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「福島から競馬を見続ける気骨の“オンリーワン”」<第19回>高橋利明

  • 2018年07月02日(月) 18時00分
高橋利明

ローカル紙の競馬記者というスタンスで、地方から競馬の魅力を発信し続けたいという高橋利明さん。今どき珍しい気骨のある競馬記者だ。



先週開幕した夏の福島競馬。今年は競馬場開設100周年を迎え、ただでさえ“競馬熱”の高い福島も、さらに熱を帯びて大きな盛り上がりを見せている。そんな地元で、子供の頃から40年以上競馬を見続けている、気骨ある競馬記者がいる。福島民報社の高橋利明記者だ。日本一競馬欄が充実しているローカル紙で、1993年から本社予想を担当。テレビやラジオの解説も務め、ウマい馬券でも『“丸乗りできる”敏腕記者』として活躍。そんな高橋記者に地元・福島競馬の傾向と対策、記者としての矜持、競馬界に対する思いなどをうかがった。

“福島あるある”から誕生した、能書きを垂れる“クソガキ”



「僕は記憶にないんですけど、小学校に入る前、両親に競馬場へ連れていってもらって。パドックで肩車されて『ほら、お馬さんだよ』とかいわれて。そのとき、このクソガキは『これは5-6で決まりだね』っていったそうなんです。そうしたら、本当にその通りの決着だったそうです」(笑)

 競馬熱の高い福島では“あるある話”だが、遊び場として家族で訪れることの多い福島競馬場。地元の田辺裕信騎手や高野友和調教師も、競馬場は子供の頃の遊び場で、競馬は身近な存在だった。ご多分に漏れず、高橋少年もそのタイプ。ただ馬を見極める天賦の才は、すでに発揮されていた。

「小学3年生のとき、ハイセイコーが走るダービーが運動会と同じ日で。もう気が気じゃなくて(笑)。運動会なんてどうでもいい、さっさと終わってくれって(笑)。15時に終わって家までダッシュですよ。ハイセイコーが勝つと信じて疑わなかったから、3着に負けて号泣でした」(笑)

 どっぷり競馬にハマった高橋少年は、小学6年くらいになると5〜6人の仲間が集まって、週末は日曜のレース展望、月曜になるとその反省会を学校で開くなど、すでに“競馬ルーティン”の礎ができていた。

「その頃、日曜の朝とか、親父の知り合いから電話がかかってきましたね。用があるのは(競馬の)能書きを垂れる倅(せがれ)のほう(笑)。そんなクソガキが、しばらく経つとテレビに出るようになって。『いやー、こんな仕事をするようになりました』なんて。みんな笑ってました。そのあたりは福島ならではですね」

一番大事なのは、福島の騎手や調教師たち



 好きなことが職業になる幸運。運命に導かれるように、拍子抜けするほどアッサリと競馬記者になった高橋記者は、若手の頃、福島開催がまだ滞在競馬だった時代に関係者との人脈を築くことができたことが、今の自分の礎になったと話す。紙面で印を打つことにもプレッシャーはなく、ときには攻めた予想もしばしば。

「当たり前にやったら面白くないし、どこを面白く感じてもらうかは意識していますね。例えば、読者には『また田辺に◎を打っているよ〜』って思ってもらっていい。そう思わせることで、面白いと思ってもらえるし『こいつバカだね〜』って。そういう勝負をしないとダメだと思う」

 一番大事にしているのは福島出身の人たち。田辺騎手や高野調教師らが話題を提供し、活躍してくれること、そして彼らと長く付き合ってこられたことが、ひとつひとつの積み重ねとして大きな財産にもなっている。また、長年にわたり福島競馬で活躍した中舘英二元騎手(現調教師)とも親交が深く、田辺騎手とのこんなエピソードも教えてくれた。

「震災があった2011年に当時、小倉で滞在していた田辺がブレイクして。そのとき、中館に相談したらしいんですよ。『秋は中央場所に戻ったほうがいいかどうか』って。そうしたら中館は、『ローカルで埋もれさせるのはもったいない。今がタイミングだから行け』って、伝えたそうなんです。そのことについて、田辺は感謝しているんですよ。『中館さんに背中を押してもらってなかったら、ローカル回りで終わっていたかもしれない』って」

高橋利明

エクイターフ導入後の福島の馬場は、開催後半でも荒れることが少なくなり、かつての“逃げ馬天国”のイメージはすっかり払拭されている。写真=下野雄規【netkeiba.com】



傾向が変わってきた福島の芝と、“縦の比較”が大事なハンデ戦



 夏の福島といえば、芝は前半が前残り、後半はボコボコになって、荒れる印象で難しい。そんなイメージを持たれる方も多いだろう。しかし、近年はその傾向が大きく変わってきていると高橋記者は話す。

「過去5年のデータを見ると、逃げ切りはあるんですが、昨年は3歳の未勝利から500万、1000万と、芝1200mでは一度も逃げ切り勝ちがないんです。2010年くらいから芝がエクイターフに替わって、馬場が良くなったにも関わらず、単調な逃げ切りがなくなって、差す競馬が届くようになった。以前は、ディープ産駒にとって福島は鬼門の馬場だったのに、七夕賞なんかディープしか走らなくなった。2週目に変わった影響もあると思いますが、ディープが走るようになったことが、福島の芝の傾向が変わった典型的な例。そして、ディープが走るということは、逃げ馬が残らない馬場なんです」

 今年は、夏の馬場としては洋芝が多く、力のいる馬場になりやすい。また、シャタリングで整備をしたので、使っているうちに路盤が硬くなり、締まってきやすい馬場になるのでは、とのジャッジだ。

「ハンデ戦はよくわからないけど(笑)、考え方としては、ハンデキャッパーは一度ハンデを決めちゃうと、それが基準になってしまう。だから、その馬の斤量の“タテの比較”が重要になってくると思います。ハンデを背負い続けているから不利なのか? 不当にハンデが低いままなんだろうか? とか。そこを見ていかないと、単純な有利不利がわからない。そのうえで、最終的に“ヨコの比較”をすると、明確になってくるんじゃないかなあ」。

 軽量ハンデが付きにくくなった昨今、結果的に強い、重いハンデの馬を買ったほうがいい、とも付け加える。また、大きいレースを勝った馬が、一度不当に重いハンデを背負わされて、斤量がそのまま続くような場合は、軽視してもいいのでは、とも語ってくれた。

高橋利明

“ハンデ戦はハンデキャッパーの思惑を読み取って、”タテの比較“をすることが大切。写真=下野雄規【netkeiba.com】



競馬の楽しさを伝える人でありたい



「今の競馬がつまらない、っていうのは簡単。あの頃が良かったね、というのは進化を止めた人間がいう話なんです。今の競馬もちゃんと理解して、馬の仕組みも理解して、どういう競馬をしているんだ、ということも理解して、わかったうえで、前と比べてどうだったのか、と。懐古主義で昔を振り返ることが一番良くない。今と昔を比べて、どこがすごくなって、どこがつまらなくなっているのか。それを冷静に考えないと、記者じゃなくなっちゃいますね」

 そして、競馬は面白くあってほしい、面白い競馬を伝えていきたい。だからこそ、今の混沌とした、閉塞感のあるような状況に警鐘も鳴らす。

「どういう競馬を見せたいのか、というビジョンですよね。馬場が良くなったら面白いのか? そこまで考えているのか? 海外に連れていったら通用するのか? 本当にこれでいいんですか? レース体系も含めて。大手の人たちは、自分たちが勝つために海外から一流ジョッキーを連れてきて依頼します。だけど、彼らは日本の競馬をどう見せるか、本来は責任もあるはずです。誰が旗を振って、日本の競馬をいい方向へ持っていくか。本当はみんなで考えて、方向性を決めなきゃいけないんですけどね」

 話題に対して敏感にならなきゃいけない。目の前にネタがぶら下がってたら、パクンと食いつかないと記者じゃない。そんな信念のもと、福島から発信し、「福島にはちょっと変な奴いるんだよね」っていわれるような“オンリーワン”の存在に辿りついた高橋記者。ときには競馬界に噛みつくこともあるが、それは幼い頃から楽しんできた競馬を愛するからこそ。攻めることをやめたら面白くない―――。恐らくそれが、能書きを垂れた“クソガキ”の頃からの、変わらないスタンスなのだろう。

高橋利明

昨年の七夕賞を勝ったゼーヴィント。一時期、ディープ産駒には鬼門だった福島だが、エクイターフ導入後は苦にする産駒が少なくなった。写真=下野雄規【netkeiba.com】



高橋利明は『ウマい馬券』で予想を公開中!
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