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着差以上の完勝、父ハーツクライのようにさらに進展するだろう/大阪杯

  • 2018年04月02日(月) 18時00分


◆連続騎乗4戦目で人馬一体の呼吸

 ドバイWCデーと日程は重なっても、毎年G1勝ち馬が3〜5頭出走する。まして近年はマイラー〜中距離タイプが一段と多くなっている。そこでG1に昇格して今年が2年目。今年、G1勝ち馬が5頭も含まれた大阪杯は、これから中距離2000mのチャンピオンシップとして天皇賞(秋)とともにますます高い評価を得ることになる。

 同じ距離区分の「ドバイターフ1800m」に招待を受けて遠征した馬は、今年はなんと5頭もいた。「ドバイシーマクラシック2410m」に遠征した馬は3頭。

 多くの陣営にとり、ともに1着賞金約3億8000万円のドバイターフも、シーマクラシックも、あまりにも魅力的な招待レースである。大阪杯の1着賞金は1億2千万円にとどまる。ありえない仮定だが、もし、わたしがオーナーだったら、なにをおいてもまずはドバイに招待されることを最大の目標とし、残念ながらお呼びでなかったときに「大阪杯→天皇賞(春)、あるいは大阪杯→宝塚記念」を目ざすことになる。

 G1大阪杯を盛り上げた組は、ドバイターフやシーマクラシックで好走・善戦したグループを、宝塚記念でまとめて完封するくらい、自身とレースのランクをアップさせてほしいものである。レースで戦うのは馬と人だけではない。世界のビッグレースは、その存在の重要性と、レースレベルを巡ってずっと戦っている。

 高い支持を受けた4歳スワーヴリチャード(父ハーツクライ)が、M.デムーロの素晴らしい騎乗も重なり、ついに大きくジャンプした。

重賞レース回顧

高い支持を受けたスワーヴリチャードがM.デムーロの素晴らしい騎乗も重なり、ついに大きくジャンプした(c)netkeiba.com


 コース形態から、阪神内回り2000mで外の15番枠を引いた時点でM.デムーロ騎手は、AR共和国杯や金鯱賞のような好位追走からの抜け出しは断念している。実際、スタートダッシュは良くなかった。最初の1コーナーまでは短い。スワーヴリチャードは後方2番手の追走になってしまったが、M.デムーロはまったくあわてることなく、腹をくくったように息を整える追走を受け入れた。

 ペースは予想以上に上がらない。スワーヴリチャードの行く気をうながすように手綱をすこし緩めたのは、明らかにスローすぎる前半1000m通過地点(61秒1)だった。押してスパートしたわけではないから、鞍上の意図を察して自然にピッチを上げ、スルスルと進出したスワーヴリチャードもすごい。連続騎乗4戦目。いうところの人馬一体の呼吸。

 先頭のヤマカツライデンに並んだところが一番難しい地点と思われる。昨年の日本ダービーのレイデオロ(ルメール)や、出負けしながら強引に先団に取りついたときのゴールドドリーム(ムーア)もそうだが、そこからは行く気にはやることなくレースのペース(流れ)にピタッと合わせてしまうのである。取りつくためのロスを最小限にとどめるかのように…。

 先頭に並んだスワーヴリチャードは、必死のヤマカツライデン(父シンボリクリスエス)をどのみち止まる先導馬として使い、ラップは上がっても2ハロン近く息を整えて待った。直線の入り口では、まくって進出してきたトリオンフ(父タートルボウル)が見えてもデムーロはスパートの合図を送っていない。

 うしろから迫ってきたアルアイン(父ディープインパクト)の必死の息づかいが聞こえてから追い出したように見えた。こういう勝ち方が着差以上の完勝なのだろう。右回りに対する死角解消とはいえないが、早めに先頭に立って内ラチを見つつ、かつ、苦しくないから、スワーヴリチャードは内にもたれない。

 完成期に近づきつつあるハーツクライ産駒。「まだ、少しずるいところがあるくらいだから、もっといい馬になる――デムーロ騎手」と期待するように、身体も走法もシャープになった4歳スワーヴリチャードはさらに進展するだろう。父ハーツクライ(その父サンデーサイレンス)が本物になってビッグレースを連勝したのは、C.ルメール騎手とのコンビで先行するようになった4歳後半からのことだった。

 阪神内回りのレースの流れは難しい。ここ2年は、飛ばすマルターズアポジーの行った昨年でさえ、キタサンブラックなどの先行集団のいた位置はスローだった。もちろん今年は後半1000mが57秒1になるほどペースは遅かった。

▽2017年「59秒6-59秒3-(上がり34秒3)」=1分58秒9
▽2018年「61秒1-57秒1-(上がり34秒1)」=1分58秒2

 2着に突っ込んだペルシアンナイト(父ハービンジャー)は、中位から巧みに切れ味を爆発させ、同馬の上がりは「33秒7-(推定)11秒2」となった。マイルCSを制したスピード能力、切れ味がフルに発揮できる流れだった。ハービンジャーは初年度の夏の2歳馬の勝ち方(コース、距離)が偏っていたため、「ハービンジャー産駒は…」とやや安易にくくられることがあったが、このペルシアンナイトだけでなく、土曜の中山の「ダービー卿CT1600m」を猛然と差し切った5歳牡馬ヒーズインラブもハービンジャー産駒である。どうやら、産駒を総じてのくくりはもう危険である。

 ベストの距離と思えたアルアイン(父ディープインパクト)は、ほぼ完ぺきに乗ったが、差されて3着。皐月賞を思い起こしたい。みんなが苦しくなったとき、差し返すように勝っている(上がり34秒2)。今回も自身の上がりは34秒0であり、2着のペルシアンナイトが33秒7なら、差を詰めてきた4着ヤマカツエース(父キングカメハメハ)も上がり33秒7だった。アルアインはディープインパクト産駒の中では鋭く「切れる」タイプではなく、総合スピードの求められる厳しい流れの力の勝負向きなのだろう。

 サトノダイヤモンド(父ディープインパクト)はチャンピオンらしくなく、これでとうとう5連敗。さらに評価は分かれそうだが、身体も、動きも、精神面も、立ち直っていると思える。追い切りに乗った戸崎騎手が「すごい。素晴らしい」と絶賛した通りと思えるが、肝心の戸崎騎手のほうが今春のスランプを脱していなかった。戸崎圭太らしくない弱気で、自信のなさそうなレースだった。連続して騎乗のチャンスがあるかどうかはわからないが、再度チャンスがあるなら、この次は違うはずである。

 2000m前後の中距離型アルアインにも合わない流れだから(上がりが速すぎた)、6歳のいま高速上がりのレース向きではないシュヴァルグラン(父ハーツクライ)の凡走は仕方がないだろう。それにしても13着は止まりすぎと思えるが、久々の2000mの流れがまったく合わなかったということか。天皇賞(春)3200mで巻き返したい。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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