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変遷する生産地での騎乗者の出身国

  • 2018年01月18日(木) 18時00分


浦河町の登録外国人数が急増、顕著なのがインド人


 浦河町の登録外国人数が、ここ4年弱で倍増している。2015年3月末の時点で浦河町のまとめた国別外国人登録数は、計78人。最も多いのがフィリピン人で36人、次いでマレーシア人の17人であった。二桁以上はこの二ヶ国だけで、以下は、中国と韓国がそれぞれ6人ずつ。ニュージーランド、アメリカが各3人、スリランカ2人、ウクライナ2人という順になっていた。

 ところが、それ以後、急激にこの町では外国人が増え始め、翌2016年3月末になると、フィリピン人35人、マレーシア人19人に次いで、インド人が13人も一気にやってくるようになった。

 これら諸国からやってくる人々は、だいたい育成牧場で騎乗技術者として働くために来日している。フィリピン人、マレーシア人がこの町の「二大勢力」として目につく存在だったのが、ここにきて、勢力分布が大きく変わり、インド人だけが急激な勢いで増えている。

急激な勢いで増えているインド人騎乗者

急激な勢いで増えているインド人騎乗者

 2017年3月末になると、外国人登録者は118人に増え、フィリピン人42人、インド人31人、マレーシア人17人という順番に変化してきた。フィリピン人とマレーシア人にそれほど増減は見られないが、インド人だけがどんどん数を増しており、ついに2017年12月末になると、インド人が73人、フィリピン人39人、マレーシア人13人と、今やインド人がBTCでの最大派閥になっている。因みに2017年12月末の時点での外国人登録者数は計148人。ちょうど半数がインド人ということになる。

 確かにそうだろうなぁと納得できる。とにかく、ほとんどの育成牧場にインド人がいる印象で、しかも、必ず数人単位で働いている例が多い。牧場によっては明らかに日本人スタッフよりもインド人の方が圧倒的に多いところもある。特にここ1〜2年の間に急増していることがデータ上からも窺える。

 しかし、インド……?。いったいどういう経緯からインド人がここ浦河に来るようになったのだろうか?

 背景にあるのは、ますます騎乗者不足が深刻になりつつあるということ。そして、一頃主流を占めていたフィリピン人やマレーシア人などを新たに確保しにくくなってきたという事情もありそうだ。一説によれば「だいたいフィリピン人やマレーシア人で、来日希望を持つ人はほとんど来てしまった」とも言われる。一度来日し数年働いて帰国すると、もうその人々は二度とやって来ない傾向が顕著で、母国に残した家族に仕送りし、子供を進学させたり家を建てたりという当初の目的をある程度達成すれば、もう冬の寒い日本には来たくなくなるらしいのである。

 以前親しくなったフィリピン人に聞いたところによると、「貰った給料の7割は家族に送っている」とのことであった。「自分が使うのは、食費と、家族と連絡を取り合う携帯通話料だけ。酒もたばこもやらない。できるだけ節約している」とのことであった。

 おそらく、今この町に来ているインド人の多くも、母国の家族に仕送りするために出稼ぎに来ているのであろうから、もちろん生活はできるだけ切り詰めている様子が窺える。

 多くは共同で食事をしており、当番制なのかどうかは知らぬが基本的に自炊である。インド人の場合、ヒンズー教徒が多いので、宗教上の戒律から、専ら口に入れる肉類は鶏肉だけのようだ。昨年暮れ、とある育成牧場の忘年会で同席したインド人たちも、みんな寡黙に鶏肉だけを食べていた。

 同胞同士のやりとりはヒンズー語(と思われる)で、日本人スタッフとの間のコミュニケーションは、片言の英語が主になる。普段の調教では、簡単に距離とタイムを伝えて、後は日本人スタッフの後について騎乗するスタイルだからそれほど困ることはないという。

 だが、彼らが、ある程度日本語や日本の生活習慣などに慣れるのには、かなり時間がかかるだろう。日本人と日本語で日常会話を交わせるようになるには、最低でも5年や10年くらいはかかるだろうし、果たしてそこまで長期滞在するつもりがあるのかどうか。

 BTC開場以来、四半世紀が経過した。この間、オセアニア系白人から始まり、やがて東南アジア系の騎乗者がそれに代わり、今またインド人に主流が移行してきている。騎乗者として来日している彼らを介して、日印の新たな異文化交流ができないものかと思う。おそらくこの勢いだと、いずれインド人だけで100人の大台に乗る日もそう遠くないだろう。見方によっては、国際交流を進める上で、またとない人材の宝庫たり得るような気もするのだが。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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