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撫恤競走を行うことの難しさ

  • 2020年09月12日(土) 12時00分

ダービー後に未勝利勝ちも目立つ近年の菊花賞馬


 先週の当コラムに、大昔の競馬で行われていた「撫恤(ぶじゅつ)競走」のことを書きました。今週はその続きです。

 まずはお詫びと訂正から。JRAの3歳未勝利戦に関連して、500頭を超える馬が未勝利、と書いたのですが、これには北海道入厩馬が含まれていませんでした。実際には先週の競馬を迎える時点で700頭以上が未勝利だったわけです。500頭以上というのは間違いではないものの、正確さを欠いていました。すみません。それにしても、先週の未勝利戦は、さらに厳しい闘いだったんですね。

 さて先週、現代版の「撫恤競走」はできないものか、なんていうことを書きました。でもその直後から、それは難しいだろうなと思い始めました。

 真っ先に考えたのが、馬房数の問題。700頭ほどの3歳馬が未勝利を抜け出せないでいるわけでしょう?それらの馬を対象に「撫恤競走」を実施するには、その分の馬房が必要になります。それを確保するのは、どう考えても難しいですよね。

 さらに、約700頭の3歳未勝利馬すべてが未勝利を脱出するまで「撫恤競走」を続けるなんていうことはできません。結局、どこかで“見切り”をつけなきゃいけないはず。夏競馬閉幕と同時に未勝利戦を終了するというのは、ある意味“理にかなった”スケジュールじゃないかと思うようになりました。

 はたして、夏競馬終了時点で未勝利の3歳馬の中に、後々大出世する馬はいるでしょうか?未勝利脱出に時間を要しながら大レースを制した馬といえば、2002年の菊花賞馬・ヒシミラクルを思い出します。

 同馬は2歳の8月、小倉の新馬戦でデビューしたものの、なかなか勝てず、初勝利を挙げたのはなんと10戦目。それは、3歳の5月26日、タニノギムレットが日本ダービーを制した日に行われた中京の未勝利戦でした。

 同馬をはじめ、最近の菊花賞馬の中には、未勝利脱出が遅かった馬がけっこういます。2008年のオウケンブルースリは6月8日、2010年のビッグウィークは7月10日、2014年のトーホウジャッカルは7月12日。各年の日本ダービーが終わった後に初勝利を挙げた馬でも、クラシックホースになれる、という好例です。

 とはいえ、さすがに8月の未勝利脱出では遅すぎるようです。クラシックは間に合わなくても、重賞の1つや2つくらいは取れるかもしれない?まぁそれを言い始めたらキリがなくなっちゃうんじゃないですか?

 ところで、今週の条件別登録馬一覧を見たら、3歳以上1勝クラスの馬は約2500頭いました。先週は2000頭ほどだったので激増しています。多くの3歳未勝利馬が1勝クラスに“残留”した結果でしょうね。

 秋競馬が開幕すると、すぐさまGIシリーズに突入し、そのまま年末の総決算にもつながっていくわけです。背筋を伸ばし、気持ちを切り替えて今後に望みたいと思います。

テレビ東京「ウイニング競馬」の実況を担当するフリーアナウンサー。中央だけでなく、地方、ばんえい、さらに海外にも精通する競馬通。著書には「矢野吉彦の世界競馬案内」など。

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