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「超スローの単騎逃げ」での完勝だが、恵まれた勝ち星ではない/皐月賞

  • 2018年04月16日(月) 18時00分


◆オルフェーヴル産駒の長打力はすごい

 難しい結果が予測された牡馬クラシックの1冠「皐月賞」は、上位3着までを「6番人気以下の伏兵」が独占することになった。これは78回の歴史を誇る皐月賞史上きわめて珍しいことで、サニーブライアンの勝った1997年(11、10、12番人気)につづき、これが2度目。配当はともかく大きな波乱だった。

重賞レース回顧

きわめて珍しい、上位3着までを「6番人気以下の伏兵」が独占という結果(撮影:下野雄規)


 管理する藤原英昭調教師(今年トレーナーランキング独走中)は、2010年のエイシンフラッシュの日本ダービーにつづきクラシック制覇2度目だが、騎乗した戸崎圭太騎手にとってはこれが初のJRAクラシック勝利。近年のビッグレースで表彰台に上がるのはほとんど同じような顔ぶれだったが、オーナーの(株)ヒダカ・ブリーダーズ・ユニオンにとっては、これが悲願のクラシック初制覇。生産者牧場の田上徹氏はこれがGI競走初挑戦で、初重賞制覇でもあった。メイショウサムソンが勝った2006年と同じようなトーンの、みんなが自然に拍手したくなるような表彰式だった。

 この世代がファーストクロップとなる種牡馬オルフェーヴル(その父ステイゴールド)にとっては、GI勝利はラッキーライラックの阪神JFにつづいて早くも2勝目。クラシック制覇はもちろん初めて。「エポカドーロ←オルフェーヴル←ステイゴールド←サンデーサイレンス」のように、もう直父系3代前がサンデーサイレンスとなるGI級勝ち馬が誕生する時代だが(桜花賞のジュエラー、Jダートダービーのキョウエイギア…など)、サイアーラインの連続に結びつく可能性の高い牡馬クラシック馬の誕生は初めてのこと。ステイゴールド系(前日のオジュウチョウサン、桜花賞2着のラッキーライラックなど)の期待を上回る発展は多くの支持を受けることだろう。

 種牡馬オルフェーヴルは、4月15日終了現在、初年度産駒は全国で122頭がデビューし、ここまでに勝ち上がった馬は22頭(勝ち上がり率.189)。遅咲きにしても勝ち上がり率の低さは心配のタネだが、長打力はすごい。2勝以上馬はたった3頭。ただし、すべてJRA重賞勝ち馬である。エポカドーロ3勝(皐月賞)、ラッキーライラック4勝(アルテミスS、阪神JF,チューリップ賞)、ロックディスタウン2勝(札幌2歳S)。

 先手を主張したアイトーン(父キングズベスト)に、ジェネラーレウーノ(父スクリーンヒーロー)、ジュンヴァルロ(父ニューアプローチ)が競る形になったので、全体は前後半の1000mを「59秒2−61秒6(上がり37秒3)」=2分00秒8。

 ただ、前傾バランスのきついペースは前の3頭だけ。その3頭が離れたので、4番手追走になったエポカドーロは結果として非常に楽な展開だった。同馬の上がり600m35秒1に、前と差を詰めに出なかった1000m〜1400mの「11秒9−12秒4」を加えると、同馬の後半1000mはほぼ「59秒4」である。するとエポカドーロの前半1000mを「61秒4」としたときに、全体は2分00秒8。前半1000m通過地点で2秒2(12馬身近く)も先頭から離れていたことになるが、この差は見た目と誤差がないように思える。

 前半1000m通過61秒4で、直後のサンリヴァル(父ルーラーシップ)もプレッシャーをかけてこない展開。10馬身以上も前で別のレースを展開した3頭を別にすると、エポカドーロは「超スローの単騎逃げ」であり、2着したのは61秒7前後で楽にそのあとを追走していたサンリヴァルだったのである。

 クラシック皐月賞に恵まれた勝ち星などあるわけがない。最後は後続を2馬身も振り切っての完勝であり、たまたまハナ差、クビ差で辛勝したギリギリの勝利ではない。たしかに印象としては恵まれた感はあるが、これを恵まれたとするなら、それは相手が「著しく弱かった」とするのと同義になってしまう。2分00秒8(稍重)は平凡だが、快時計の連続したここ3年と異なり、エポカドーロ、サンリヴァルには反動や活力の消耗につながるような厳しいレースではまったくなかった。次につながる可能性が十分ある。

 エポカドーロの母ダイワパッション(父フォーティナイナー)は06年のFレビューなど1400m以下で4勝のスピード型だが、4代母カーンルージュ(父ピットカーン)はGI英チャンピオンS(10F)など6勝の活躍馬であり、怪しい名前が連続することで知られるラヴオイルの牝系は、日本ではかつての輸入種牡馬ザラズーストラ、現代ではネオユニヴァース、レディパステル、フサイチコンコルドなどが代表するファミリーとして著名。一族全体は距離不安などないクラシックファミリーである。また、サンリヴァルの母方は、祖母が99年のオークス馬ウメノファイバー。皐月賞と、当時は秋のオークスを制し、日本ダービー2着の牝馬トキツカゼにさかのぼる伝統のファミリー出身になる。

 稍重の芝コースは、コーナーと最後の直線ではインを避ける馬が多く、馬群をさばくのが大変だったが、1〜5番人気のワグネリアン(父ディープインパクト)、ステルヴィオ(父ロードカナロア)、キタノコマンドール(父ディープインパクト)、ジャンダルム(父キトゥンズジョイ)、オウケンムーン(父オウケンブルースリ)などのいた位置は、前半1000m通過62秒台後半以上であり、みんな著しいスローでの追走である。ペースが読めない騎手が乗っていたわけではないのに、渋馬場であの位置ではとてもムリだろう。現に3頭で先行したジェネラーレウーノは小差3着に残っている。もっとも価値ある中身を示したのは、かかり気味に行って残ったこの3着馬ではないかとする見解には賛成したい。

 エポカドーロ、サンリヴァルは恵まれたとする見方はあっても、ジェネラーレウーノが良くがんばっていることを重ね合わせると、底力が問われる目標のGIで結果が出なかった人気上位グループのレベルは、やっぱり高くないだろう。渋馬場がこたえた馬がいるのは事実だが、この程度の馬場が敗因ではちょっと切ない。

 今年の牡馬陣は、路線の主要レースで好走して高い評価を受け、つぎに人気になると「そろって馬券圏内から外れる」という、怖い成績が連続している。ほとんどの期待馬がこれに当てはまるから大変である。今回の人気馬は、みんなスローのステップレースに慣れ過ぎていたのかもしれない。キャリアの浅すぎたキタノコマンドール、好馬体のグレイル(父ハーツクライ)あたりは大きく変わりそうだが…。

 日本ダービーは、今回は回避したダノンプレミアム(父ディープインパクト)、毎日杯のブラストワンピース(父ハービンジャー)など、まだ負けていないグループに期待が移動しそうだが、果たして評価が上がると凡走のパターンを断ち切れるだろうか。候補が多い非常に楽しみな日本ダービー必至だが、レベルは高くない危険はある。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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