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ホースマンたちが震災とどう対峙したのか(村本浩平)

  • 2018年09月18日(火) 18時00分


◆大変な時でも朝早くから、馬たちの未来のために

 本来ならば、8月30日から9月2日まで行われた、キャロットクラブの募集馬見学ツアーの話を書こうと思っていた。しかし、9月6日の未明、胆振地方中東部を震源として発生した胆振東部地震を経験して、今、伝えるべきはあの震災の後で、ホースマンたちがこの震災とどう対峙したのか? という気がしてきた。本来取り上げるべきPOGの話とはかけ離れてしまうかもしれないが、ご一読いただければ幸いである。

 実は震災の当日、何事も無ければ厚真町にある、エスティファーム・厚真トレーニングセンターへ取材に行く予定だった。しかし、大きな揺れの後に間も無くして北海道全てがブラックアウトし、その後は度々起こる余震と、スマホの画面に映し出される被害の大きさにただ、唖然としていた。家の周りの信号機は全て消えており、日高に向かう高速道路だけでなく、震源地周辺の道路も通行止め。勿論、取材に行けるわけは無かったのだが、そうはいっても、何も伝え無いわけにはいかない。

 不要不急の連絡は避けたいと思いながらも、せめて、「大丈夫ですか?」の確認をしたく思い、外が明るくなってから何度も牧場にかけ直していた電話がようやく、繋がった。

「お忙しいところ、本当に申し訳ございません」

 と告げた後に名前を述べると、電話に出られた事務所の方は、まず、

「良かった…」

 と思いもしなかった言葉を告げてきた。返す言葉に詰まったのを理解したのか、その事務所の方は、地震の後に連絡を取りたくとも事務所の中がぐちゃぐちゃで、何も手に付けられなかったことを詫びてくれた。

 エスティファームの厚真トレーニングセンターがある厚真町は、この地震で震度7を記録している。牧場にもそれだけの揺れが襲ったことは間違い無い。にも関わらず、こちらの取材のことを少しでも考えていてくれたことが申し訳なくなり、

「取材はいつでもいいので、まずは身の安全を。何よりも皆さんと馬たちが無事であられることを祈っています」

 との言葉をかけることしかできなかった。

 その日の午後には、苫小牧市のノーザンファーム空港への取材も入れていたのだが、それも勿論中止。取材を予定していた厩舎長に、なるべく電気を使わないようにとショートメールでその連絡と、牧場スタッフや育成馬たちの様子を確認すると、

「みんな大丈夫です!」

 との言葉が返ってきてホッとした(6日の朝には、社台グループから「人馬共に大きな被害は出ていない」とのリリースがされている)。ブラックアウトは7日の午後から全道各地で解消され、筆者の自宅も8日の未明に電気が付いたものの、それでも被害の大きかった胆振や日高では、倒壊した電柱や電柱の復旧工事が行われなければ、それすら叶わないという状況でもあった。

 今回の地震で改めて思ったのだが、現代社会におけるライフラインで、最も重要なのは電気であり、その次は水であるということである。しかしながら揺れの酷かった厚真町や安平町では、場所によって水道管が破損しただけでなく、井戸水をくみ上げるためのポンプも停電で使えないという深刻な状況に陥っていたという(停電によりポンプが使えない影響は、長く停電が続いていた胆振地区、日高地区にも多大なる被害をもたらしている)。

 6日の夜、ノーザンファーム早来の旧知のスタッフと、ショートメールでやり取りすることがあった。スマートフォンの電気の残量を心配すると、車から充電しているから大丈夫、との返事がきた。

 そのスタッフの方は「今日、水が出たからかなり生活も楽になったかな。ただ、人間は水シャワーだよ」とジョークを交えながら現在の状況を伝えてくれた後で、「施設にはダメージも無かったし、水も確保できるようになったから明日から馬に乗るよ」との思ってもみなかった報告もしてくれた。

 この震災で管理方法の違いを感じ取った馬の中には、ストレスの影響とみられる馬体重の減少が出た馬もいたという。牧場によっては電気や水道の復旧も遅れ、馬たちの飲み水の確保にも苦労したと、知人のホースマンがFacebookに綴っていた。それでも目の前にいる馬たちにいくばくかの運動をさせるべく、電気が入っていないウォーキングマシンの中に人が入り、自らが動力源となって目の前の壁を何十分も押し続けたという話も聞いている。それだけに地震の2日後に馬に乗っているという話を聞いた時は驚きであり、改めて馬に携わっているホースマンたちの逞しさと、強さを感じずにはいられなかった。

 現在でも胆振や日高ではライフラインが復旧していない場所は多い。その近辺の牧場でもライフラインの全てが整うまで、かなりの時間を要したともいう。しかしながら、この大変な時でもホースマンたちは朝早くから、人によっては避難所から牧場へ通いながらでも、馬たちの未来のために働き続けている。

 今回の地震では来年にデビューする2歳馬たち、ひょっとしたら夜間放牧中に大きな揺れに遭った1歳馬や当歳馬たちなど、牧場の馬たちもまた被災していると言える。同規模の余震が起こる可能性が高いとされていた、大きな揺れからの1週間は過ぎたものの、自然災害はいつ起こるか分からない。それでも、被災地に住むホースマンたちがそんなことなど忘れて、当たり前に馬と向き合える日が来ることを、そして、馬たちも平穏無事に成長していけるようにと、ただ祈るばかりである。

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