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スローながらコースレコードに迫った2勝馬/紫苑S

  • 2018年09月10日(月) 18時00分


◆大舞台で活躍した父を彷彿とさせる快勝ぶり

 5歳牡馬ファインニードル(父アドマイヤムーン)が2連覇を達成し、スプリンターズSに王手をかけた阪神芝1200mのGII「セントウルS」も見事ながら、格上がり初戦の5歳牡馬ミッキーグローリー(父ディープインパクト)が、いきなり重賞勝ち馬となった中山芝1600mのGIII「京成杯AH」も鮮やかだった。こちらはマイルチャンピオンSに挑戦すると思われる。

 だが、今週もっとも光ったのは3歳牝馬ノームコア(父ハービンジャー)が中山芝2000mを独走したGIII「紫苑ステークス」だろう。開幕週とはいえ、コースレコードに0秒2差に迫る1分58秒0の快時計で圧勝。

 レコードは、2015年の中山金杯で記録された5歳牡馬ラブリーデイ(父キングカメハメハ)による「1分57秒8」であり、接近する快記録には2016年の皐月賞で記録されたディーマジェスティ(父ディープインパクト)の1分57秒9。2013年の皐月賞で記録されたロゴタイプ(父ローエングリン)の1分58秒0がある。

この4つのレースの高速バランスを並べると、
▽中山金杯…1分57秒8=「59秒4-58秒4」 上がり34秒8
▽16皐月賞…1分57秒9=「58秒4-59秒5」 上がり35秒6
▽13皐月賞…1分58秒0=「58秒0-60秒0」 上がり35秒9
▽紫苑S……1分58秒0=「60秒1-57秒9」 上がり34秒2

 時期も馬場コンディションも微妙に異なるが、これまでの3つの快時計は、レース全体の流れがきびしいハイペースか、もっとも時計が速くなるムリのない速めの平均ペースの際に記録されている。速いタイムが記録されるパターンに乗っての快時計だった。

 ところが、ノームコアの勝った今回の紫苑Sは、逆。近年のエアレーション作業の影響がある9月にしては、京成杯AHが1分31秒6の速い時計になった昨2017年、さらには好時計の出た今年の京成杯AHと同様にかなり速い時計が出るコンディションではあったが、明らかに「スロー」に属する流れで、ふつうは時計が速くなるペースではない。

 スローに近い前半「60秒1」で行って3着に粘ったランドネ(父ブレイム)が先導したあと、みんな余力があるからしだいしだいにピッチが上がり、後半の1000mは「11秒9-11秒8-11秒5-11秒5-11秒2」=57秒9となった。

 でもこれはレースラップであり、前半5番手の外でなだめて追走していたノームコア(C.ルメール)の前半1000m通過は「60秒8」と推定される。レースを再生してみると、そのままあまり動かず、残り600mあたりから前をとらえに出たノームコア自身の後半1000mの中身は「推定11秒9-11秒7-11秒3-11秒1-11秒2」=57秒2(上がり33秒6)である。

上がり33秒6で3馬身差と快勝したノームコア(撮影:下野雄規)


 コンマ1〜2秒の誤差はさして問題ではない。前半が楽な追走だったとはいえ、ノームコアは後半1000mをなんと57秒2で楽々と乗り切り、自身の上がりは「33秒6-11秒2」だったのである。とても2勝だけの3歳牝馬とは思えなかった。

 2歳7月の新馬(福島芝1800m)を、ヘッドストリームと競り合いながら前半1000m59秒9(この距離の新馬で60秒0以内はまれな記録)で通過。それでいながら二の脚を使って振り切り、1分49秒1で快勝したこの牝馬のスピード能力(スタミナ兼備)には素晴らしいものがあった。

 2連勝後に充電したあと、今春のフラワーC、フローラSを連続3着にとどまって路線には乗れなかったが、立て直し、鍛え直した今回の内容が秘めていた本当の能力ではないか、と考えたい。

 本格化した4歳夏(2010年)。好位でなだめて進み、最後の直線に向くと一気にスパートして愛ダービー馬ケープブランコ、英ダービー馬ワークフォースを大差で引きちぎり、Kジョージ6世&QエリザベスSを2分26秒78のコースレコードで独走したハービンジャー(父ダンシリ)の評価は、昨年あたりから大きく変化している。

 エ女王杯を勝ったモズカッチャン、マイルチャンピオンSを制したペルシアンナイト、昨年の紫苑S→秋華賞のディアドラ…など、3歳後半から本物になった馬は、父と同じようにビッグレース向きに成長するのである。とすると、この夏のブラストワンピース、そしてこのノームコアの今後はきわめて楽しみになる。

 3歳牝馬の秋華賞は、春のアーモンドアイ、ラッキーライラック…など、ぶっつけ本番組が多くなりそうなのも、ノームコアには有利だろう(ただ、秋華賞の際は、ルメール騎手とダブってしまうため鞍上は、まだ未定)。

 懸命に伸びて3馬身差の2着したマウレア(父ディープインパクト)は、入線後に武豊騎手が下馬。大きな故障ではなく、「左前肢ハ行」と診断された。しかし、秋華賞の優先出走権は確保したものの、かなりの不安を残すスタートとなってしまった。まず崩れない馬だけに体調(脚元)不安を解消したい。

 3着したランドネ(父ブレイムは、前出ハービンジャーがWサラブレッドランキング1位の2010年に2位)は、マイペースでよく粘ったが、大柄でパワータイプに近いと思えるので、全体にもっと時計がかかるコンディション向きか。

 キャリアの浅い新星候補として、サラス(父オルフェーヴル)、クイーングラス(父ルーラーシップ)が人気上位に支持されたが、どちらも前半スローの馬群に入ってスムーズではなかった。ましてレースの後半1000mが57秒9では、現時点ではスパートできない。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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