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【新連載スタート】なぜ今“オーストラリア”から目が離せないのか?

  • 2018年02月22日(木) 18時02分


 いつもnetkeiba.comをご利用いただき、ありがとうございます。3月1日から、新コラム『News dispatch from Victoria(ビクトリア競馬便り)』を、スタートする運びとなりました(毎週木曜18時更新)。

 本コラムは、オーストラリアの競馬主催団体“Racing Victoria”から届けられる現地最新情報です。Racing Victoriaは、メルボルンCなど大競走が行われるフレミントン競馬場を運営していることでも有名。

 オーストラリアといえば、最近では小崎綾也騎手や坂井瑠星騎手が武者修行を敢行しました。また、多くの日本調教馬が移籍し、トーセンスターダムやブレイブスマッシュらがビッグレースを賑わせています。

 なぜ今、オーストラリアが注目なのか? 連載スタートを前に、海外競馬の第一人者・合田直弘さんが、わかりやすく解説します。

netkeiba.com 編集部


ビクトリア競馬便り

▲コックスプレート3連覇達成時のWinx (提供:Racing Photos TM)


(文=合田直弘)

記録づくめの女傑・ウィンクス、3月3日に始動


 とにかく今、やたらに熱いのがオーストラリアの競馬である。

 ヨーロッパでは芝の平地競馬がスタートしておらず、北米もケンタッキーダービーまでまだ2か月以上あるという、そういう時期的背景を鑑みたとしても、オーストラリアで見られている突出した盛り上がりは、そこで行われている競馬の中身が、かつてないほど濃密であることの証しであろう。

 その中心にいるのは、言うまでもなくウィンクス(牝6、父ストリートセンス)である。

 3歳の秋だった2015年5月にスタートした連勝が“22”まで伸びている完全無欠の女王は、収得賞金の面では既に、GIメルボルンC3連覇のマカイビーディーヴァを抜いて、オーストラリアにおける歴代最多賞金収得馬となっている。

 2016年10月にGIコックスプレートを8馬身差で制した際にレイティング132を得て、この年のワールドランキングで芝部門の首位の座に君臨。2017年3月にGIジョージライダーSを7.1/4馬身差で制した際にもレイティング132を得て、ワールドランキング芝部門世界首位の座を防衛。

 そして2017年10月には、1980年から1982年にかけて達成したキングストンタウン以来、35年ぶり史上2頭目となるGIコックスプレート3連覇を達成。記録づくめの女傑が、おそらくは現役最後になるであろう、「秋の陣」を迎えようとしているのである。

 いまや国民的ヒロインとなった彼女の、休み明け初戦に予定されているのが、3月3日にランドウィックで行われるGIチッピングノートンで、国民注視の一戦になることは間違いない。そして、3月24日にローズヒルで行われるGIジョージライダーS、4月14日にランドウィックで行われるGIクイーンエリザベスSまで無事に通過すれば、ウィンクスの連勝は、あのブラックキャビアが2009年から2013年にかけて達成した“25”に並ぶ。

 それでは、ブラックキャビア越えの26連勝目の舞台がどこになるのかと言えば、これがなんと、英国のロイヤルアスコット初日(6月19日)に組まれたGIクイーンアンSになる公算大なのだ。ウィンクスの一戦一戦に、世界の競馬ファンの熱い視線が集まること必至である。

豪州人馬主たちが日本の現役馬に熱い視線


 オーストラリアで内容の濃い競馬が展開されている背景には、トップホースたちの層が極めて厚いという事実がある。短距離から長距離まで、高い能力をもつ一流馬が目白押しなのだ。

 そして、その豊富なタレントの供給源の1つが今、我が国・日本なのである。

 顕著な例が、昨年10月、コーフィールドで行われたGIトゥーラックHを制したトーセンスターダム(牡7、父ディープインパクト)だ。返す刀で、11月にフレミントンで行われたGIマッキノンSをも制した同馬は、2016年4月まで栗東の池江泰寿厩舎に所属していた馬であった。

ビクトリア競馬便り

▲チャレンジC優勝時のトーセンスターダム、渡豪してGI2つを制するなど活躍中 (C)netkeiba.com


 3歳2月にGIIIきさらぎ賞、3歳12月にGIIIチャレンジCを制した他、4歳春に豪州遠征を敢行しGIランヴェットSで2着になるなどの実績を残していた同馬の、権利の半分を豪州人馬主グループが買収。ダレン・ウィアー厩舎に転厩して、現役を続行しているのである。現地の環境に慣れるのに多少時間を要したが、遂に2つもGIを獲るまでになったのだから、買収した側にしてみれば、まことに上首尾なトレードとなった。

 あるいは、昨年10月にランドウィックで行われた、総賞金1000万豪ドルのGIジエヴェレストで3着に入り、今年2月10日にコーフィールドで行われたGICFオーアSでも勝ち馬から短頭+鼻差の3着に入ったブレイブスマッシュ(牡5、父トーセンファントム)は、2017年3月まで美浦の小笠倫弘厩舎に所属していた馬であった。

 日本では重賞勝ちがなく(※1)、GIIIファルコンS2着が最良の成績だった同馬が、こちらもダレン・ウィアー厩舎所属馬となって走りはじめると、南半球における最高賞金レースや伝統のGI競走で3着に入る活躍を見せているのだから、ブレイブスマッシュのトレードもまた、獲得した側からすると大成功に終わっているのである。

(※1 編集注:同馬は2015年にサウジアラビアRCを優勝していますが、新設重賞のため、その時点では格付けがされておりません)

 ポイントは、トーセンスターダムもブレイブスマッシュも、日本を拠点としていた時代よりも、豪州を拠点とするようになってからの方が、成績が上がっている点にある。

 別の言い方をするなら、トレードの標的となるのは、日本で超一線級の成績を挙げている馬でなくても、良いのだ。日本で重賞に顔を出す程度の能力がある馬なら、豪州競馬への適性が高ければ、GIに勝ち、高額な賞金を稼ぐ可能性がおおいにあることを、この2頭は実証したのである。

 実を言えば、豪州競馬の最高峰と言われるGIメルボルンC(芝3200m)制覇を目論み、豪州人馬主たちがヨーロッパのステイヤーに目をつけ、積極的にトレードを仕掛けるようになった数年前から、長距離路線の水準が高いと言われる日本馬にも、買収の話がいくつも持ち込まれてはいた。

 彼等が目をつけたのは、天皇賞・春、あるいは菊花賞といったレースで勝ち負けをした馬たちだったのだが、そのクラスになると非常に高額で(日本は賞金が高いゆえ、生半可な価格で売るよりは、自分で使った方が得という判断を、売る側がしたのも至極当然であった)、トレード話は、おいそれとはまとまらなかったのである。

 ところが、GIIIクラス、あるいは、準重賞クラスの馬ならば、話は違ってくるのだ。なおかつ、である。セン馬がほとんどの豪州にあって、トーセンスターダムもブレイブスマッシュも牡馬だから、良績を挙げれば種牡馬になるチャンスがあるわけで、買収する側にすれば、種牡馬として繋養することでも大きな利益を得る可能性があるのだ。

 豪州人馬主たちが今、日本の現役馬に次々と食指を伸ばしているのも、充分に理解が出来る背景が、そこには存在するのである。

アンビシャス、ダノンリバティ、サトノラーゼンらも登場


 もちろん、その前提として、オーストラリアは一般景気が堅調で、馬主層が潤沢な資金を持っているという事実もある。

 そして、オーストラリアには今、高額賞金レースが目白押しなのだ。

 例えば、前述したジエヴェレストは、2018年は総賞金を1300万豪ドル(約11億1290万円)に増額することを既に決めているし、昨年までは600万豪ドル(5億2110万円)だったGIメルボルンCの総賞金も、2018年は増額されることが決まっている(詳細は後日発表予定)。

 ヴィクトリア州のスプリングカーニヴァルにはメルボルンC以外にも、総賞金300万豪ドル(約2億6050万円)のGIコーフィールドCやGIコックスプレートなど、いわゆる「ミリオンレース」が8競走も組まれている。

 また、ニューサウスウェールズ州のザチャンピオンシップスにも、400万豪ドル(約3億4740万円)のGIクイーンエリザベスSや、300万豪ドル(約2億6050万円)のGIドンカスターマイルが組まれているのだ。

 すなわち、豪州人馬主にしてみれば、相当に大きな投資をしても、これを回収するチャンスが、現在の豪州競馬界には顕在しているのである。

 4月のザ・チャンンピオンシップスを舞台とした各レースには、前出のトーセンスターダムやブレイブスマッシュ以外にも、アドマイヤウイナー(牡4、父ワークフォース)、アンビシャス(牡6、父ディープインパクト)、ダノンリバティ(牡6、父キングカメハメハ)、サトノラーゼン(牡6、父ディープインパクト)、ハレルヤボーイ(牡5、父トーセンファントム)といった元日本調教馬が、豪州所属馬として登録されている。

 オーストラリアの競馬から今、絶対に目が離せない理由が、おわかりいただけたと思う。

1864年に創設された、オーストラリアのビクトリア州における競馬主催団体。メルボルンCなどの大競走が行われるフレミントン競馬場をはじめとした、ビクトリア州各地の競馬場で開催される競馬の運営・統括をしている。近年では日本調教馬の移籍も多数実現しており、日豪の関係に重要な役割を担っている。

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