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“世紀末覇王”テイエムオペラオーを偲んで(前編)――和田竜二騎手「あの感触を忘れるわけにはいきません」

  • 2018年06月21日(木) 18時02分
和田騎手

▲5月17日にこの世を去ったテイエムオペラオー。その主戦騎手を務めていた和田竜二騎手にお話を伺いました。


5月17日にこの世を去ったテイエムオペラオー。今年は6月24日に行われる宝塚記念をはじめ、GI・7勝の金字塔を打ち立てました。同馬の栄光を偲び、主戦騎手を務めた和田竜二騎手にいま改めて、その思い出を振り返っていただきます。

またnetkeibaではユーザーの皆様から、和田騎手とテイエムオペラオーへのメッセージを募集。頂戴したたくさんのあたたかなメッセージを和田騎手にお届けしました。

本日はそのインタビューの前編を公開。後編は明日6/22(金)18時に公開予定です。(取材・文:不破由妃子)



「死んでしまう前は負けたレースをよく思い出していたんやけど…」


──5月17日、テイエムオペラオーが22歳で旅立ちました。

和田 ショックでしたね。ただ、スペシャルウィーク(2018年4月27日没)のこともあったから、なんとなく嫌な予感はしていたんやけど…。キタサンブラックに記録(生涯獲得賞金)を抜かれ、岩元先生の引退を見届けて……なんか、ようわかってるよね。

──22歳ということは、人間でいうと60代半ば。心臓麻痺だったそうですね。

和田 そうですね。種付けもしていて、普段は放牧地を走り回っていたみたいやから、元気過ぎたのかもしれん。

──最後に会いに行ったのはいつだったんですか?

和田 もう何年も前ですね。そのときに噛まれたから、もう行かんとこうかと(笑)。いや、本当はね、中央のGIを勝ったら会いに行く…っていうどうでもいい決め事を勝手にしていたもんやから。GIを勝ったら堂々と会いに行けるかなと思ってね。でも、(勝てない期間が)あまりにも長すぎて(苦笑)。

──そうだったんですね。後悔があるのでは?

和田 ホンマやね。人間でも馬でも、会えるときに会っておかなアカンなと思いました。引退してからずっと思っていたことなんやけど、やっぱり会いに行くからにはいい報告がしたくてね。結局、生きているうちにそれは叶わなかった。情けない話ですけどね。

和田騎手

▲「人間でも馬でも、会えるときに会っておかなアカンなと思いました」


──オペラオーについての和田さんのツイートを拝見しました。「昨日のことのようにあなたの背中の感触があります」と…。

和田 僕の基礎を築いてくれた馬ですからね。今でもそうやけど、走る馬の理想像やし。まだオペラオーに匹敵する馬には出会えていないわけですから、あの感触を忘れるわけにはいきません。

──ほかにも「あなたのおかげでまだここにいます」というツイートを見て、なんだか涙が出そうになりました。

和田 口に出しては誰にも言われへんからね。言葉にしたら、たぶん“えずく”(笑)。本当はもっともっと言いたいことはたくさんあるけど…。あのツイートですら、お酒を飲んで泣きながら書きましたからね。

──そうだったんですね。本当にひとつひとつの言葉に和田さんの思いが溢れていて、たくさんの人に見てほしいと思いました。

和田 花を手向けにひとりで行ったもんやから、なんか感傷的になって。でも、オペラオーがいなかったら、ここまでジョッキーを続けていられたかどうか本当にわからへんからね。

──オペラオーとの日々で、今一番思い出すのはどんなシーンですか?

和田 一番はコンクリの上に落とされたこと(笑)。そうやなぁ、死んでしまう前は負けたレースをよく思い出していたんやけど、死んでしまってからは、なぜか勝ったレースを思い出す。今聞かれてそのことに気付きましたわ。でも、一緒に嫌なレースも思い出してしまった(苦笑)。

和田騎手

▲テイエムオペラオーが死んでしまってからは「なぜか勝ったレースを思い出す」という(写真は2000年宝塚記念優勝時、(C)netkeiba.com)


──そのレースとは?

和田 それはもう“悪夢の菊花賞”でしょう。いまだにあのレースの夢を見るからね。でも、勝ったレースばかりを思い出すのは、オペラオーが忘れさせてくれようとしてるのかもしれんね。「もう考えないでいいよ」ってね。オペラオーに乗っている頃は、一年中、オペラオーとのレースのことしか考えられへんかったから。GIを勝ったら普通はうれしいんやろうけど、あの頃はホッとするだけやった。

──1番人気より何より、“負けられない”というプレッシャーがどれほどのものか、想像もつきません。

和田 僕は競馬だけに集中できたけど、先生や厩務員さんは大変やったと思う。思ったように飼い葉を食べてくれない馬でね。その割には体調の変動は少なかったけど。馬にとってすごくよかったなと思うのは、担当の原口さんがオペラオーを特別扱いしなかったこと。

 普通、オペラオーのような馬を担当したら浮き足立っちゃうと思うけど、原口さんは怒るときはめっちゃ怒るし、「俺はすごい馬を担当してる」という雰囲気をまったく出さへん人で。少なくとも僕にはそう見えて、それが僕にとってもオペラオーにとってもすごくよかったんだと思う。まぁ、最初から期待されていた馬ではなかったからね。

和田騎手

▲「先生や厩務員さんは大変やったと思う。思ったように飼い葉を食べてくれない馬でね」


──当時はサンデーサイレンス全盛の時代でしたからね。そんななか、オペラハウス産駒のオペラオーと、サッカーボーイ産駒のナリタトップロードが人気を二分して。

和田 ひとつ上には、スペシャルウィークやグラスワンダーがいて、同世代にはアドマイヤベガがいて。いろんなキャラクターが揃った面白い時代でしたよね。

(後編につづく)

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