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「『世界の合田』は一日にしてならず」<第12回>合田直弘

  • 2018年03月26日(月) 18時00分
合田直弘

年間100日以上は海外で業務にあたるという合田さん。ゆえに、日本にいるときも国内での業務で目が回るほどの忙しさだという。



毎週水曜日更新のコラム「世界の競馬」でお馴染みの合田直弘さん。明快な筆致で貴重な最新情報を伝え、グリーンチャンネルなどの各種競馬番組でも親しみやすいキャラクターで活躍する海外競馬評論の第一人者は、いかにして作られたのだろうか。あらためて話を伺った。(取材・文=軍土門隼夫)

父の影響で競馬に興味を持ち、中学では馬術部に



「生まれは1959年、東京の杉並です。父が競馬好きで、週末はテレビで競馬中継を見ていて、僕も自然と見るようになっていました。初めて好きになったのはタニノムーティエです」

 中学生になると、合田さんは学校の馬術部に入る。

「他のスポーツと違って、乗馬ならみんな初心者だしな、というくらいの動機で(笑)。でも面白くて、3年間夢中でやりました。主将を務めて、大会で優勝したりもしましたね」

 その頃に出会った友達や馬術部での活動は、合田さんにとってかけがえのないものとなった。

「同級生に、ダービー馬アサデンコウを出した千葉新田牧場の息子がいて、馬術部で一緒だったんです。その関係で、長い休みには泊まりでアルバイトをして、馬の世話から馴致、調教、種付けの手伝いまでいろんな経験をさせてもらいました。本当に楽しかったですね」

 時代はちょうどハイセイコーが出た直後で、世の中でも競馬は盛り上がっていた。

「他には栃木の名門、那須野牧場の係累もいて、そういう仲間たちと中学から高校、大学と、競馬の話をしていました。今でいうPOGを始めたのも高校1年生のときで、それは現在でも同じメンバーでずっと続いているんですよ。もう軽く40年以上です(笑)」

 牧場に置いてあった海外の競馬雑誌。千葉新田牧場や、那須野牧場の隣にあるJBBAの種馬場で見学した輸入種牡馬たち。FENで聴いたケンタッキーダービーの実況。そうしたものが入口となり、海外競馬への憧れと興味は、いつしか大きく膨らんでいった。

「ジャパンCが創設されたのが大学4年生のときです。外国馬を見て、たいした馬はいないな、なんて思っていたら、日本の大将格だったホウヨウボーイとモンテプリンスが歯が立たないんですから。衝撃でした」

 その年、卒業旅行でオーストラリアに行った。当時、世界一といわれた育成場リンジーパークを訪ねて見学した。競馬場にも行った。それが、合田さんが海外で馬を見た最初の経験だった。

大学卒業後、テレビ東京で働いて得たもの



 大学を出た合田さんは、テレビ東京に就職する。

「メディアの仕事にはずっと興味があって、学生の頃にはガリ版刷りで競馬のミニコミ誌を作ったり、馬のドキュメンタリーの8ミリ映画を作ったりしていました。希望は『土曜競馬中継』でしたが最初は営業で、スポーツ局へ異動できたのは3年後でした」

 その『土曜競馬中継』では、さまざまな企画に携わった。血統から能力を数値化するプログラムで予想する「コンピューター分析」。視聴者からのハガキで行う簡易POG「テレビーオーナー」。もちろん、海外競馬の企画にもどんどんチャレンジした。

「翌日のケンタッキーダービーの出走表を出して見どころを紹介した時には、馬券も買えないレースに時間を割くな!と、すごい数のクレーム電話が来ました。それが今では、日本馬が出ている時だけとはいえ、海外のレースの馬券も買える時代になったんですからねえ」

 ギャロップダイナがジャックルマロワ賞に出走した時には、現地と電話を結び、生放送で柴崎勇騎手に馬の様子を話してもらったりもした。
 入社6年、競馬番組の制作を3年やったところで合田さんはテレビ東京を辞めた。海外で馬を買ってきたり、現地で走らせたりする日本人の手伝いを仕事にしてみたい、と考えたのだ。
 それにはまず、これまで「適当に、なんとなく」やってきた英語をきちんと学び直す必要があった。同時に、海外の競馬のことも現地で勉強しなければ話にならなかった。
 会社を辞めた合田さんは、単身、イギリスへ渡った。28歳の年だった。

英語学校で勉強しながら競馬場へ通う日々



「イギリスには5カ月いました。ロンドンに住んで、英語の学校に通いながら午後は競馬を見に行く毎日です。リングフィールド、ニューバリー、ケンプトン…。ロンドン近郊ではほぼ毎日どこかで競馬が行われているんですよ。夢のような日々でしたね(笑)」

 その後はフランスへ渡り、パリとドーヴィルで過ごした。日本へ戻って最初にやった“仕事”は、『レーシングワールドビデオマガジン』というビデオの日本版の制作と販売だった。

「これは当時、世界の大レースをまとめて月に1回、VHSのテープで販売されていたものです。僕も日本で取り寄せていたんですが、版元がロンドンにあるので、訪ねて交渉して日本語版の権利を取得しました。ビデオ作りはテレビ東京時代のノウハウですぐにできますからね」

 このビデオは数年間作っていたという。海外のレース映像のルートができたことで、JRAからジャパンC出走外国馬の参考レースを依頼されるなど、仕事は少しずつ広がった。しかし。

「帰国して3、4年はビデオ制作しか仕事がなくて、完全にくすぶっていました。テレビの解説もまだ始めていませんし。実際のところ、かみさんに食わせてもらっていましたよ(笑)」

 風向きが変わったのは、1990年代に入ってすぐだった。バブル景気が到来し、海外のセリ市で高額な馬を購入する日本人が一気に増えたのだ。タタソールズやバレッツといった海外のセリ会社は日本でのマーケティングを始めるにあたり、まず合田さんに連絡をしてきた。数年前、ロンドンとフランスで勉強していた、あの頃に出会った人々からの繋がりだった。

「それでセリ会社の日本代理店をするようになったんです。メディアに広告を打ったり、カタログを購買候補者に配ったり。お客さんの現地ホテルなどの手配や、落札後の獣医や輸送会社の紹介などもですね。これでようやく会社が立ち行くようになりました(笑)」

 その後はセリ会社だけでなく、例えばメルボルンCなど、海外の競馬主催者からレースへの日本馬の招致を請け負う仕事なども請け負うようになっている。

「世界の合田」の誕生



 合田さんがいわゆる海外競馬評論家としてメディアに出始めたのも、この頃からだった。正確には1993年、NHKーBSで放送していた『世界の競馬』への出演が最初だった。

「これはカメラマンの今井壽惠さん(故人)の紹介でした。今井さんは那須野牧場へよく写真を撮りに来られていて、僕はそこへ遊びに行っていた中学生の頃から可愛がっていただいていたんです。今井さんは、僕の人生の大恩人です」

 長く続いたこの番組が、恐らくは「世界の合田」の異名の原点といえるだろう。

「自分がテレビに向いているかどうかは、自分ではよくわかりません(笑)。でも、しばらく離れていたメディアの仕事に久々に戻って、やっぱり楽しいなと思ったことは覚えています。出演もですが、構成など制作側にも関わることは多くて、そういうのが好きなんですよ」

 1995年、合田さんは自ら企画して、NHKでその年の英ダービー馬ラムタラの特番を作らせてもらった。『ラムタラ伝説』という30分ほどのドキュメンタリー番組だ。

「取材場所は勝手知ったるニューマーケット。現地のカメラクルーを使って撮影しました」

 その現地のカメラクルーは、あの『レーシングワールドビデオマガジン』のスタッフだった。

今も大事にしているのは現場での取材



 合田さんの口癖に、大レースはその前哨戦から見るべきだ、というものがある。もっと正確にいうと、「現場で」見るべきだ、となる。

「じつは僕、もう何年もドバイワールドC開催の前哨戦が行われる“スーパーサタデー”に行けてなかったんです。今年(2018年)久しぶりに行って、つくづく思いました。やっぱり競馬の現場は楽しいです。現場でレースを見て、関係者の話を聞いてなんぼだなって」

 そんなふうに、それまで知らなかった情報を得て胸を躍らせる気持ちは、たぶん学生の頃に海外の競馬雑誌を読んだり、FENにかじりついていたときと本質的に変わっていない。
 違うのは、そうやって得た情報を、今は読者や視聴者に伝えることを仕事としている点だ。

「僕にとって、情報というのは馬や人の物語なんです。だから、しゃべったり原稿を書いたりするときも、そのストーリーを大事にします。でも海外馬券が買えるようになってからは、そういうものだけでなく、直接役に立ちそうな情報を入れるように心がけていますね。それも、馬場とか天候みたいな、現場ならではのナマの情報を」

 現在は、年間100日は海外に出かけているという合田さん。

「海外は、メジャーなセリは大レースと続くように日程が組まれていることが多いから、両方いっぺんに見られて“おいしい”んですよ」

 そううれしそうに笑う顔は、まるで友達と夢中で海外競馬の話をしている、中学生の少年のようだった。

合田直弘

合田さんの原点は学生時代に見た海外の文献で、当時から海外への興味は非常に高かったという。



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