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【菊花賞】ディープインパクト産駒のワン・ツー決着

  • 2019年10月21日(月) 18時00分

ワールドプレミアの広がる可能性は大きい


 死してなお、その血の絶える日はない。ディープインパクト産駒のワン・ツーが決まった。ディープインパクト産駒(菊花賞3勝目)の、初の1-2着独占だった。

 良馬場発表ながら実際は稍重に近い馬場コンディションとはいえ、ワールドプレミアの3分06秒0(62秒4-62秒9-60秒7)は物足りない。だが、前年から2歳戦が誕生した1947年以降、今年を含めて73回、菊花賞前までのキャリア5戦馬が勝ったのは、2018年のフィエールマン(3戦)に次ぎ、4戦馬は0勝なので、1987年のサクラスターオー(5戦)と並び史上2位タイの少ない戦歴だった。

 今回は、神戸新聞杯時の激しい気負いをみせてイレ込みにも近い状態と比べると、だいぶまともだった。そこで、折り合いを優先し最後方まで下げた神戸新聞杯と違い、武豊騎手は無理に下げることなく、ヴェロックス(父ジャスタウェイ)などと同じ好位追走の形を取ることができた。これが勝利のもっとも大きな要因だろう。これで武豊騎手は史上最多の菊花賞5勝となった。16番人気で、希望的視点に立ってさえ苦戦と思われた横山典弘騎手の4着ディバインフォース(父ワークフォース)と同様、どの馬も未経験の長丁場3000mの菊花賞は、追える追えないではなく、ジョッキーの本質的な技量が大きな比重を占めるレースだった。

 来季に向けての一等星となったワールドプレミアに対してだから許されるだろう。日本の中-長距離のGIを圧倒的な内容で楽勝するくらいでないと、世界の頂点とされる凱旋門賞などのビッグレースを勝ち切れないことは、今秋の凱旋門賞で改めて突きつけられている(もう半世紀も前から)。驚異の快走を示した12番人気で5着の340kgの牝馬メロディーレーン(父オルフェーヴル、今回は負担重量6kg増)にも見劣りかねない上がり35秒8で、この小さな牝馬と0秒4差では、現時点ではとても意気上がるチャンピオンとは言えないだろう。

重賞レース回顧

来季に向けての一等星となったワールドプレミア


 とはいいながら、この浅いキャリアで菊花賞を制したワールドプレミアの、広がる可能性は大きい。衆目一致の良血馬が、いま好スタートを切ったところだった。

 2着サトノルークス(父ディープインパクト)は、2着したセントライト記念でもそうだったが、ワールドプレミアとはまったく好対照。落ち着き払って、早くも達観の域に達したかのような気配だった。毎年のように高額で取引されるリッスン(父Sadler's Wells)がようやく送り出した大物かもしれない。キチッと追ってプラス体重。これからが楽しみになった。

 断然人気のヴェロックス(父ジャスタウェイ)は、記録は0秒2の少差3着だが、あっけなく負けたあたり、評価が微妙になった。「気迫に乏しく、思われたほどの成長がないのか?距離がもたないのか?」人気で負けただけに、直後の記者たちの声は冷ややかだったが、父ジャスタウェイも、その父ハーツクライも、3歳秋の時点では無冠。まだエースではなかった。ヴェロックスも本当の底力をつけるのはこれからだろう。3冠「2着、3着、3着…」確かに与えるイメージは良くないが、古馬に向けての大事な出発レースで、まだまだ物足りないところを露呈しただけ。これから着実にパワーアップし、やがては世代を代表する古馬中−長距離路線のエースになりたい。

 日本のエース格の古馬中−長距離路線のトップは、ここ数年、たとえば凱旋門賞に挑戦した馬はオルフェーヴルが2着した12年を最後に、妙に浮かれているうちに【0-0-0-11】。世界のトップとの差は逆に広がっているのではないかという、非常に厳しい数字が記録されている。負け続けながら、3000−3200mのG1不要論を唱えたりする関係者もいるが、底力とスタミナがないから失速して負けている現実を、距離の問題にすり替えてはいけない。それは、凱旋門賞でゴール寸前に差し返して勝つようなチャンピオンを育ててからの、芝と距離体系に関しての視点である。

 16番人気で4着したディバインフォースも立派だったが、340kgの牝馬メロディーレーンの健闘は、今年の菊花賞で最高だった。血統図に登場するステイゴールド、メジロマックイーン、Montjeu(父Sadler's Wells)、Shirley Heights(父Mill Reef)の血の凝縮なのかもしれない。小柄な馬は「自身に及ぼすムダなスタミナロスも、抱える問題も少ないのだ」とされるが、それにしてもすごい快走だった。ゴール前グングン伸びて上がり最速タイの35秒7。もう少しで3着に届く勢いだった。

 人気のヒシゲッコウ(父ルーラーシップ)、ザダル(父トーセンラー)は、キャリア4戦が痛かった。フィエールマンを例外とすると、前記のように過去73年、4戦の戦歴で勝った馬はいないのだから、この凡走は資質の問題ではない。5戦のホウオウサーベル(父ハーツクライ)もほぼ同じ。頂点の菊花賞に挑むには、昨年のブラストワンピースと同じで、強い相手とのレース経験不足ということだろう。条件戦のあと、トライアルを使いたかった。

 C.ルメールを配したニシノデイジー(父ハービンジャー)は、落ち着き十分と見えなくもなかったが、初の関西への直前輸送が応えたのか、気迫が乏しく最初から置かれている。2歳夏からずっと厳しいレースに出走し、今回が10戦目。キャリアが生きると思えたが、逆にもっとも苦しい立場だったのかもしれない。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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