スマートフォン版へ

2018トレーニングセール、228頭もの2歳馬が無事に全馬上場

  • 2018年05月24日(木) 18時00分


元JRA騎手の藤田伸二氏の騎乗姿も健在!


 日高軽種馬農協主催としては今年最初のセリとなる「トレーニングセール」が、去る5月22日(火)、札幌競馬場を会場に開催された。

 前日21日(月)に公開調教が実施され、セリはその翌日という全2日間の日程である。

 毎年、5月の札幌競馬場は肌寒く、ブランケットの貸出も行なわれるほどの気温になるのが普通だが、今年は季節外れの暖気に恵まれて、日向にいると汗ばむほどの陽気であった。

 とりわけセリ当日の22日は札幌市内の最高気温が26.9度にまで上昇し、半袖で過ごす人の姿が目についた。紫外線もたっぷりと注ぎ、この2日間ですっかり日焼けしたとこぼす人もいたほどだ。

 さて21日の公開調教。開始は午前10時。本州方面から来場する購買関係者に配慮し、遅めのスタートになっている。228頭(上場予定馬)を5つのクルーに分割し、1クルー当たり23〜25組が基本2頭併走で調教を披露する。地下馬道から内馬場に出て、向こう正面よりスタートし、3コーナー付近から徐々に速度を増して、2ハロンの時計を計測する。

 予め公開調教クルー表が配布され、それに従って購買関係者はスタンドから各馬の走る様子をチェックすることになるが、騎乗者や飼養管理者(育成牧場)の都合上、上場番号通りには行かないのがこの公開調教だ。今年も第1クルーの順番が、1組目130番と225番、2組目が144番と162番、3組目が67番と108番というように、バラバラに登場した。

 騎乗者名の中に、昨年夏、地方競馬の騎手試験を受けた元JRA騎手の藤田伸二氏の姿があった。昨秋、新冠で行なわれた講演会で「乗れるように日頃から体を鍛えている」と話していたように、今回の公開調教では、他の育成牧場スタッフやホッカイドウ競馬の騎手たちとともに、合計9鞍に騎乗。達者な騎乗ぶりを披露し、注目を集めていた。

生産地便り

元JRA騎手の藤田伸二氏の姿も見られた

 多くの馬が、終いの1ハロンを11秒台でまとめる仕上がりを見せる中、10秒台が出るとひと際目を引く。今年の公開調教の最高タイムは、209番「サウスハクシャク」(父サウスヴィグラス、母アサティスジョオー、牡栗毛、販売申込者・飼養管理者ともに(有)グランデファーム)の2ハロン合計21秒69(11秒10、10秒59)であった。

生産地便り

最高タイムを記録した209番「サウスハクシャク」

 続いて150番「ブラックカシミール16」(父バンブーエール、牡黒鹿毛、販売申込者・飼養管理者ともに(株)吉澤ステーブル)の出した21秒86(11秒12、10秒74)。

生産地便り

こちらは150番「ブラックカシミール16」

 228頭もの2歳馬が登場したにもかかわらず、全馬が無事に翌日のセリに上場されたのは何よりであった。できるだけ速いタイムをたたき出すことで注目度を上げることが、売るための作戦にもなるわけだが、公開調教で無理をさせないようにという考え方が浸透してきているのであろう。昨年までは、公開調教に出てきたのに、翌日のセリを欠場せざるを得ないような馬が確実にいた。それがなかったことだけでも大きな収穫である。

 1クルーあたり約1時間で次々に公開調教が行なわれて行き、1クルーの各馬が走り終えると、馬場にハローが掛けられる。休憩時間は特に設けられず、午後3時半までぶっ通しで公開調教が行なわれた。無事故で終わったのは何よりであった。

 翌22日。この日も朝から好天に恵まれ、太陽がまぶしい。セリ開始は午前9時半。前述したように、公開調教に出場した228頭(牡129頭、牝99頭)全てが上場され、結果は既報の通り、151頭(牡84頭、牝67頭)が落札された。

 最高価格馬は公開調教で2番時計を出した150番「ブラックカシミール16」の4500万円(税込4860万円)。落札者はYEONG HUNG WAE氏。

生産地便り

調教でも注目を浴びた150番「ブラックカシミール16」が最高価格で落札


生産地便り

150番「ブラックカシミール16」の立ち姿

 また牝馬の最高価格馬は27番「コスモカゼツカイ2016」(父トゥザグローリー、母の父Harricane Run)の2150万円(税込2322万円)であった。販売申込者・飼養管理者ともに(有)坂東牧場。落札は(株)Shadow。

生産地便り

牝馬の最高価格馬は27番「コスモカゼツカイ2016」


生産地便り

27番「コスモカゼツカイ2016」の立ち姿


生産地便り

27番「コスモカゼツカイ2016」の公開調教

 売り上げ総額は11億6985万6000円。平均価格は牡が936万1285円、牝馬が572万4000円。売却率は66.22%。

 上場頭数は前年よりも20頭増加したが、逆に売却頭数は4頭の減少で、総額でも前年比1億1523万6000円の下落。また平均価格も、54万3525円の減少であった。売却率でも前年の74.52%から8.29%落ちてしまった。

 セリを総括し、日高軽種馬農協の木村貢組合長は「昨年の数字がどの市場もひじょうに良かったので、今年はある程度落ちるであろうとは予測しておりました。売り上げ総額はともかく、私どもは売却率があまり落ちなければ良いなと心配していたのですが、66%の売却率は想定内です」とコメント。「この先、1歳市場が昨年並みの売れ行きになってくれるよう、私どもも良質の馬を揃えて皆さまのご来場、御購買をお待ちしております」と結んだ。

 現2歳馬は空前の好況を呈した昨年の1歳市場での取引馬も多く混じっており、ピンフッカーによる「1歳馬を仕入れ、調教して2歳市場で売却する」ために上場された馬たちの好成績が目についた。その反面、生産者が1歳時に生産馬を売りあぐねた結果、育成牧場に預け、調教をつけ今回上場してきた「売れ残り」も少なからずいたが、それらはやはり苦戦させられるケースが多かった。主取りだったり、落札されても安かったりと、毎度のことながらセリは明暗を大きく分ける結果になる。

 なお、セリの最後には、JRAブリーズアップを欠場した再チャレンジ組5頭が上場され(名簿上では7頭、2頭が欠場)、全馬完売であったことを付記しておく。

 ところで以下は余談だが、アクシデントらしいアクシデントこそなかったものの、やはりセリには数多くの若馬が集結するため、目立たぬところで時々小さなハプニングも起こる。

生産地便り

若駒ゆえにギョッとするハプニングも

 今回は、立ち写真の撮影現場にパドック方向から上場を終えた馬が「逃走」してきた場面が、もっともギョッとするシーンであった。幸いにも本馬場に突入する前に立ち止まり、ほどなく「捕獲」されてことなきを得たが、埒を飛び越えて芝コースにでも入ってしまったら大変なことになったものと思われる。やはり生き物だから、いろいろなことが起こる。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

バックナンバー

新着コラム

アクセスランキング

注目数ランキング