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凱旋門賞の前哨戦が日程変更 2018年各国の主要レース

  • 2018年01月10日(水) 12時00分


◆変更の背景をフランスギャロの事務総長に取材

 ネットケイバを御覧の皆様、大変遅ればせではございますが、新年明けましておめでとうございます。日本のメディアで取り上げられる、海外の競馬や馬産に関わる情報は、かつてに比べれば驚くほど多くなった昨今ですが、よもやそこに埋没することなく、培ってきた情報網の中から皆様方にとってより有益な話題をセレクトし、自分なりの感覚で分析した記事をお届けすべく、より一層の精進を重ねる所存です。本年も、「週刊サラブレッドレイシングポスト」をご愛顧いただけますよう、どうぞよろしくお願い申し上げます。  

 各国各地域における2017年の各種統計を整理するとともに、2018年の主要競走・主要セールの日程を再確認して自分自身のおおまかな行動日程を組み立てるのが、年末年始の恒例となっている。

 競馬やセールの開催日程というのは、年が改まったからと言ってそれほど大きく変わるものでもないのだが、国際的イベントの数がこれだけ増えてくると……、筆者がこの仕事を始めた30数年前に比べると、遥かに過密な状態になっている。日程調整に困るケースも、まま起こりうる。

 差し迫った問題は、3月下旬から4月上旬にかけてのスケジューリングである。

 ここ3年ほど、3月第1週の開催が定着していた「ファシグティプトン・ガルフストリーム2歳セール」が、2018年は3月最終週に移設され、26日(月曜日)が公開調教で、28日(水曜日)がセールとなった。ガルフストリームパークでは3月31日(土曜日)に、G1フロリダダービーを含めて5重賞が施行される豪華な開催が予定されており、「3月最終週はフロリダでセールと競馬を楽しもう」という意図がそこには垣間見える。

 そしてその翌週、すなわち4月第1週に、カリフォルニアで「バレッツ・スプリング2歳セール」の開催が予定されている。

 バレッツといえば3月の開催が定番で、「マーチセール」が通り名になっていたほどだが、開催地がフェアップレックスパークからデルマーに移って3年目となる今年、バレッツ社は2歳セールの開催フォーマットを大きく変えることになった。これまで5月に行っていたメイセールを廃止し、既存のマーチセールと統合させて、開催時期を4月に移して「スプリングセール」として再出発することになったのである。近年も、マーチセールの上場馬の質は悪くなかったのだが、もともと130頭余りという小規模のカタログで、欠場馬を除くと実際に上場される馬が100頭を切るケースが常態化しており、もう少し品揃えが豊富な方が良いという購買者側の声を反映した結果、2歳セールの一本化に踏み切ったものだ。

 2018年バレッツ・スプリングセールは、4月2日(月曜日)が公開調教で、4日(水曜日)がセールとなっている。すなわち、3月最終週はフロリダで過ごし、フロリダダービーまで楽しんだ後、4月1日(日曜日)にフロリダからカリフォルニアに移動すれば、その翌日にはバレッツの追い切りと、これはこれで収まりの良い日程になっているように見える。2歳セールのことだけを、考えるのであれば……。ところが、ここに世界の主要競走の日程を重ね合わせると、大問題が浮き彫りになるのだ。

 フロリダダービーがガルフストリームパークで行なわれる3月31日(土曜日)、ドバイのメイダンではG1ドバイワールドCデイが開催されるのである。

 ガルフストリーム2歳セールの翌日早朝にフロリダを発てば、30日(金曜日)早朝にはドバイに到着するから、レースには充分に間に合う。だが、取材も仕込みもほとんど出来ないまま、本番を迎えるのはなかなかにシンドイものである。

 そもそも、フロリダセールの追い切りに間に合うように現地入りしてしまうと、ドバイワールドCへ向けた展望番組に、全く関われなくなるのだ。

 そして、4月1日(日曜日)には阪神で大阪杯が組まれているが、これも現地観戦は諦めざるを得ない。

 で、ドバイワールドCの翌朝にドバイを発てば、4月1日(日曜日)夜にはサンディエゴに入れるから、2日のバレッツの追い切りには間に合うことになる。つまり、物理的にはフロリダ→ドバイ→カリフォルニアの移動は可能なのだ。

 もっとも、ドバイワールドC開催に馬を使っておられる調教師さんや馬主さん、大阪杯に馬を使っておられる調教師さんや馬主さんらにとっては、今年の日程ではファシグティプトンもバレッツも、参加は難しそうである。さて、自分自身の行動予定をいかがするべきか、もはや決めなくてはならない時季なのに、まだ逡巡している。

 2018年、主要競走の日程に変更が出たのが、秋のフランスである。新スタンドが完成し4月8日がこけら落としとなるロンシャンが舞台となるG1凱旋門賞は、例年通り10月の第1日曜日、具体的には10月7日(日曜日)に組まれている。改革が加えられたのは、いわゆる「アーク・プレップ」と呼ばれる前哨戦の開催日で、従来は本番の3週間前に施行されるのが慣例だったが、2018年は本番の4週間前、具体的には9月9日(日曜日)に、G1ヴェルメイユ賞、G2ニエル賞、G2フォワ賞という、本番と同コース・同距離の3重賞が組まれているのである。

 変更の背景について、主催者のフランスギャロで事務総長の職にあるオリヴィエ・デロワ氏に確認したところ、最も大きな理由は、「アイリッシュ・チャンピオンズ・ウィークエンド」との競合を避けることにあるとの回答であった。

 アイルランドが、重賞競走の集中開催である「アイリッシュ・チャンピオンズ・ウィークエンド」をスタートさせたのは、2014年のことだった。今年も、9月15日(土曜日)にレパーズタウン競馬場で、G1愛チャンピオン、G1メイトロンSという2つのG1を含む5重賞が。翌16日(日曜日)にカラ競馬場で、G1愛セントレジャー、G1ナショナルS、G1モイグレアスタッドSという3つのG1を含む5重賞が組まれた開催が予定されている。

 アイルランドの競馬関係者にとっては、自国を代表するビッグイベントで、これが創設されて以来、アーク・プレップに出走する愛国調教馬は激減してしまった。ことに、クールモア勢のアーク・プレップ出走を促すには、日程をずらす以外に方策はないと判断したフランスギャロは、アーク・プレップの開催を1週間早める決断を下したのである。

 前哨戦から本番までの間隔が、日本式の言い方で表すなら「中2週」から「中3週」になるわけで、個人的な意見を述べれば、これは日本から凱旋門賞に参戦する馬たちにとっては、朗報であろうと思う。

 2400mを走って、「中2週」で再び2400mを走るというのは、前哨戦はあくまでも前哨戦で、タフな競馬にはならないのだとしても、日本人の感覚からすると余裕があるとは言い難い臨戦態勢であった。「中3週」あれば、仮に前哨戦で消耗の激しい競馬をしても、立て直しの時間は充分にとれるはずである。

 あるいは、本番3週間前にシャープなひと叩きをしたいと考えるならば、愛チャンピオンSを使いに行けばよいわけで、馬を仕上げる側としては選択肢が広がったと言えそうだ。さて、アーク・プレップを現地取材するためにロンシャンに出向くとして、そこからアイルランドに渡って翌週末のアイリッシュ・チャンピオンズ・ウィークエンドまで現地に留まるかどうか、ここもまた内外の様々なスケジュールを勘案しながら、悩むことになりそうである。

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1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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