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地方生え抜き馬の奨励

  • 2018年04月24日(火) 18時00分


◆褒賞金も含めた手厚い賞金体系にするのが得策

 今年、南関東の3歳戦線で話題の中心は、牝馬一冠目の桜花賞(浦和)を制したプロミストリープだ。水の浮く不良馬場で、直線の短い浦和コースというさまざまに厳しい条件ながら、スタートで出負けして4コーナー7番手という位置取りからでも余裕をもって差し切った。その圧倒的なレースぶりも去ることながら、中央2戦2勝から大井への転入初戦を勝って負けなしの3連勝というのは異例の戦歴だ。

 次走は牝馬二冠目の東京プリンセス賞(大井)が予定されているが、むしろトリッキーな浦和1600mのほうが勝ちにくかったのではないかと思われる。ここまで南関東の有力3歳牝馬を管理する調教師の何人かに取材したが、「あの馬がいるから……」と、東京プリンセス賞回避を検討する陣営も少なくない。“あの馬”とは、もちろんプロミストリープのことだ。

 その東京プリンセス賞を避けるかもしれない牝馬たちは、1週前に行われる東京湾C(船橋)で牡馬との対戦を選択するかもしれないという陣営も少なからずあり、そのことでもプロミストリープがいかに抜けた存在かということがわかる。プロミストリープの次の興味は、もはや東京プリンセス賞ではなく、東京ダービーともいえる。東京プリンセス賞の前日に行われる牡馬一冠目・羽田盃の結果にもよるが、プロミストリープは東京ダービーでも人気の中心になる可能性が高い。

 それで近年、一部で異議を唱える関係者も少なくないのが、中央からの転入初戦でクラシックなど重賞への出走を認めるべきではない、ということ。

 ちなみに、2016年にはバルダッサーレが東京ダービーを、昨年はキャプテンキングが羽田盃を、それぞれ中央からの転入初戦で制し、さらに今年のプロミストリープと、これで3年連続で中央から転入初戦の馬が南関東の3歳クラシックのレースを制している。そのため前記したような反対意見を毎年のように聞いたり見たりするようになった。

 かつて南関東でも大井に限って、転入初戦馬の重賞(古馬も含めて)出走を制限するルールがあった。たとえば2010年に東京ダービーを制したマカニビスティーは、中央でダート2勝から大井へ移籍し、3歳特別(チューリップ特別)を勝ってから羽田盃に出走(2着)し、東京ダービーを勝って中央に戻った。当時の大井では転入初戦での重賞出走が認められておらず、しかしその後はそれが可能となり、2012年にはプーラヴィーダが中央からの移籍初戦で東京ダービーに臨んで2着となっている。

 南関東の中でも特に大井競馬は、“ライバルは中央”と考えているところがさまざまにあって、そうであればこそ、強い馬の転入に制限を設けるのは得策ではないと考える。制限されたところで大レースを勝ったとしても、それがたとえば日本のチャンピオン級という評価にはならないからだ。

 地方競馬では、昨年度から地方競馬における強い馬づくりの一環として『地方競馬強化指定馬制度』をスタートさせた。2歳時の成績によって最大5頭を“強化指定馬”とし、明けて3歳の1〜6月に坂路等を備えた民間の育成施設を利用する際に経費の一部(最大200万円)を支給するというもの。

 ただ実際に強化指定馬となった一部の陣営からは、民間の施設で調教をしても、レース出走前、一定の期日までに入厩していなければならないため、経費が支給されるといっても制度を利用しにくいというような話を聞いている。そもそも2歳の活躍馬は多くがホッカイドウ競馬でのデビュー馬となることが必然で、昨年も強化指定馬となった4頭のうち3頭がホッカイドウ競馬デビュー馬。そのうち3歳になっても北海道に残ったのは1頭だけだったが、門別競馬場には坂路があるため、考え方や状況によってはわざわざ外部の民間の施設を、ということにはならない。

 またホッカイドウ競馬や南関東では、認定厩舎(いわゆる外厩)を利用する有力厩舎も少なくなく、ある程度のトレーニング施設を備えている認定厩舎を使っている馬が、さらに別の民間の施設を使うかといえば難しい。

 一方で、昨年からダートグレード競走褒賞金の制度も始まった。ダートのGI/JpnI全競走の地方最先着馬と、一部のGII/JpnII、GIII/JpnIII競走でレースごとに決められた着順以内の地方最先着馬に褒賞金を支給するというもの。

 たとえば南関東の三冠(牡、牝とも)であれば、現状のとおり転入馬に出走制限を設けない代わりに、地元デビュー馬(もしくはデビュー馬でなくとも2歳時から在籍している馬としてもいい)が三冠もしくは二冠を制したときに褒賞金を支給するというのはどうか。

 かつてホッカイドウ競馬では、2歳戦のレベルは高いものの、2歳シーズンが終わると有力馬の多くが他地区に転出してしまい、3歳戦線があまり盛り上がらないものとなっていた。ところが2016年度からは三冠(二冠)ボーナスが設定されたのに加え、北海道デビュー馬で冬期間他地区に移籍した馬が、翌年度の初期に門別に戻った場合に輸送費の補助が支給されるようになったことで、3歳三冠戦線が確実に充実したという例もある。

 異分子を排除するより、生え抜き馬に褒賞金も含めた手厚い賞金体系にするのが得策と思うのだが、どうだろう。制限を設けないなかで勝ってこそ、真のチャンピオンとして讃えられると思う。

1964年生まれ。グリーンチャンネル『地・中・海ケイバモード』解説。NAR公式サイト『ウェブハロン』、『優駿』、『週刊競馬ブック』等で記事を執筆。ドバイ、ブリーダーズC、シンガポール、香港などの国際レースにも毎年足を運ぶ。

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