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大井競馬場の「的場DAY」で念願のマトTを

  • 2018年08月30日(木) 12時00分


 8月28日(火)、大井競馬場で、的場文男騎手の地方競馬最多勝記録更新を祝う「的場DAY」が実施された。

 最多勝新記録の数字と同じ、先着7152人にプレゼントされた記念Tシャツ「マトT」は、午後1時40分の開門から3時間ほどでなくなってしまった。開門時には4000人ほどのファンが列をつくるフィーバーぶりだった。

場内が的場文男騎手の騎手服と同じ赤地に白星の柄などで装飾された。


 この日の入場者数は1万1000人強。その4割近い人が開門前から並び、7割近くがマトTを受けとったことになる。さらに、競馬場の職員や売店の定員もマトTを着用していたのだから、「マト占有率」の高さがおわかりいただけるだろう。

 そんななか、やや出遅れたうえに、関係者入口から入った私は、マトTを受けとりそこねた。最初のうちは、着用している関係者に会うたびに「似合いますね」と冷やかしていたのだが、10分も経つと、着ていない私のほうがマイノリティであることを思い知らされ、寂しくなってきた。

関係者がみなマトTを着用するなか、アウェー感のある筆者。


 私は、20代のころ数年間、大井競馬場から徒歩10分ほどのところに住んでいた。今回、最多勝記録を記念した230(フミオ)円セールが行われている(30日まで)立会川龍馬通り繁栄会のすぐそばである。

 時間ができるとぶらりと歩き、始まってまもなかったトゥインクル競馬を楽しんだ。近隣住民として、商店街の幟や駐車場に停まったクルマや、その下で寝ているネコを日常の光景として眺めていたのと同じように、大井競馬場で風に舞う外れ馬券を見上げていた。

 そして、30代のときは、武豊騎手や千田輝彦調教師と毎年、年末年始、大井と友好交流提携しているサンタアニタパーク競馬場に行き、40代後半になると、1970年代から大井で実演されている相馬野馬追に通うようになったのだから、つくづく縁があるのだと思う。

 そんな私も、大井競馬場全体がこんなふうに、ひとりのために、ひとつの色やムードに満たされるのを見たのは初めてだった。

「今しかない場所にいること」というのは、それだけでいいものだ。

 今開催期間中、赤地に白星のロゴと「7,152」の文字が入った「的バ券」が売られており、私は、記念に持ち帰ろうと、的場騎手の単勝を買った。しかし、習慣とは恐ろしいもので、外れたら無意識のうちに捨ててしまった。自分でも心配になるのだが、それを2レースつづけてやってしまったので、最終レースのアサヒノマッチ(10着)の単勝を先に買い、財布の名刺を入れるスペースに押し込んだ。

 この日、的場騎手は、最初の騎乗となった第2レースを勝ったあとは、6、16、10、9、4、14、10着に終わった。場内くまなく自分の色に染まったなかでドカ勝ちすれば盛り上がっただろうが、7000勝や新記録の7152勝に近づいたときと同じように、プレッシャーがあったのか。

 新記録を達成したときは「カタくなった」と隠さず言った。そうして足踏みしながらも、最後には大記録を達成した。「常人」として私たちに共感させながら、「超人」としての職務を完遂する。それにより、好きなことを長くつづけることがいかに大きな力になるか教えてくれる--そんなところも「的場文男らしさ」ではないか。

ファンとハイタッチをしたり、サインをする的場騎手。


「的場DAY」に行われたレース名がまたよかった。第9レースは的場騎手の出身地にちなんで「大川市ふるさと大使賞」、第10レースは「レジェンド賞」、第11レースは「大井の帝王賞」。これらすべてに的場騎手は出ていたのだが、前述のとおり勝つことができず、それぞれ9、4、14着だった。3万回以上負けながら7000勝以上を積み上げてきたのが騎手・的場文男なのだ。

 第10レース終了後、ゴール前の賞典台で新記録達成の表彰式が行われた。そして、最終レース後には、抽選で当選した230(フミオ)人のファンとのフォトセッションが行われた。

「新記録を達成できたのは、ファンのみなさんのおかげです」と的場騎手は、どの挨拶でも繰り返す。何度も同じことを言うのは、心底そう思っているからだ。

最終レース後に行われたフォトセッション。花束を持つ的場騎手の隣に内田博幸騎手がいる。


 フォトセッションのサプライズゲストとして、大井に所属し地方通算3153勝を挙げ、2008年にJRAに移籍した内田博幸騎手が登場した。

「的場さんはファンのみなさんに愛されていますね。ぜひ、東京ダービーを獲る姿を見てみたいです」と内田騎手が祝福のスピーチをすると、場内がドッと沸いた。

 楽しい一日だった。

 取材章を返却し、帰路につこうとすると、寂しそうにしていた私に広報担当者がマトTをくれた。嬉しかった。が、問題は、これをいつ着るかだ。この稿がアップされる8月30日までに着て大井に行けば風景の一部となって溶け込めるだろうし、それ以外の場で着たら着たで、結構ウケるかもしれない。

 私は、もらったものは必ず使う。機会があれば、マトT着用レポートを書いてみたい。

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作家。1964年札幌生まれ。ノンフィクションや小説、エッセイなどを、Number、週刊ギャロップ、優駿ほかに寄稿。好きなアスリートは武豊と小林誠司。馬券は単複と馬連がほとんど。趣味は読書と読売巨人軍の応援。ワンフィンガーのビールで卒倒する下戸。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』など多数。『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』で2011年度JRA賞馬事文化賞、小説「下総御料牧場の春」で第26回さきがけ文学賞選奨を受賞。最新刊はテレビドラマ原作小説『絆〜走れ奇跡の子馬』。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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