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ばんえい競馬、復活へ向けて

  • 2018年03月20日(火) 18時00分


◆賞金や出走手当が回復、新馬の入厩頭数も昨年の230頭から280頭に増加

 中央でも地方でもクラシックの前哨戦が盛り上がる季節だが、3月末で一区切りとなるばんえい競馬は、シーズン最後の大一番、区切りの第50回を迎えるばんえい記念が25日(日)に行われる。今年度はシーズン最終日の開催となった。

 近年、地方競馬はどの主催者も売上げを伸ばしているが、今年度はばんえい競馬の伸びが目立った。3月はまだ開催中であるため、2017年4月から2018年2月までの計算になるが、1日平均の売上げは前年度比136.7%。この数字は、好調が続く高知の139.4%に次いで全国の主催者で2番めの伸び率を示した。2016年度は前年度比で110.8%だったから、今年度は相当な伸びだ。

 余談になるが、急激に売上げを伸ばし続ける高知の今年度2月までの1日平均の売上げは3億2255万円余り。南関東4場の売上げは全国でも突出しているが、続く兵庫の1日平均が3億6444万円余りで、高知はこれに迫ろうかという数字。来年は逆転してしまうのではという勢いだ。

 地方競馬の馬券の売上げは、JRA-IPATでの馬券発売が始まった翌年度、2013年度から全国の合計で毎年前年比10%前後の増加を見せている。ばんえい競馬も同じくらいの割合で増えてはいたが、もともとの売上げが少なく、2013〜2015年度は全国の主催者の中で唯一、1日平均の売上げが1億円に届いていなかった。それが2016年度にようやく1億円をわずかに超え、そして2017年度(2月まで)は一気に1億4585万円余りまで売上げを伸ばした。

 今年度のこの売上げアップの要因について、ばんえい振興室・佐藤徹也室長にうかがった。「SPAT4が土日も発売してもらえるようになったぶんの売上げが大きいです。楽天やオッズパークの売上げも伸びていますが、SPAT4の土日発売で売上げが伸びました」とのこと。

 SPAT4は南関東の開催日しか発売が実施されていなかったのが、2017年4月1日からは南関東の開催日にかかわらず、365日、地方競馬の全国の馬券が発売されるようになった。南関東は基本的に平日開催であるのに対して、ばんえい競馬は土日月の開催。ばんえい競馬にとっては、SPAT4の全日発売によって、発売チャネルが大幅に増えたことになる。

 ばんえい競馬は2007年度から帯広単独開催となって、2011年度には1日平均で6728万円余りにまで売上げが落ち込んだ。当時、1日の売上げが1億円を超えたのは年間でわずか数日程度。それが今年度は1億円を割った日があったかなかったか。現在のばんえい競馬では、平均的に土日よりも月曜日の売上げが大きい。

 月曜日は基本的にJRA-IPATでの発売が行われず、土日に比べて地方競馬は開催場が少ないためだ。岩手の開催が休みとなる冬期はさらに競合が少なく、この時期の月曜日、ばんえい競馬の売上げは2億円を超えることもめずらしくない。1億円を超えて喜んでいた時期を思えば夢のような数字だ。とはいえそのぶん経営が楽になったわけではない。ようやくなんとか安定して開催が続けられるようになったか、というまでだ。

 もっとも厳しかった時期のばんえい競馬は、最下級条件の1着賞金が、わずか5万円。しかも売上げに応じて賞金も変動したため、表記されている賞金額は名目上のもので、必ずしも額面通りの満額支払われていたわけではない。当然、出走手当も厳しい金額で、当時は重賞を勝つクラスの馬でも、年間を通じて預託料との相殺でプラス計上するのは難しかったように思われる。

 ばんえい競馬復活のひとつの象徴となったのが、昨年のばんえい記念の1着賞金が1千万円になったこと。ばんえい記念はバブル期の1989年に初めて1着賞金が1千万円となり、それが2003年まで続いた。『ばんえい重量1トン、1着賞金1千万円』というのが、当時の象徴にもなっていた。それが2013年には300万円にまで落ち込み、しかし昨年、ようやく1千万円に復活した。

 出走手当も回復しており、今年度は開催1走目が52,000円で、2走使いが20,000円。ばんえい競馬は、重賞クラスの馬こそ間隔を空けて使われるが、ほとんどの馬は毎開催(2週に1回)出走する。運良く開催2走使いができれば、たとえ着外でも、出走手当で預託料に近い金額はまかなえるくらいにまではなった。

 これら、賞金や出走手当の上昇(というか回復)にともない、新馬の入厩頭数も増えてきているという。3月中旬の時点での2歳馬の登録申請頭数が、昨年は230頭程度だったのが、今年は280頭程度になっているとのこと。

「ばんえい記念の1着賞金1千万円がひとつの象徴」と書いたが、とはいえそれ以外の重賞や条件戦の賞金は、全盛期にはまだまだ及ばない。古馬の主要重賞(いわゆる四市記念重賞とばんえいグランプリ)は、90年代には1着賞金500〜600万円ほどもあったのが、BG1の帯広記念ですら今年で300万円。下級条件の1着賞金にしても、90年代は30万円以上もあったのが、今年度はようやく11万円でしかない。

 ばんえい競馬はまた、高齢化による生産者の減少という課題もある。賞金が落ち込んだときに離れてしまった馬主を増やすことも、同じように課題としてある。

 前年比36.7%増(2月現在)という今年度の売上げアップは“あっぱれ”だが、賞金を見るとまだまだ十分とはいえない。ばんえい競馬の復活は、昨年度から今年度にかけて、ようやくスタート地点に立ったといえそうだ。

1964年生まれ。グリーンチャンネル『地・中・海ケイバモード』解説。NAR公式サイト『ウェブハロン』、『優駿』、『週刊競馬ブック』等で記事を執筆。ドバイ、ブリーダーズC、シンガポール、香港などの国際レースにも毎年足を運ぶ。

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