◆テトラドラクマは今回が完調に近く、最大能力を発揮 真冬の変則3日間開催に加え、例年以上の寒さと雪が重なったため、調整が難しかったのだろう。11日の「京都記念」では、注目の断然人気馬レイデオロがゴール前にきてストライドが極端に小さくなって3着に敗退。東京の「共同通信杯」では注目のグレイルがまったく伸びることなく7着に凡走。12日の東京「クイーンC」でも、断然人気のマウレア(父ディープインパクト)が完敗の5着に沈んだ。
そんな中で、テトラドラクマ(父ルーラーシップ)が快勝したクイーンCは、1分33秒7の速い時計だった。2着に突っ込んだフィニフティ(父ディープインパクト)も、1分33秒8である。これは、勝ち負けに深く関係した連対馬とすると、2016年に独走したメジャーエンブレムの1分32秒5(レースレコード)、2017年の勝ち馬アドマイヤミヤビの1分33秒2、小差2着アエロリットの1分33秒3に次ぐ「1分34秒0未満」の連対時計である。
なぜ、速い時計に注目かというと、メジャーエンブレムは1番人気に支持された桜花賞は「4着」。17年のアドマイヤミヤビは2番人気の桜花賞「12着」、6番人気のアエロリットは「5着」にとどまっているからである。
メジャーエンブレムは激走のあとだけに、間隔をあけて直接桜花賞に向かったが、それでも結果は芳しくなく、立て直してNHKマイルCを勝ったものの、その後は体調がもどらず引退に追い込まれた。17年のアドマイヤミヤビは、桜花賞12着、オークス3着で残念ながらやっぱり引退した。
アエロリットは、メジャーエンブレムと同じように桜花賞では結果が出ず、能力全開は慎重に立て直したNHKマイルCになってからのことだった。
さらに、レース検討で示したように「クイーンC1着と、桜花賞1着」を達成したのはもう40年以上も前の1976年テイタニヤ以来、1頭もいないこと(テイタニヤのクイーンCは2月29日だった)。また、「クイーンC出走馬で、桜花賞を勝った」のは1986年のメジロラモーヌ(クイーンCは4着にとどまり結果的に消耗していない)以降は、それから31年も経ってやっと昨17年のレーヌミノル(クイーンCは3番人気で4着に凡走)が勝ったくらいで、ずっと鬼門のローテーションとされているからである。
田辺裕信騎手は、すごい。こういうほかの馬が行きそうもない組み合わせで、現状を打開しようとするとき、先手を奪って自身でレースを作り、そのまま押し切ってしまうことがある。(別になにかから)逃げているわけではない。主導権を握り自分でレースを作る。そうたびたび用いる作戦ではないから印象的なこともあるが、田辺騎手がここ一番で先手を奪ったときの成功率はきわめて高いように思える。今回など「46秒0-47秒7」=1分33秒7。前半1000m通過57秒8なので、大変なハイペースである。でも、結果は、他馬の出方や、力量を分かったうえでの強気な「主導権主張」が成功に結びついたのである。
強気な「主導権主張」が成功に結びついた(撮影:下野雄規)
逆に、追い込みに徹するときの流儀も独特で、4コーナーまでブービーの馬からさらに3馬身くらい離れていても、直線で最高のスパートを引き出すために、少しずつ動いたりはしない。直線だけの逆転にかけて、驚異的な爆発力を引き出して快走する。もちろん、そういう素養のある馬に対してであるが、こういう騎乗流儀は横山典弘騎手のそれと通じるものがあるように思える。勝利数の上ではほかの騎手と同じように「好位抜け出し」が多いだろうが、横山典弘騎手と、田辺裕信騎手が代表する正攻法ではない騎乗が、その馬の秘めている能力を「150」パーセントくらい引き出すのは事実である。
今回のテトラドラクマは、初めていつもの「468キロ」ではなく、少し絞れた身体は実にシャープだった。今回が完調に近く、かつ、最大能力を発揮したように映った。
で、最初にもどって、14年間も師事した小西一男調教師に20年ぶりの重賞制覇をプレゼントしたテトラドラクマ(田辺裕信)は、決して有利ではない過程となった桜花賞のチャンスはどのくらいあるのだろうか。ラッキーライラックや、アーモンドアイは充電しながら、寒さが和らぐのを待っている。新星テトラドラクマは、鬼門のレースで爆走して、桜花賞は関西への初遠征でもある。直前、みんなが取捨に悩まされそうである。
この時期の3歳牝馬の体調は1戦ごとに変化する。人気のマウレアは好位のインで流れに乗ったが、流れがきつすぎた。と同時に、馬体重減はなかったが、ビシビシ追った影響か妙に元気がなく、落ち着きとは違うように思えた。でも、悲観することはない。レーヌミノルや、メジロラモーヌのパターンに入ったのは、負けたマウレアである。
フィニフティは、ここが2戦目で、かつ休み明け。新馬を勝っただけの馬とは思えない雰囲気があった。体つきも、ストライドも426キロの牝馬とは思えないほど大きく映った。ただし、これで条件賞金1100万円。桜花賞の賞金ボーダーに達したとはいえないと思える。反動の出る危険はあっても、どこかで出走を確実にしないといけない。
ツヅミモン(父ストロングリターン)のゆったりした馬体は光ったが、好位追走から自身の最高時計を1秒7も短縮しながら、「58秒1-36秒4」=1分34秒5で12着。渋馬場ならいいが、スピード勝負の桜花賞向きではない危険が大きくなった。