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兄弟子から夫へ… 下村瑠衣騎手への公開プロポーズ!

  • 2018年07月31日(火) 18時01分
馬ニアックな世界

▲7月1日付けで引退した下村瑠衣騎手(右)と、兄弟子から夫となった佐原秀泰騎手(左)


JRA・地方競馬合わせて7人いる女性騎手のうちの1人、下村瑠衣騎手(高知)が引退しました。突然の引退発表に「なんで?淋しい」と思ったファンも多かったでしょう。私もそうでした。

しかしそんな思いは、引退式で兄弟子・佐原秀泰騎手からの公開プロポーズを見ると幸せな気持ちへと変わりました。「これからは夫として支えさせてください。結婚してください」と申し出た佐原騎手に対し、「はい」と答え、真っ赤なバラを受け取った下村騎手。公開プロポーズの背景には、「女性騎手だから…」という佐原騎手の優しい気遣いが込められていました。

一方、約7年前、園田競馬場でも公開プロポーズがありました。敢行したのは当時、重賞未勝利だった大柿一真騎手。「重賞を勝てたら、プロポーズをしよう」と心に決め、単勝1.3倍のプレッシャーに打ち勝ち、見事重賞初制覇とプロポーズを成功させたのでした。アットホームな地方競馬だからこそ実現した2つのプロポーズ・エピソードに迫ります。



「引退に理由を加えてあげられたらな」


 7月1日、下村騎手の引退式当日。

 その少し前まで佐原騎手は「どうしようかな…」と迷っていました。

 引退式のみんなの前でプロポーズをするか否か、決めかねていたのです。

 下村騎手が引退を決めたのは、少しづつ変わっていく環境に馴染むことができなかったからでした。自分の中に溜め込んでいた葛藤やストレスが積み重なり、気が付くと髪の毛がまあるく抜け落ちてしまっていました。かねてより交際していた佐原騎手は、そんな彼女を見かねてこう言いました。

「もう辞めてもいいぞ。俺が稼ぐから」

 苦しみもがいていた下村騎手はこの一言でふっと気持ちが楽になり、体調が良くなって髪の毛もすぐに生えてきたと笑います。

 そんな理由があっての引退でした。しかし、佐原騎手はこう言います。

「女の子で注目もされていたから、『なんで辞めるの?』ってファンの方も思っていたと思うんです。そこに理由を加えてあげられたらな、と思って。『結婚で辞めるんだ。よかった』って思ってくれたらなおさらいいかなって」

 そんな思いから引退式での公開プロポーズを決断したのでした。

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▲下村騎手の引退式で、みんなの前で公開プロポーズ


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▲「結婚してください」の申し出に「はい」と答え、真っ赤なバラを受け取った下村騎手


 インターネット中継でも配信された公開プロポーズ。

「喋っている時はそんなに緊張しなかったです」

 佐原騎手はそう振り返るように、引退式直後には下村騎手に「実はドッキリだったりして。ドッキリの看板ない? テッテレ〜♪」と冗談を言いました。それに対し下村騎手は「人前だから『嫌だ』とかいうわけにいかないじゃん(笑)」と微笑ましい反撃。和やかな雰囲気の中、下村騎手はラスト騎乗を終えました。

 ところが後々、「インターネットで反響がすごいあって、だんだん恥ずかしくなってきました(照)。みんなにも言われました」と佐原騎手。それでも「やってよかったですね」と笑いました。

 下村騎手の今後についてはいくつか選択肢があったようですが、8月5日から高知競馬場で誘導馬に騎乗することが正式決定しました。

 主に日曜日を担当するとのこと。下村騎手自身も楽しみにしているようです。ぜひ、インターネット中継や現地で見守りたいですね。

「重賞を勝ったら、プロポーズしたらどうや?」


 話は変わって約7年前、園田競馬場のウイナーズサークルで公開プロポーズをしたのは大柿騎手。

 当時21歳。まだ重賞を勝ったことがありませんでした。

 そんな時、出会ったのがアスカリーブル。のちに南関東に移籍し、関東オークス(JpnII)などを制覇した名牝はこの時、デビューから無敗の3連勝で重賞・園田プリンセスカップに駒を進めました。

 大本命と目されている馬で重賞に出走する少し前、大柿騎手は兄弟子のような存在の北野真弘騎手(当時、現調教師)からこう言われました。

「重賞を勝ったら、そろそろプロポーズしたらどうや?」

 交際3年になる大好きな彼女に、なかなか真剣に気持ちを伝えられずにいた大柿騎手。

 公私共に慕っている北野騎手からの一言に背中を押され、もし重賞初制覇を果たすことができたら、ウイナーズサークルでプロポーズをしよう! と心に決めたのでした。

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▲園田の大柿一真騎手、「重賞を勝ったらプロポーズ」と一大決心


 彼女には「勝つかもしれへんから、応援に来てや」とあらかじめ伝え、重賞レースを大本命で迎えるプレッシャーと、その後にプロポーズをするプレッシャーの2つで緊張。

 レースは「早仕掛けやし、めちゃくちゃやった」と振り返りますが、執念で後続の追撃をクビ差振り切って重賞初制覇。ウイナーズサークルで勝利騎手インタビューの最後にこう切り出しました。

「個人的に言いたいことがあります。付き合って3年の彼女が来ています。これを勝ったらプロポーズをしようと思って、そういうつもりで頑張りました。えーっと、えーっと、僕で何ですが、僕と結婚してください」

 ファンに混じって立っていた彼女から「はい」と返事をもらい、プロポーズは成功したのでした。

人生の大きな決断をした2人の騎手のその後…


 2人の勇敢な男性のその後ですが、佐原騎手は先週末27日(金)、ディアマルコで兵庫サマークイーン賞(園田)を制覇。満面の笑みで「瑠衣の誕生日プレゼントに家を買ったんですが、賞金は家代金ですね」と言いながら高知へと帰っていきました。

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▲ディアマルコで兵庫サマークイーン賞(園田)を制覇した佐原騎手


 大柿騎手は入籍し、現在は2人のお子さんに恵まれています。今月22日には自身初となるJRA遠征をし、福島テレビオープンでピークトラムに騎乗し12着。

「JRAでは芝を走っていた馬(芝で6勝)ですが、返し馬の走りがダートの園田の時とは全然違って感動しました。3〜4コーナーで置かれてしまいましたが、58kgを背負いながら直線では伸びたので、今後もJRA遠征で芝を走ることがあれば楽しみです」

 ちなみに、騎手はまとまった休みが取れず旅行には滅多に行けませんが、この時は家族そろって福島へ行ったそうですよ。

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▲自身初のJRA遠征も経験し、公私共に順風満帆の大柿騎手


 競馬の世界では結婚や出産があると、その人が騎乗・担当する馬が好走すると言われます。守るべき存在ができることで、仕事へのモチベーションも上がるのでしょう。

 こちらまでハッピーになれるプロポーズ・エピソード。幸せのおすそ分け、ごちそうさまでした。

競馬リポーター。競馬番組のほか、UMAJOセミナー講師やイベントMCも務める。『優駿』『週刊競馬ブック』『Club JRA-Net CAFEブログ』などを執筆。小学5年生からJRAと地方競馬の二刀流。神戸市出身、ホームグラウンドは阪神・園田・栗東。特技は寝ることと馬名しりとり。

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