◆しかし、こなせる距離は2000mくらいまでか「アーモンドアイを見にきました」という方とお会いした。「わたしとしては、こんなにいっぱい単勝を買ったのは初めてなんです」という女性ファンにも会った。
わたしの周囲にいる競馬記者は、だいたい馬券おじさんか、馬券青年なので、「しかし、付かなかったなぁ…。3連単で3000円ちょっとか…」。あまりに民度の低い感想をもらすばかりだったが、無事、断然の支持を受けたアーモンドアイ(父ロードカナロア)の2冠達成のオークスが終了した。
断然の支持を受けたアーモンドアイの2冠達成(撮影:下野雄規)
パドックに入ったころは落ち着きはらっていたアーモンドアイは、時間の経過とともにテンションが上がり、返し馬もいつもよりカリカリしていた。スタートの良くない馬なので、「これでは出遅れるのではないか」と見ていたら、逆に気負ってつっかかるような好スタート。1コーナー過ぎまでC.ルメール騎手が行きたがるのをなだめるほどだった。
向こう正面に入って、落ち着いてリズムに乗ったアーモンドアイのすぐ前に、当面のライバルのラッキーライラック(父オルフェーヴル)。さらにその前にリリーノーブル(父ルーラーシップ)がいて、アーモンドアイの直後にはサトノワルキューレ(父ディープインパクト)がいた。これだと残念ながら、波乱は生じない。
1頭だけ1000m通過「59秒6」で飛ばしたサヤカチャン(父リーチザクラウン)のちょうど中間地点の1200m通過は、目測で1分12秒0前後。6番手あたりのアーモンドアイは15馬身も離れているから、1分14秒前後かと思えた。初の2400mが死角といえば死角のアーモンドアイにとっては、見た目とはちがって理想のゆったりペースでの追走だった。
計時された勝ちタイムは「2分23秒8」。12年に5馬身差の独走を決めたジェンティルドンナ(父ディープインパクト)の大レコードと0秒2差の史上2位である。
3位がソウルスターリングの2分24秒1で、ほかに2分24秒台で勝ったオークス馬はいないから、芝コンディションの差はあるにせよ、通算G1競走7勝(海外を含む)のジェンティルドンナと互角の時計でオークス快勝は、もうこの時点で名牝の証明である。
リプレイをみて推測すると、アーモンドアイは推定「1分14秒0-1分09秒8」くらいの前後半バランスで2分23秒8だったろう。
ジェンティルドンナの年は、先行馬の飛ばしたペースはもっと速かった。控えて後方から猛烈な追い込みを決めたジェンティルドンナの推定前後半は「1分13秒0-1分10秒6」=2分23秒6である。前後半の差はそれほど大きくない。
今回のアーモンドアイは、ルメール騎手が「桜花賞のときは楽に勝ったけど、(暑くてテンションが上がっていたためか、)きょうは精いっぱいでした」というトーンの感想を口にしたが、レースの後半は「1分12秒0-59秒6-47秒3-34秒9-11秒6」。
縦長の2400mにしてはきわめて速かった。レコードが記録された桜花賞1600mのレースの後半800mは「46秒5-34秒4」。オークスは800mも異なる未知の2400mなのに、レースの最後800mは「47秒3-34秒9」。4ハロンはたった0秒8の差しかない。アーモンドアイ自身は今回もまた、前半は楽な追走だったとはいえ、距離がまったく異なるから、スパートは楽ではない。
自身の上がり「33秒2」は桜花賞とまったく同じであり、今回は他のライバルがみんな似たようなところにいて速い上がりを記録するレースだったから、桜花賞と同じような数字で上がったのに、ずっと厳しく感じられたのかもしれない。
ただ、記録された数字ではなく、レース直後の印象からすると、のちに男馬を再三封じたジェンティルドンナをイメージして見ていただけに、ルメール騎手の(思いのほか)精いっぱいだったという印象もその通りのようにも思えた。まだ5戦だけのアーモンドアイを、歴史的な牝馬ジェンティルドンナとこの時点で比較しようとすることがナンセンスなのだが、アーモンドアイも、父ロードカナロア産駒のこなせる距離も、感覚としてやっぱり2000mくらいまでではないか、と感じた。
それとは別に、所用に構うことなく「アーモンドアイを見にきた」彼は、わたしのようなファンではなく、レースに対する感覚がホースマンそのものだった。
アーモンドアイが好位から抜けて勝ったから、アーモンドアイより前にいて、2分24秒台で乗り切ったライバルは素晴らしかった。重複するが、芝状態を別にして、オークスの勝ちタイム4位が、2分25秒0である。
流れに乗ったリリーノーブルは、4コーナーを回って自分から勝負に出た。ゴール寸前は勝ち馬に突き放されるように2馬身差だが、自力で2分24秒1である。間違いなく成長するだろうルーラーシップ産駒。今回、完敗は確かでも、秋が楽しみになった。
ラッキーライラックは、惜しい3着。結果論かもしれないが、スパートが一歩遅く、横にアーモンドアイが見えてからのように思えた。この内容だから、リリーノーブルとともに桜花賞上位組のレベルの高さを十二分に発揮した結果であり、先に動いたところで負けは負けだったろうが、クラシックである。少し悔いが残るだろう。
サトノワルキューレは、前回は相手を無視して自分だけのレースに徹して結果を出したが、今回は一転、正攻法。自身のリズムではなく、すぐ前にいたアーモンドアイのリズムになってしまった。流れは楽でもタメが効かなかったということか。
ゴールの瞬間だけの印象で、多頭数のビッグレースはそういうものではないが、7着パイオニアバイオ(父ルーラーシップ)はもっと強気でも良かった気がした。