバルに先着することにより、勝ち馬の強さが一段と浮き彫りになる形が、早くもみえたのかもしれない。

 そのステルヴィオ。2戦目から差す形で能力発揮の方向を目ざし、サウジアラビアRCでは、ダノンプレミアムを「0秒9」も上回る上がり33秒5で猛追した。だが、今回はスローに近い流れになった結果、勝ち馬との差を詰めたのではなく、2着に突っ込み上がり33秒8はメンバー中2位タイであっても、ダノンプレミアムの33秒6に見劣ってしまった。ただ、テン乗りとあって大事に乗った印象はある。ロードカナロア産駒の中では非常にシャープな体型で、筋肉量の目立つスピード馬に育つとも思えず、2000m級の方が合う可能性がある。

 スローに近いバランスなのに、上位陣が阪神1600mを1分33秒台で乗り切るレベルの高い一戦となり、上位5着までを占めたのはみんな5番人気までの期待馬。もちろんこれから力をつけていく遅咲きの馬もいるが、スケールや、未来がみえたところもある。

 3着タワーオブロンドン(父レイブンズパス)は、気のせいかまた一段と身体の幅が増したように映った。ダノンプレミアムをぴったりマークする作戦は予定通りだったが、前半1000m通過59秒3の緩い流れになって、前後にも両脇にも馬のいる一番苦しい位置取りになり、前がかりというか、終始もっと前に出たい素振りになってしまった。こういう上がり勝負は歓迎のはずだが、自身がかかっては自滅。やがてはともかく、しばらくは1600m以下に集中することになる。

 好馬体のケイアイノーテック(父ディープインパクト)は逆に、タワーオブロンドンの父レイブンズパスと同様にイルーシヴクオリティ直仔になるスマーティジョーンズ(ケンタッキーダービー馬)を母の父に持つが、どっしりしていてもマイラー体型ではないように映る。2着ステルヴィオと同じ上がり33秒8で、同タイム1分33秒9の4着。力強く伸びた。関西馬には、今回は地元のG1朝日杯FSに出走するが、別にマイル路線にこだわらない期待馬が多くいるはずで、このあとは1800〜2000m級と思える。

 ファストアプローチ(父ドーンアプローチ)は、とくにバテているわけではないが6着に沈んだあたり、速い脚がないので高速上がりのマイル戦は合わないだろう。

 5着ダノンスマッシュ(父ロードカナロア)は、スタートでつまずく不利。そのあとはうまくインにもぐり込んでカバーしたが、先行タイプのスピード型だけに、今回はスタートのロスが大きすぎた。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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