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第10回ジョッキーベイビーズ(後編)、史上初の写真判定となった激戦を制したのは…

  • 2018年10月17日(水) 18時00分
生産地便り

表彰式での記念写真

優勝インタビューでは観客からどよめきの声も


 10月7日(日)。前日に続いてこの日も東京は大変な暑さであった。8人の代表選手と保護者は、午後2時半の集合時間まで思い思いに過ごすことになる。控室として東京競馬場メモリアルスタンド7階の来賓室(欅の間)が用意されており、そこを拠点にして競馬場内を見て歩いたり、レースを観戦したりする家族が多かった。

 レースを前にしての心境や、前日の練習を終えての感想、馬の印象などを1人ずつ聞いた。

 ワッソルメン・エミさんは「タムタムは、良く走ってくれるし、指示通りに動いてくれる馬です。脚を入れるとすぐ反応してくれます。レースは初めてなので、岡部幸雄さんやうみかぜホースファームの久野さん(同行してきた)からアドバイスを頂きました。ここのポニーは沖縄の馬と全然違います。沖縄の馬は友人になる馬、ですが、ここのポニーはレース用に仕上げられていますね」と語った。

 吉永梨乃さんは「ハショウボーイは乗りやすくて少しやんちゃです。姉が取れなかった1着を取りたいです。前日の練習では左に寄ってまっすぐに走らせられなかったので、本番ではまっすぐ走らせたいです。スタートをうまくして、馬に負担をかけないで乗りたい」と言った。

 岡航世君は「関西予選でエンベツクイーンはあまり調子が良くなかったのですが、実際に乗ってみたら、しっかり動いてくれる馬だと感じました。レースが楽しみです。将来は、身長が高くなってしまったので騎手は無理だと思い、高校から大学馬術部に進んで、競馬業界を目指したいです」と話していた。

 吉田夏希さんは「朝は7時に起床しました。前日の練習では、ゴットは少し動かしにくい馬かな、と感じましたが、スタート練習では芝の上をしっかり走ってくれました。体力のある馬みたいなので、それを生かして走りたい。左がいくぶん硬くて、右側に少しヨレる感じがあります」と冷静に分析していた。

 木村暁琉君は「ヒメは走りたくて走りたくて仕方ない感じです。前日練習では、角馬場で“暴走”されちゃいましたが、あれくらいは普通なので平気でした」と余裕の表情。137cm、30キロの恵まれた体格を生かして好勝負したいという強い気構えが窺えた。

 神馬壮琉君は「昨日は自宅に帰りました。今朝は、6時に乗馬センターに来て、いつものように、馬の手入れと馬房掃除などやりました。府中の乗馬スポーツ少年団員なのでいつもの土日と変わりません。銀次郎(騎乗馬)は小さくてがんばり屋さんです。スタートは大丈夫なので、頑張って追ってゴールを目指したいです」と話した。

 前年度のチャンピオン加藤雄真君は「よく寝られました。暑かったですね。作戦は、出たなりに馬の気持ちを殺さないように一生懸命追うだけです。栗姫は昨年よりも大人しくなっている印象です。ライバルですか?ヒメの木村暁琉君とか、岡君のエンベツクイーンとかも気になります」と他馬の動向にも注意を払っていた。

 藤原結美さんは「ちょっと馬(ドリームスター)を動かすのに苦労しました。本番が近いんですが、まぁ勝敗に関係なく、レースを楽しみたいと思っています」と淡々と話していた。

 午後2時半。前日と同じく、東京競馬場事務所に集合した8人の面々は、そこで勝負服に着替え、乗馬センターに移動し、さっそく馬装を始めた。前日よりも応援団が一挙に増えていて、前日には見られなかった人々が大勢集まってきている。

 岡部幸雄さんが来場し、恒例のゼッケン授与が行われる。いよいよ最後の練習開始。スタンド方向から時折、大きな歓声が聞こえてくるが、8人は黙々と練習を繰り返す。

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ゼッケン授与式の後のエール

 毎日王冠、そして最終レースが終わったのを確認し、4コーナー近くの入口まで移動する。誘導馬に乗る「サザエさん」が現れる。太陽が西に大きく傾き、もう少しで沈もうとしている頃、ビジョンがジョッキーベイビーズのことを伝える画面に変わる。

 長谷川雄啓さんのアナウンスとともに、8騎がサザエさんを先頭に馬場入りしてきた。

 外埒沿いをゆっくりとゴール方向に向かって進んでくる様子がビジョンに映し出される。1人ずつ8騎が紹介される。スタンドにはかなりの人々がまだ居残り、その様子を見守る。

 やがて8騎は折り返し、スタート位置の残り2ハロン地点まで戻った。いよいよスタート時刻が迫ってきた。毎度のことながら、ゴール板付近でカメラを構える私も、妙な緊張感に襲われる。

 スターターは府中乗馬スポーツ少年団の重久桃子団長。G1ファンファーレが鳴り響き、スタンドから拍手が起こる。8騎がほぼ揃ってスタートした。

 最初に飛び出したのは、内側のハショウボーイ・吉永梨乃さん。それを左に見ながら、中ほどより、ヒメ・木村暁琉君、栗姫・加藤雄真君が追いかける展開だ。

 ハショウボーイの脚色が良い。そのまま逃げ切れるかと思っていた矢先に、レース中盤を過ぎたあたりで、ヒメ・木村君、栗姫・加藤君が、ハショウボーイ・吉永さんに並び、そして、徐々にリードして行く。残り50m。完全にヒメ・木村君と栗姫・加藤君のマッチレースになった。ハショウボーイ・吉永さんも粘りを見せるが、少しずつ差がついて行く。ヒメと栗姫の2騎は、差したり差し返したりしながら、ぴったりと並んでゴール板を通過した、JB史上初めての「写真判定」であった。

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ゴール前のデッドヒート、史上初の写真判定に

 全くどっちが勝ったか分からない状況の中、ハナ差でヒメ・木村暁琉君が優勝と判明した。3着にはよく健闘したハショウボーイ・吉永梨乃さんが入った。4着以下は、かなりの大差がついた。

 表彰式。岡部幸雄さんから、まず敢闘賞が関東代表・神馬壮琉君に贈られた。「終始低い姿勢で馬を追っていましたね。綺麗な乗り方でした」という講評をもらい「嬉しいです。まさか敢闘賞を頂けるとは思っていませんでした」と神馬君が笑顔を見せた。

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敢闘賞の神馬壮琉君、後ろには岡部幸雄さんの姿も

 優勝した木村暁琉君には田中勝春騎手からカップが授与された。将来の夢について鈴木淑子さんからマイクを向けられた木村君は「凱旋門賞騎手です」と答え、ウイナーズサークルの周囲を埋め尽くした多くのファンからどよめきの声が上がった。

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表彰式での木村暁琉君、夢は凱旋門賞ジョッキーとのこと

 その後、8人は地下馬道から検量室前に移動。奥の小部屋でパトロールフィルムを見ながら岡部幸雄さんより解説を頂き、検量室前に並んでのインタビューと、慌ただしくスケジュールをこなした。

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検量室前に並んでの記念写真

 全馬、無事に完走できた第10回ジョッキーベイビーズは、とりあえず成功と言えるだろう。ただ、毎回、同じ点がどうしても気になる。400mの直線だけのレースながら、予想以上の大差がついてしまうことだ。JRAができるだけ能力差のないポニーを用意してくれていることは重々理解しているつもりだが、やはり本来がレース用に調教されているわけではないポニー(イベントなどで子供を乗せたりするのが目的である)を使ってのレースなので、毎回、まるで戦意を喪失したかのような走りになってしまう例が出てくるのが何とも残念に思う。

 体格、能力の問題というよりも、あるいはポニーの精神的な部分に原因があるのだろうか。普段走り慣れていない芝コースで400mのレースに出走するのは、ポニーにとっても結構消耗させられる「仕事」なのであろう。賢い動物なので、東京競馬場の芝コースに連れて来られただけで「またレースか」と分かってしまい、断固全力疾走を拒否するような馬が出てくるのは当然のことかも知れない。

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表彰式で握手を交わすエミさんと藤田菜七子騎手

 改めて能力差のない8頭(+α=予備馬)を揃えることの難しさを感じる。今年の優勝馬から8着までのあまりにも甚だしい着差を目の当たりにして、このことを考えさせられた。このイベントがこれから先も末永く続くことを強く願う気持ちはもちろん十二分にあり、何とか良い解決策がないものだろうか、と思ってばかりいる。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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