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「馬券購入禁止へ」新制度施行となるエージェントの功罪とは

  • 2017年12月25日(月) 18時01分
教えてノモケン

▲11月4日にJRA通算700勝を達成したC.ルメール騎手、史上初の“外国人騎手の最多勝”は目前(撮影:下野雄規)


 今年の中央競馬は12月28日の開催を残しているが、クリストフ・ルメール(38)が武豊(48)以来、12年ぶり史上2人目の年間200勝に王手をかけ、戸崎圭太(37)に24日時点で28勝の大差をつけて初の最多勝を決めた。むしろ、戸崎とミルコ・デムーロ(38)の2位争いの方が、最終日までもつれそうだ。外国人騎手の最多勝となれば、もちろん史上初。2015年にルメール、デムーロが同時にJRAの通年免許を取得した時点で、少なからぬ人が、こうした状況を予期したかも知れない。だが、現実として突きつけられると、日本の騎手界の1つの節目と考えざるを得ない。

 そんな折、JRAは11月14日、2018年年明けから、いわゆるエージェント(騎乗依頼仲介者)に関するルールを見直すと発表した。日本の管理競馬の隙間をつくように自生的に現れたエージェントは近年、良くも悪くも注目を浴びるようになり、JRAも規制に重い腰を上げた。ただ、“中の人”の都合で現れた存在とあって、規制の限界も明らかだ。

「断り役」をJRAが追認


 正確に言えば、カッコ付きのエージェントに「騎乗依頼仲介者」という職名がついたのは06年4月。仲介者を運用する騎手は、JRAに誰を起用しているかの届け出を求められるようになった。ただ、こうした人々が現れたのは、はるか昔だ。第1号は岡部幸雄・元騎手で、殺到する騎乗依頼の交通整理を旧知の競馬専門紙記者に依頼した。後に、こうした動きはトップ騎手全体に広がっていく。

 岡部氏は早くから米国競馬で見聞を広め、騎手がマネジメントを代理人に任せ、騎乗に集中する姿を見ていたが、一方で自身が仲介者を置くに至った事情は極めて日本的だ。要は「直接は断りにくい」のだ。

 トレセン時代も、競馬場に厩舎があった時代も、厩舎関係者は同じ空間に集まっている。しかも、岡部氏の世代の騎手は徒弟制度の世界で育った。第一人者の座に登り詰めれば、能力、将来性のある馬に乗りたくなるが、元の師匠筋の依頼はむげに断りにくい。そこで、代わりに断ってくれる人を立てた。騎手1人にエージェント1人がつき、細部的な契約も書面で明確化する北米や、多くのトップ騎手が大馬主の契約騎手となる欧州とは対照的な経緯だ。

 そもそも、80年代以前は、フリー騎手自体が少なく、大半は厩舎に所属していた。勝ち星の少ない騎手は、厩舎から支払われる給料が命綱だった。ところが、80年代に馬主が厩舎に支払う預託料の圧縮が叫ばれ、預託料の大半を占める人件費(ほぼ馬主が負担する)を抑えるため、人員削減の意味で、騎手を所属から外すフリー化が進行した。こうして、厩舎と騎手の関係はドライになり、騎手経験のない調教師の増加とも相まって、トップ騎手が「売り手市場」の恩恵を受け始める。

仲介者がレースを「操作する」?


 競馬学校騎手課程の初期の修了者が全盛期を迎える90年代には、武豊騎手を初め、下の世代で仲介者を置く騎手が増え始めた。こうした中、今世紀に入ると特定の仲介者が複数の有力騎手を抱え、一部で「〇〇軍団」と呼ばれるグループが登場する。「断り役」が、「代案を提示する」形に発展した格好だ。この方が依頼する側は便利だし、騎手側も乗り馬を確保しやすい。

 双方にメリットがあるのだが、問題は個人事業主のはずの騎手が「チーム戦」をしているように映ることだ。しかも、仲介者のほとんどは競馬専門紙の取材者で、所属会社で予想を公表している。騎手や調教師から敏感な情報を聞く仲介者と、予想者という立場は、フェアな形で両立可能かという疑問は当然、生じる。しかも、厩舎関係者同様、仲介者も同じ空間に集まっていて、横の連絡は取りやすい。仮に情報交換を越えて、有力騎手を抱える複数の仲介者がグループを形成する形になれば、『レースを「造れる」のでは』という疑念も生まれてくる。

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1964年1月19日、東京都出身。87年4月、毎日新聞に入社。長野支局を経て、91年から東京本社運動部に移り、競馬のほか一般スポーツ、プロ野球、サッカーなどを担当。96年から日本経済新聞東京本社運動部に移り、関東の競馬担当記者として現在に至る。ラジオNIKKEIの中央競馬実況中継(土曜日)解説。著書に「競馬よ」(日本経済新聞出版)。

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