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ダイメイプリンセスとカルストンライトオの比較/アイビスサマーダッシュ

  • 2018年07月30日(月) 18時00分


◆超高速馬場の恩恵が大きかったことは否定できないが…

 土曜の芝2000mで,馬場改修直後の2001年に記録された破格の基準タイム(1分56秒4)に迫る「1分56秒6」が飛び出し、2歳新馬1400mで「1分21秒6」が記録されるなど、夏の開幕週の芝は高速コンディションだった。

 この1000m重賞は、史上2位タイの「53秒8」。カルストンライトオの樹立した2002年のJRAレコード「53秒7」に0秒1差まで迫るスピード記録が生まれた。

 どんなバランスで乗り切れば正解なのかがすっかり定着した最近6年の勝ち時計は、「54秒1〜54秒3」に集中していた。時計差の少ない直線1000mとはいえ、6年間も0秒2差の範囲内におさまるのは不思議だったが、今年の快時計は勝ったダイメイプリンセス(父キングヘイロー)の素晴らしい直線1000mへの適性によって生まれた。そこに、高速コンディションによるプラスも重なっている。

「53秒8」の快時計で、直線競馬3勝目をあげたダイメイプリンセス(撮影:下野雄規)


 (1)カルストンライトオのレコード、(2)今年のダイメイプリンセスの記録、(3)前6年の定型化していた平均記録。これを並べて今後のレース検討に役立てたい。

(1)『12秒00-09秒80-10秒20-09秒60-12秒10』=53秒70
(2)『11秒80-10秒00-10秒30-10秒10-11秒60』=53秒80
(3)『11秒83-10秒10-10秒52-10秒25-11秒48』=54秒18

 カルストンライトオは完成された2004年には、はるかにバランスの取れた(緩急の差が少ない)内容で、2勝目「53秒9」を記録しているが、馬場差はともかく、レコードはハロン「9秒台」が2回あれば、ハロン「12秒台」が2回もあるなど、破天荒なスピードの爆発がその真価だった。200mから800mまでの600mは実に「29秒6(ハロン平均9秒87)」となり、道中3ハロンの日本記録である。この迫力満点のスピード能力があったから、不良馬場で1分09秒9も要したスプリンターズSの勝ち馬にもなったのだ、とされた。

アイビスサマーダッシュを2勝、不良馬場のスプリンターズSも制したカルストンライトオ(撮影:下野雄規)


 このカルストンライトオの規格外のラップを含んだレコードと比較すると、今年のダイメイプリンセスの快記録は、(3)の前6年の定型化されていた平均パターンより、ふつうは息を入れたい3ハロン目で「0秒22」もきついラップをこなしはしたが、ほかのバランスはほぼ近年のパターン通り。今年、いつの年にも増して超高速だった芝コンディションの恩恵が大きかったことは否定できない。カルストンライトオのようにハロン差が「2秒5」もある乱暴な勝ち方ではなかった。

 とはいうものの、ダイメイプリンセスはこれで直線1000mの時計を出走するたびにどんどん短縮「56秒3→54秒9→53秒8」し、この距離【3-0-0-0】。今回も2着馬にこの距離では決定的な1馬身以上の差をつける完勝。それも前が狭くなり、かなり進路変更しつつだった。したがって、外枠だった利が大きいわけでもない。

 1000m3戦3勝はすべて秋山騎手とのコンビ。あたりの柔らかい秋山騎手は、自信を持っている馬では絶妙の騎乗をみせる新潟巧者。その本領がフルに生きた。また、1〜2着馬を基準にすると、今年のような超高速馬場を準備するなら、53秒7は更新されて不思議ないレコードとも思えた。

 2着ラブカンプー(父ショウナンカンプ、その父サクラバクシンオー。母の父マイネルラヴ)も、同じ森田直行厩舎の管理馬。ダイメイプリンセスでJRA重賞初勝利となった森田調教師の、1〜2着独占の直線1000mとなった。

 ラブカンプーは、51キロの3歳牝馬の秘める可能性が高速コンディションで全開した結果だった。直線1000mを好むデムーロ騎乗でも、ちょっと足りないのではないかと思えたが、前半の400mを21秒8で行き、後半600mを「32秒2」でまとめたから立派。デムーロ騎手が51キロで騎乗することなどまずないから、よほど惹かれるところがあったのだろう。ふつう、スプリンター同士の配合は不正解となる危険(スタミナ不足だけが浮き彫りになる)を伴うが、ラブカンプーはスプリンター系同士のスピード能力がプラスを生んだ血の爆発でもあった。

 こういう小型馬(今回424キロ)が直線1000mのアイビスサマーダッシュで快走した例はきわめて希で、過去17回の歴史の中で460キロ未満の馬が3着以内に入線したのは、2006年、51キロの3歳牝馬サチノスイーティーと、54キロの5歳牝馬レイズアンドコールのたった2頭だけ。ともに430キロ台だったが、あの年は、発表は良でも本当は直前のスコールで水びたしの不良馬場状態なので、軽量が味方していた。

 3着以下は、54秒2以上の走破時計であり、今年の高速馬場を考えると必ずしも高い評価はできない。この距離にしては1〜2着馬に差のある完敗だった。

 昨年、惜しい3着のレジーナフォルテに注目したが、昨年より0秒1短縮しただけの54秒3では完敗。枠順はあまり関係ないだろう。カラクレナイも、498キロのわりに少し小さく映ったあたり、絶好調でもなかったか。初の直線1000mとはいえ案外だった。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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