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着差以上の完勝、崩れない先行型に成長するはず/ラジオNIKKEI賞

  • 2018年07月02日(月) 18時00分


◆敗れたフィエールマンも爆発力は脅威

 今年、各場で例年以上の高速レースが展開されているが、開幕週の福島もいつもより時計が速かった。1分46秒1(1000m通過58秒7-後半47秒4-35秒1)の勝ちタイムは、福島で行われたラジオNIKKEI賞(1979年以降)では、史上3位の高速決着になる。レースレコードは1998年ビワタケヒデの1分45秒6。

 前回、京都1800mの白百合Sを1分45秒9で逃げて圧勝しているメイショウテッコン(父マンハッタンカフェ)が行くのかと思えたが、戸崎騎手のキボウノダイチ(父バゴ)が好スタートを決めたこともあるが、松山騎手のメイショウテッコンは必ずしも先手にこだわらないレースを考えていた。そのため、気迫を前面に出していた同馬は、向こう正面に入ると3コーナーまで行きたがるのをなだめ通しになったが、それでも最後の2ハロン「11秒6-11秒6」の高速決着を抜け出した。まったく脚さばき乱れることなく上がり34秒8でまとめ、着差2分の1馬身以上の完勝はすばらしい。

 これで【4-0-0-3】。ここまでは快勝か、完敗かの成績だったが、このあとはもう今回ほど行きたがらないだろう。崩れない先行型に成長するはずである。父マンハッタンカフェは3歳の2001年、春シーズンの体調不安(気迫が空回りして大きく体力消耗)を夏場に解消すると、秋に「菊花賞→有馬記念」連覇を決めている。母の父レモンドロップキッドも1999年、12FのベルモントS、10FのトラヴァースSを制している。ともに古馬になってからもっと強くなったが、3歳秋に完成に近づいて不思議ない背景を秘めている。おそらく距離延長にはほとんど不安はない。陣営はこのあとひと息入れ、「神戸新聞杯→菊花賞」挑戦をにおわせている。

重賞レース回顧

陣営はこのあとひと息入れ、「神戸新聞杯→菊花賞」挑戦をにおわせている(撮影:下野雄規)


 これで夏のラジオNIKKEI賞は、「17年連続」で春のG1には出走していない馬の勝利が続いている。ずっと以前、残念ダービーと形容されたのが、「日本短波賞→ラジオたんぱ賞→ラジオNIKKEI賞」の歴史だったことは忘れよう。

 1番人気のフィエールマン(父ディープインパクト)は、陣営がレース前から公言していたように「意欲的に追えるようになっての夏場の移動、マイナス10キロくらいの馬体重になる」。まったくその通り10キロ減の476キロだったが、落ち着きつつ、鋭さ満点の馬体に仕上がっていた。少し出負けは想定通り。後方で折り合った。

 前半58秒7で飛ばすキボウノダイチを、2番人気のメイショウテッコンが好位で追走する展開は、高速コンディションを考慮してもきびしい流れであり、あわてることなく3コーナーで最後方近くにひかえたレース運びに落ち度はない。

 フィエールマンの上がりは、メイショウテッコンの34秒8を、大外を回って上回る「34秒4」だった。レースの最後の1ハロンは11秒6。見る角度にもよるが、残り200mで先頭とは4馬身前後の差があったから、フィエールマンの最後は確実に「11秒0」を切っているだろう。この速い流れを追走して、最後11秒0を切ったのではないかと推定される爆発力は、ほぼ平坦の福島とはいえ驚異。まだ、3戦目。1番人気には応えられなかったが、能力は十分すぎるほど示した。

 ただ、すごい弾け方をしたのは事実だが、3戦2勝の同厩の半姉ルヴォワール(父ハーツクライ)などが示すように、またフィエールマンも「1月→4月→7月」のローテーションであるように、現時点ではあまり負担をかけたくないタイプ(とくに脚部や身体に)と考えられている。余計な取り越し苦労は承知。さらには、先行タイプではないからだれが乗ってもほぼ同じようになったと思えるが、高速レースを追い込んで「最後に極限の爆発力発揮」は、潜む危険と隣り合わせ。腱に反動をもたらす心配がある。まったく平気で一段とたくましく成長し、ぜひ、メイショウテッコンとともに秋のビッグレースに参戦してほしいものである。みんなの評価は分かれるが、今春の牡馬クラシックの上位陣に厚い壁はない、とする見解の方が多い。

 伏兵キボウノダイチは、高速の小回りコースとはいえ、このペースで先手を主張して失速しなかった。直後を追走してきたメイショウテッコンと0秒2差だけ。粘り込みそうにもみえた。同じトーンの馬名をもつ一族のユメノマイホーム(6歳2勝馬)より強くなるだろう。

 3番人気のイェッツト(父カンパニー)は、前走の東京2000mのプリンシパルSを1分58秒2で微差3着。この馬自身、1800m通過推定1分46秒5前後のレースを経験しているのでスピード不足ということはないが、小回りコースで前半から速いラップを追走するレースが合わなかったように映った。ゆったり追走できるレース向きか。

 直前のCBC賞で、1番人気の4歳牡馬ダイメイフジ(11着)、6番人気だった半姉の5歳牝馬ダイメイプリンセス(9着)をみていて思ったのは、あまりにも高速の1分07秒0で決着しすぎ、短距離タイプながら対応できなかったこと(姉弟の持ちタイムは1分08秒0〜4)。大幅に時計を短縮してさえスピード決着に対応できなかった。姉に騎乗した秋山騎手の「ここというところでギアチェンジできない」、弟に乗ったMデムーロ騎手の「ちょっと忙しかった」というレース後のコメントは、絶妙にマトを射る表現と思えた。

 それと同じで、ここまで高速レースになると、しぶとい伸び脚が身上のイェッツトや、タイプは異なるがやっぱり快速系とはいえないグレンガリー(父ハービンジャー)には、真価発揮の舞台ではなかったのだろう。

 好位のインで最高に乗ったエイムアンドエンド(父エイシンフラッシュ)も、母ロフティーエイムが快走した福島牝馬Sや函館記念とはまるで芝コンディションが違っているのだから、善戦止まりはやむをえない。全国のJRAの競馬場が、そろって一段と高速の芝になりすぎている気がする。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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