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国枝栄調教師 Part2 東西格差は坂路の差

  • 2007年08月22日(水) 14時00分
 他の調教師たちをはじめ、厩舎関係者でさえ「まさか、勝っちゃうとは」と驚きを隠さなかったピンクカメオのNHKマイルC制覇。“(桜花賞前に)栗東へ行って坂路で乗り込んでいた成果が今頃になって出たのかねぇ”という声が上がったりもした。

 国枝栄調教師は「たしかに状態は良かったけれども、肉体的に目に見える変化はなかったからね。まあ、『終わったあとならば何とでも言える』と言われちゃうからさ」と苦笑いを浮かべる。

 ただ、栗東へ滞在した理由について、「阪神は出張馬房が馬場に近く、ゲートの音も聞こえるから入れ込んじゃったりするんだ」と言う国枝師に、“坂路で鍛えることも考えていた?”と尋ねると、「もちろん」と答えが返ってくる。

 国枝師はこれまでJRAに対し「坂路を栗東と同じにしてほしい」と主張してきた1人である。

国枝栄調教師

 「効果は美浦も栗東も同じと言われるけれど、違いすぎるんだ。美浦の坂路は1000mに延長されたけれども、スタートしてから300mもフラットなんだよ。しかも、そこからの勾配は栗東と比べれば緩やか。それに、ゴールを過ぎてからすぐに下りになっている美浦では、スピードのついた馬が止まらずに暴走しているシーンや、騎乗者が無理矢理止めている姿も珍しくない。それに対して栗東は、ゴールしてからも上りが続くだけでなく、さらに急な角度となって自然に馬が止まる。どちらが馬に良いか、競馬を知らない人でもわかるよ」

 「ウチではテンから飛ばして行って、ゴールのかなり手前から減速するスタイルで一応の工夫はしているけれども、これも問題がないわけではないんだ。勾配が緩いから能力の高い馬であれば簡単に上れてしまって鍛えることができない。そこで、テンから行かせ続けたらどうなるかわかるだろ? 騎乗者の指示を無視してテンから行っても坂を上れちゃうんだからさ。それは行くクセがついちゃうよ。でも、栗東の坂路は勾配もきつく、スタートで引っ掛かって行ってしまっても、最後は苦しくて上れないことを馬が知っているから行かなくなる。実際、何頭も栗東へ連れて行ってるけれど、いや本当に違いは大きいんだよ」

 改修されてからも、現場ではその効果について“やはり違う”という声が挙がっている。それなのに、なぜ同じモノにしようとしないのか。一方では、ポリトラックコースを新設する資金があるのに、である…

 ところで、そもそも“坂路”がなぜ良いモノなのか国枝師に聞いてみると…

 「基本的に馬の体重は前脚に多く掛かっているんだよ。当然、平地を走れば前脚の負担も大きくなる。それを坂路なら前脚の負担を軽減しながら、平地と同じ効果が求められるんだから。平地よりも故障の可能性は低くなるし、ぶちゃけて言えば、素人さんが乗っても勝手に馬が仕上がっていく。つまり、簡単で、誰でも高い効果を得られるのが坂路なんだ」

 師の趣味であるゴルフのドライバーに例えて、「誰だって簡単に遠くへ飛ばせる方が良いだろ。それが馬で言えば、栗東の坂路なんだよ」と力を込める。

 西高東低の要因とされる“坂路の違い”。実際、関西の騎手たちでさえ「助手は関東の方が乗れる」という言葉が逆に指揮官の言葉を裏付ける。

Part3は8/29に公開します。

国枝栄(くにえだ さかえ) 美浦所属
 昭和53年から調教助手(美浦・山崎彰義厩舎)として活躍し、平成元年から美浦トレーニングセンターの調教師となる。GI勝ちは、ブラックホークで99年スプリンターズS、01年安田記念、ピンクカメオで07年NHKマイルC。04年から06年まで3年連続して優秀調教師賞を受賞している美浦の名伯楽。

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