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岡部幸雄さんのナビゲートの上手さに驚いたナーダム特番

  • 2018年10月04日(木) 12時00分
 先週の金曜日、有楽町の朝日ホールで行われたグリーンチャンネル特番「岡部フロンティア2018 モンゴル編 大草原の馬と人とナーダム・前編」の完成披露先行試写会に行ってきた。

 本稿がアップされるときには第1回の放送が終わっているので、ご覧になった方も多いと思う。

 モンゴルの雄大な自然と、ひとつのレースに200頭以上の馬が出走するナーダムの迫力にも圧倒されたが、それ以上に、岡部幸雄さんの番組ナビゲートの上手さに驚かされた。

 まず、チンギスハーン国際空港に降り立ち、モンゴルに足を踏み入れたシーンからして、何十年もカメラに撮られ慣れたスターのオーラを漂わせている。

 カメラを意識しすぎず、無視しすぎず、自然な動きとトークで視聴者を引き込む。

 市場を歩きながら、プロのリポーターかと思うほど巧みに雰囲気を描写し、それでいて、馬具を売っている店を見つけると、さりげなく「名手・岡部」の目の輝きを見せる。

 現地の調教師や、騎手として参加する子供たちとの掛け合いも絶妙だ。蹄鉄の重要性などのポイントを強調しながら、しっかり笑いもとる。

 そのスポーツの第一人者だった人で、これほど軽妙なトークで、関連行事(この場合はナーダム)の魅力を伝え、退屈させずに番組を進行できる人がどれだけいるだろう。

 現役時代の岡部さんのイメージが対極的だっただけに、試写会の間じゅうずっと、驚きながら感心していた。

「騎手・岡部幸雄」は、けっしてとっつきやすいタイプではなかった。質問に対する返答はひと言かふた言で、取材中、一度も笑顔を見せないことも珍しくなかった。

「酒席ではジョークもよく言う」と聞いたことはあったが、トレセンや競馬場での取材で酒を出すわけにはいかない。

 もうひとつ、よく言われていたのが「岡部さんにアメリカ競馬のネタを振ると、いろいろ話してくれる」ということだった。

 これは本当だった。20代前半だった1970年代初めから単身での遠征を繰り返し、「アメリカ西海岸で乗っていることが、キャリアの支えにもなっている」と話していたほど、岡部さんはアメリカ競馬を愛していた。

 私も90年から年に何度もアメリカの競馬場に行っていたので、岡部さんにインタビューするとき、ページの趣旨を説明する前に、西海岸のジョッキーの印象を述べたことがあった。

 すると岡部さんは「ああ、EDなんかと、よくそういう話をしましたよ」と笑顔を見せた。

 ――なぜここでEDの話題が……?

 と思っていたら、それは西海岸のトップジョッキーだったエディ・デラフーセイの頭文字であり、ニックネームのことだった。

 もちろん、この特番の見どころは、岡部さんのナビゲートぶりだけではない。

 レース中、クルマで出走馬と並走して撮影することを初めて許可され、その模様を岡部さんがリポートしている。ドローンを駆使した映像もスケールが大きく、美しい。

 プロデュースしたのは、私がナビゲーターをつとめた名牝ミラの特番、寺山修司没後30年特番などのプロデューサーでもあり、本稿にもたびたび登場するソブさんである。

 ナーダム特番の番組紹介ページなどで使われている、岡部さんがモンゴルの大地に立つ写真もソブさんの撮影だ。ほぼ毎週、ライフワークとして富士山の撮影に行っているソブさんのカメラの腕は、作品が写真展のポスターに使われるなど、プロ級だ。

 また私がらみでグリーンチャンネルの番組をやるとしたら、5年後、寺山修司の没後40年特番あたりだろうか。あるいは、「競馬界の不思議」を訪ねるシリーズなどはどうだろう。

 今知ったのだが、来週13日(土)にNHKのBSプレミアムで放送される西島秀俊さん主演のドラマ「マリオAIのゆくえ」のプロデューサーは、「絆〜走れ奇跡の子馬〜」のプロデューサーでもあったTさんだ。

 来月上梓する競馬ミステリーはレースシーンが多いのでドラマ化は難しいかもしれないが、ソブさんにもTさんにも送本しようと思う。

 いつもながら、最後は手前みそになってしまった。

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作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナーのポートレート撮影は桂伸也カメラマン。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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